規定の溝深さがあれば車検は通るけれど、ゴムの劣化を避けることはできない
アジアンタイヤ、国産タイヤ、欧米のブランドタイヤ……タイヤのブランドは多々存在しているし、その種類もエコタイヤ、スポーツタイヤ、スタッドレスタイヤ、オールシーズンタイヤと様々だ。ただし、いずれにしてもゴムを主体にスチールベルトなどで剛性を高めたラジアルタイヤが主流なのは変わらない。
さて、タイヤといえばクルマに使われている部品としては目に見えて劣化がわかる数少ないパーツである。タイヤの溝深さが一定以上(乗用車で1.6mm)あることが保安基準で求められているため、溝が少なくなったタイヤでは車検を通すことができない。その目安としてスリップサインというものがタイヤには設けられている。ちなみに、
では、溝の深ささえあれば、どんなに古いタイヤでも安心して乗れるのかといえば、それも間違いだ。
引き出しのなかで見つけた古い輪ゴムが硬化していて、ポキリと折れてしまったという経験をしている人も多いだろう。このようにゴム製品というのは経年劣化によって弾力性を失ってしまう。タイヤが路面を掴むことができるのは、その弾力性による部分が大きく、古いタイヤはとくにトレッド面で路面を掴む力が大きく落ちているため、本来の性能を発揮することはできなくなっている。つまりタイヤにも寿命はある。
では、その目安は何年くらいなのか。
そこについては、求める性能によるという身も蓋もない回答になってしまう。
たとえば一般ユーザーが公道で使うようなハイグリップ系のスポーツタイヤの場合、本来の性能を味わうことができるのは、せいぜい2~3年と考えておくといいだろう。サーキット走行をするとなれば、そのスパンはグッと短くなる。
またスタッドレスタイヤのようにトレッドゴムの弾力性によって凍結路でのグリップを生み出しているタイヤは冬季だけに使用していたとしても、期待できる性能を発揮するのは5~6シーズンがせいぜいと言われている。まして夏場も履きっぱなしのような使い方をしていると、やはり2~3年で寿命となってしまう。
なお、スタッドレスタイヤの場合は、スリップサインではなく「プラットフォーム」と呼ばれる印が溝の何箇所かに設けられている。これは溝深さが50%になると表れるもので、プラットフォームが出てきた状態は、冬用タイヤとしては満足な性能を発揮できないという目印となっている。
それでは、スポーツラジアルでも、スタッドレスでもない多くのクルマに標準装着されているような“普通のタイヤ”の寿命はどれほどなのか。ゴム製品であり、タイヤは生ものといった考えからすると、たとえ溝深さがそれなりにあったとしても5~6年で交換するのが理想というのは建前だし、本来の性能を求めるのであれば3年程度で交換すると、クルマの走りが見違えるほど変わるのが実感できるだろう。
とはいえ、タイヤというのは安いものではなく、できればギリギリまで使いたいもの。あまり推奨できる話ではないということで、匿名を理由に某タイヤメーカーのエンジニア氏に伺ったところ、それでも「10年が限界ではないでしょうか」ということだ。
いずれにしても、何年使えるというのは溝深さが残っているくらいの走行距離のクルマであることが大前提。10年もつというなら何十万kmも走れる、という意味ではない。
昨今、乗用車の年間走行距離は短い傾向にあり、タイヤ交換のきっかけが溝深さではなく、経年劣化を考慮したほうがいいケースも増えているというが、タイヤの美味しい時期を使いたいなら、距離を走って2~3年に一度タイヤ交換をするくらいのほうがベターといえるのかもしれない。
ちなみにタイヤの製造時期というのは、サイドウォールの楕円で囲まれた部分に4桁の数字で表記されていることが一般的だ。四桁の数字の見方は、最初の2桁が製造週で、つづく2桁が製造年となっている。つまり「4410」となっていれば2010年の44週に作られたタイヤであることを意味する。タイヤの寿命を考える際には、まず愛車のタイヤ製造年のチェックからはじめるといいだろう。