アストン初のSUVをオマーンの砂漠で試す
昨今のSUV人気とアストン・マーティンのブランド力があれば、そこそこの完成度でも十分にヒットしただろう。しかし、チーフエンジニアのマット・ベッカー率いる技術陣は、既存モデルを遥かに凌駕する総合性能のラグジャリーSUVを作り出すべく、いまも懸命の努力を続けている。中東オマーンで行なわれたDBXプロトタイプの試乗会に参加して、私はいまそう確信している。
「SUVに求められる性能の幅広さは、私たちがこれまで手がけてきたスポーツカーやグランドツアラーとは比べものにならないくらい幅広いものです」
試乗に先立って、ベッカーはそう語り始めた。
「優れた走行性能が求められるのはもちろんのこと、家族と出かけるのにも使われるのですから居住性も重要ですし、車内での会話を考えれば静粛性も大切です。荷室にも余裕が必要ですし、トレーラーを引く牽引能力も重要です」
ライバルを徹底的に調査した技術陣は、パワーユニットに定評あるメルセデスAMGのV8 4Lツインターボをチョイスする一方で、ボディはアストン・マーティン自慢のボンデッド・アルミニウム工法を用いてゼロから開発。これにアストンらしい美しいエクステリアをまとわせた。
私が試乗したのはあくまでも開発途上のプロトタイプだったが、それでもボディの剛性感、クルマ全体から得られる一体感は既存のSUVでは得られなかったレベル。前輪の接地状態がありのままに伝わってくるステアリングフィールにも深い感銘を受けた。
さらに驚くべきは、そうした走りへのこだわりと快適性が、きわめて高いレベルで融合している点にあった。たとえば、サスペンション・コンプライアンスは極端に小さいのに、路面からのショックは見事に吸収されて乗り心地は快適。しかもロードノイズは十分に小さい。それが舗装されたオンロードだけでなく、砂利を敷き詰めたようなオフロードでも実現されていたのだ。ちなみに、今回は極端に滑りやすい泥濘地などを走るチャンスはなかったが、固く引き締まったダート路でもリアのスタビリティは高く、安心してステアリングを握っていられた。
DBXは生半可に作られたSUVではない。その完成度はSUV界の序列を打ち崩しかねないほどのインパクトを有してそうだ。
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