60余年にわたり培ってきた技術、そして誇りは電動化を主眼に置いた未来へと受け継がれる
6月2日、ベントレー・モーターズは、長らく同社の主力モデルに搭載されてきた6.75L V型8気筒エンジンの生産を終了したことを報じた。このエンジンを積む最後のモデルは、30台生産される特別限定車「ミュルザンヌ・スピード6.75エディション」だ。
同社の6.75Lエンジンは1959年にLシリーズエンジンとして誕生。元々は1950年代にそれまでの直列6気筒エンジン変わるものとして、同社のエンジニアリングチームによって設計され、1969年に登場したベントレーS2に搭載。最高出力は約180bhp(約182ps)を発生した。
その後、継続的に設計が見直され、ターボチャージャーを最初はシングルで装備し、のちにツイン化。さらに電子制御システムや燃料噴射システムの可変バルブタイミング機構の誕生に合わせて着実に進化を果たしてきた。そして、この6.75Lユニットを最後に搭載することになったミュルザンヌ・スピードでは530bhp(537ps)を発揮するまでに進化。最終的に1100Nmをマークするに至ったこのエンジンの豊かなトルクは、ベントレー車をよく知るファンやオーナーに広く認知されている「トルクの波」を定義するユニークな特性として語り継がれている。
これまで生産された3万6000基の6.75Lエンジンは、ベントレー・モーターズ本社のある英国クルー工場のエンジンワークショップでハンドビルドされてきた。現在のエンジンでも、製造には1基あたり15時間を要する。完成後に十分なテストを実施し、同社のエンジンスペシャリストのサインを書き入れたプレートをエンジンの前面に貼り付け、車体へと搭載されるプロセスは、何十年も続けられてきた同社の誇り高きルーティンである。
同社で製造担当役員を務めるピーター・ボッシュは、次のようにコメントしている。
「私たちの由緒ある6.75L V8は、60年以上にわたってベントレーの主力モデルに動力を供給し、このたび引退しました。私は長年にわたって、このエンジンのすべてを細心の注意を払って手作業で組み立ててきた熟練した職人の世代をとても誇りに思っています。このエンジンが長らく採用されてきたことは、いつの時代も進化を重ね、強力で洗練された信頼性の高いものにし続けてきた独創的なエンジニアの証です。いま私たちは、卓越した6L W型12気筒、スポーティな4L V型8気筒、そして電動化の旅の始まりを示す効率的なV6ハイブリッドを搭載したベントレー車の未来を、とても楽しみにしています」
ミュルザンヌ・スピード6.75エディションが限定台数となる30台生産されると、これまで担ってきたフラッグシップサルーンのポジションは、新型フライングスパーに託される。2023年までに、新型フライングスパーにハイブリッドパワートレインを搭載する同社の取り組みは、ベントレーの新たな変革に向けて、持続可能なラグジュアリーモビリティの未来を定義するその旅の象徴になるという。なお、同社ではすでに、ベンテイガにハイブリッドパワートレインを搭載しており、電動化に向けたステップを踏み出している。