海外で熟成を重ねたのち、e-POWER専用車として日本投入を果たし、ジュークの後継車としての責務を任されたニッサン・キックス。ノート、セレナに次ぐ3番目のe-POWER搭載車となるが、パワーユニットは洗練され、手堅いコンパクトSUVとしての魅力を帯びている。
走りの質感はプレミアムクラスにも迫る
2016年8月、ブラジルでの発売を皮切りに、キシコ、チリ、UAEとマーケットを広げてきた世界戦略車、ニッサン・キックス。コンパクトクラスに位置づけられるこのセグメントのパイオニアは、国内ブランドに限定すれば2010年に発売したニッサン・ジュークであり、2013年にホンダ・ヴェゼル、2016年にトヨタC-HRと続くことでシェアが拡大されてきた。SUV全体のマーケットは、10年前と比べると今や3倍以上になっているとのことだが、先鞭をつけたニッサンの役割は実に大きい。
そのジュークの生産終了がアナウンスされて、実質の後継車となるのがキックス(P15型)である。すでに2016年に海外で発売されていた同モデルを2020年に日本投入するにあたり、e-POWER専用車種という逆ローカライズとも言える手法で、フレッシュさを纏ってリリースされたのだ。
パワーユニットはノート比で最高出力は109psから129psへ、最大トルクは254Nmから260Nmへとアップ。特に出力アップは中高速域での軽快感に直結しているだろう。
エクステリアデザインを眺めると、フロントのVモーショングリルやLEDシグネチャーランプなど、ニッサンの新しいデザインランゲージが存在感を放っているが、新型クロスオーバーEVのニッサン・アリアのヴィジュアルが公開された今となっては、見た目的に新しい印象は薄い。しかし車内に入ると、このモデルの魅力のひとつが手堅さであることに気づかされる。
試乗車は2トーン・インテリア・エディションで、エクステリアカラーのプレミアムホライゾンオレンジ×ピュアブラックに合わせて、インテリアにはオレンジタンを使用。
試乗車は「2トーン・インテリア・エディション」で、オレンジタンとブラックの本革が採用され、インパネ埋め込み式の9インチ大型ディスプレーやシンプルな造形のe-POWER専用シフトノブなどが、ミニマリズム的な質の良さを物語る。20〜30代の世代ならば、きっと“オシャレ”という言葉でこれを表現するだろう。
また、後席空間もキックアップしている割にはニールームやヘッドスペースに十分な広さが確保されていて、ウィンドーからの見晴らしも良い。長手方向に900mmあるラゲッジルームは、Mサイズのスーツケースを4つ飲み込めて、天井まで目いっぱい荷物を積み込んでも後方の視界を損なわないために、最新の「インテリジェントルームミラー」のオプション装備が可能。この辺りもユーザーにとっては嬉しい選択となるはずだ。
ラゲッジスペース容量は通常時で423Lを確保。
パワーユニットはノート、セレナに次ぐ3番目のe-POWER搭載車となるが、走り出すとキックスに寄り添った適正化が行われていることに気づかされる。エンジンで発電して電気で走るわけだが、トルクの立ち上がりが素早くSUVに期待されるパワフルさは十分で、高速道路のランプウェイなどで物足りなさを感じることはない。また、中高速域でのクルーズがこのパワーユニットの本領と思われ、軽快でスムーズな走りを味わうことができる。このあたりの理由は、今までのe-POWERはバッテリーに電気を蓄えることに主眼を置いたシステムだったが、キックスでは車速を重視する発電方法に切り替えたことで、軽快感を手に入れることができたそうだが、仮に内燃機関による駆動でキックスと同等の走行フィールを与えるとなれば、欧州プレミアムの仕事を持ってして為せる質感……と思えるくらい上質だ。
プロパイロット、SOSコールなど、先進の運転支援システムを搭載。骨盤を支えて安定した姿勢を保てるスパイナルサポートシートが採用され、ロングドライブでの疲れを軽減。
また、高剛性構造が採用されたサスペンションメンバーや大径化されたショックアブソーバーが路面からの入力を巧みにいなし、目線のブレや振動に苛まれることなくドライブすることもできた。以前、ノートe-POWERに乗った時、低速時にペダルから足をすっと離すと、クルマが前につんのめる感覚が個人的には苦手だったが、キックスはサスペンションと協調しながら上手な減速を披露してくれ不快感もゼロだった。
十分に煮詰められたキックス。少し遅い登板でも、ユーザーの満足度は高い一台と言えるだろう。
サスペンションメンバーを高剛性構造とし、ショックアブソーバーの大径化など、足回りはノートと比較すると大幅な補強が行なわれた。