2020年7月13日に発表、2021年モデルとしてアメリカで予約を開始した新しいSUV、「新型フォード・ブロンコ」。クロスカントリーSUVを「RV」「ヨンク」などと呼んでいた時代の4輪駆動車のような、無骨でタフさが溢れるイメージは、オンロード重視の高級・高性能SUVがごく一般的になった現在では、むしろ新鮮に見える。そしてシンプルかつ高い機能性を具現化したようなデザインは、1966年登場の初代ブロンコを彷彿とさせる。
日本でも、すでに一部で話題になっているこの新型ブロンコは「6代目」を襲名するのだが、「そういえば初代以外の、2代目から5代目ってどんなの?」と思った人も多いだろう。そこで今回は、これまでのブロンコを遡ってみたい。
現在も高い人気を誇る初代ブロンコは、1966年に誕生
アメリカでは戦後間もない時期から、戦争で活躍したジープの民生版であるCJ(Civilian Jeep)シリーズが発売されていた。1954年から製造の「CJ-5」は、それまでのCJで最も成功した車種となったが、1961年、トラクターメーカーのインターナショナル・ハーベスターが発売した商用ピックアップの「スカウト」は、それを上回る人気を獲得した。その理由は、ジープよりはるかに乗用車然としたデザインと居住性から、レジャー用のレクリエーショナル・ヴィークル=RVとして市場が着目したことによる。
それを受けビッグ3は、早速、CJ-5とスカウトに対抗するライバル車を投入していった。まず動いたのはフォードで、1966年に「ブロンコ」の発売を開始。3年後にGMは「シボレー・ブレイザー(K5)」を、遅れて1972年になってクライスラーは「ダッヂ・ラムチャージャー(プリムス・トレイルダスター)」を登場させた。
ブロンコは全長約3.8m、ホイールベース2.3mほどの、とてもコンパクトな4輪駆動車だった。ラダーフレーム+副変速機という設計は、4WD車としては常識的なメカニズムだったが、スカウトを強く意識した、凝ったボディデザインを持っていた。シャーシはブロンコ用に開発した専用設計で、発売当初は、屋根なし・ドアなしの「ロードスター」、これに屋根を載せた「2ドアワゴン」、そして前席部分だけ屋根を持つピックアップを設定。エンジンは2.8L直6を載せていた。
ブロンコはレジャー・レクリエーション・オンロード用として人気を博し、1967年にはワゴンにスポーツパッケージのオプション設定も行っている。しかし1969年登場のシボレー・ブレイザー(K5)は、一回り以上大きな車体、はるかに強力なV8エンジンを積み、また乗用車的な装備・快適性も増していた。そのためブロンコも、1972年に最上級版として内外装を装った「レンジャー」を設定、さらにその後4.7Lもしくは4.9LのV8を搭載して対抗したが、ブロンコのフォロワーとして相次いで登場したK5ブレイザーとラムチャージャーの大きさが、アメリカにおけるRVの標準サイズに移行したため、コンパクトなブロンコで戦うのは難しくなっていた。
2代目からはピックアップの「Fシリーズ」の兄弟モデルになって大型化
1978年イヤーモデルから、ブロンコは2代目に。独立した車種から、ピックアップトラックFシリーズの「F-100」を短くした兄弟車となり、ボディパネルを含め多くのパーツを共用するようになった。そのため車体は一気に全長約4.6m、全幅に至っては2mを超えるほど大型化して、待望の5.8L/6.6L V8エンジンも搭載された。これは、ブロンコもようやくフルサイズ4WDの後発組と対等に戦えることを意味していた。
大きな車体とエンジン、さらに快適性を得た2代目ブロンコの販売は好調で、わずか2年のモデルライフながら販売台数は約18万台に達し、ライバルたちに一矢報いている。
フルモデルチェンジを受けて3代目に 同時期、小型版の「ブロンコII」が派生
2代目以降、Fシリーズ・F-100の兄弟車となったブロンコは、フルモデルチェンジのタイミングもFシリーズに合わせて行われるようになった。そのためFシリーズが7代目になった1980年、ブロンコも3代目へとスイッチしている。4代目F-100の途中、1965年から改良しつつ使い続けてきたシャーシとボディは、7代目Fシリーズでようやく全面刷新しており、ブロンコも近代的な設計とデザインを手に入れることになった。従来通りF-100とフロントドアから前を共用する3代目ブロンコは、こちらもこれまでと同じくリアに樹脂製のハードトップルーフを載せた3ドアワゴンのみを用意。エンジンは4.9L直6、4.9L/5.8LのV8を搭載していた。
ところで、2代目ブロンコがフルサイズに移行したことで、フォードでは初代ブロンコのクラスに穴が空いてしまっていた。そこで1983年、コンパクトピックアップ(コンパクトと言っても、アメリカでトヨタ・ハイラックスなどと同じサイズ)の「レンジャー」をベースにしたSUV、その名も「ブロンコII」を発売している。車名はブロンコだが出自が異なるため、“ブロンコ本家” との関連性はない。
3代目ブロンコをブラッシュアップし続けた、4代目・5代目
4代目ブロンコは1987年に発売を開始した。むろん、同じタイミングでFシリーズも新型が登場している。しかしこの代替わりは、いわゆる「ビッグマイナーチェンジ」で、基本的には3代目をキャリーオーバーしつつ、内外装の近代化やエンジンの性能向上が図られていた。そのため、ボディ形状はブロンコの伝統? ともいえる3ドアワゴンのみだった。
ブロンコは1991年に5代目に進化したが、このモデルチェンジも基本的な中身は3代目→4代目の引き継ぎで、さらに時代に合わせて改良したモデルにとどまった。いうまでもなく、Fシリーズピックアップも同時にモデルチェンジして、9代目を数えている。大きな変化は外観で、2段式のヘッドライトと大きなグリルが目を引くが、キャブ部分は1980年登場の3代目のままなので、いささかアンバランスなスタイルに。5代目ブロンコは1996年まで製造されたが、6代目は現れないまま、ブロンコの名前はフォードのカタログからいったんドロップすることになった。
そして2020年、24年ぶりにブロンコが復活
1996年の生産終了でブロンコの火は消えたかと思われたが、2004年のデトロイトモーターショーに、フォードは「ブロンコ・コンセプト」を出品した。あくまでもデザイン・スタディであったが、初代ブロンコをイメージさせるデザインは魅力的だった。ボディサイズも2代目以降のフルサイズではなく、初代に立ち返ったようなコンパクトSUVとして企画されており、初代ブロンコ的なモデルの復活を期待させた。
そしてついに2020年、24年ぶりにブロンコが帰ってきた。2灯式の丸いヘッドライトと四角いグリル、シンプルなボディと窓のグラフィックスは、初代ブロンコを彷彿とさせるだけでなく、車格も初代以来のコンパクトSUVに復帰。タフでワイルド、道具感に溢れた雰囲気も魅力的だ。しかも新型では、ブロンコ初のリアドア付きボディも用意されることになっている。
コンパクトな新型ブロンコは、ライバルの「ジープ・ラングラー」同様に、日本で発売したら人気が出ると思われるが、残念ながら2016年に日本市場からフォードが撤退しているため、ブロンコは正規輸入の予定がなく、フォードの再参入も計画が見られない。この魅力的なアメリカンSUV・ブロンコを契機に、再びフォードが日本に戻ってくることを大いに願いたい。
この記事を書いた人
1971年生まれ。東京都在住。小さい頃からカーデザイナーに憧れ、文系大学を卒業するもカーデザイン専門学校に再入学。自動車メーカー系レース部門の会社でカーデザイナー/モデラーとして勤務。その後数社でデザイナー/ディレクターとして働き、独立してイラストレーター/ライターとなった。現在自動車雑誌、男性誌などで多数連載を持つ。イラストは基本的にアナログで、デザイナー時代に愛用したコピックマーカーを用いる。自動車全般に膨大な知識を持つが、中でも大衆車、実用車、商用車を好み、フランス車には特に詳しい。
■関連記事
- 2026シーズンからアウディとして参戦するF1ザウバーチームのファミリーデーに参加。ファクトリー見学は大興奮でした!【池ノ内ミドリのジャーマン日記】
- ミストサウナにトイレ、そしてライトキャンパーへの移行などなど、キャンピングカー市場の最前線を追う!【連載 桃田健史の突撃!キャンパーライフ「コンちゃんと一緒」】
関連記事
購入したら横浜みなとみらいにドライブに行ってみたい! 黒木美珠の輸入車デビューへの道「MINIクーパーS」編
コラム
2024.10.13
9月なのに降雪に見舞われてクラブのメンバーは大興奮!「BMW Club Japan」創立60周年記念ツアーリポートその②【池ノ内ミドリのジャーマン日記】
コラム
2024.10.11
M GmbHやアルピナ本社などBMW聖地巡礼の旅へ! 「BMW Club Japan」創立60周年記念ツアーリポートその①【池ノ内ミドリのジャーマン日記】
コラム
2024.10.01
FCバイエルンミュンヘンの選手はアウディのe-tronでスタジアム入り!駐車場には充電施設も完備【池ノ内ミドリのジャーマン日記】
コラム
2024.09.12
愛車の売却、なんとなく下取りにしてませんか?
複数社を比較して、最高値で売却しよう!
車を乗り換える際、今乗っている愛車はどうしていますか? 販売店に言われるがまま下取りに出してしまったらもったいないかも。 1 社だけに査定を依頼せず、複数社に査定してもらい最高値での売却を目 指しましょう。
手間は少なく!売値は高く!楽に最高値で愛車を売却しましょう!
一括査定でよくある最も嫌なものが「何社もの買取店からの一斉営業電話」。 MOTA 車買取は、この営業不特定多数の業者からの大量電話をなくした画期的なサービスです。 最大20 社の査定額がネット上でわかるうえに、高値の3 社だけと交渉で きるので、過剰な営業電話はありません!
【無料】 MOTA車買取の査定依頼はこちら >>