リアルスポーツらしい刺激に満ちたGT53
外観からの想像では、GT4ドアクーペの室内スペースの広さは期待できそうにない。ところが、大柄な筆者が前席で最適な運転姿勢を選び直後の席に移っても、膝の前には握りこぶしが横に入るだけの余裕がある。頭上スペースの狭さも感じない。ただ、サイドウインドーが小さいので体格によっては横方向の視界が遮られる。
試乗車のGT53は、3Lの直列6気筒に電動スーパーチャージャーとターボチャージャーを組み合わせ、回転域を問わず期待通りの力強さが立ち上がる。
エンジン音も中回転域までは鼓動感があるので、加速の勢いが感覚的にも増幅される。さらに、4500rpm以上になるとレーシングエンジンのような硬質感がある機械音が重なり、6500rpmまで一気に吹け上がる。なおかつ、走行モードをスポーツ+にするとエンジン音のボリュームが増し、シフトアップではババッ、アクセルを戻すとバリバリッという破裂音が響く。それだけに、演出としてはM850iよりも過激だ。
操縦性についても同様であり、ステアリングの切れ味はかなり鋭い。オプションのAMGリア・アクスルステアリングを装備していたことも手伝い、100km/hまで逆位相で操舵されるのでコーナーにスバッと飛び込んでいける。それでいてサスペンションがガチガチに引き締められているわけではなく、突き上げなどの不快な乗り心地をともなうことはない。欲をいえば、ロードノイズのボリュームを少し低くしたいところだ。
A7スポーツバックは、M850iやGT53から乗り換えると完全なサルーンカーとしての走りが実感できる。3LのV型6気筒ターボエンジンは最大トルク500Nmを発揮するものの、それを際立たせるスポーティな演出がないのでフル加速をしても上質感が維持される。ただ、ドライバーズカーとしては刺激が物足りないと感じてしまう可能性はある。
それでも、ステアリング操作に対する応答性は軽快だ。ノーズがスッとコーナーのイン側を向くだけに、山岳路を駆けぬけるひとときが楽しくなる。ボディのムダな動きも抑えられ、走行モードがコンフォートのままでもフワつきやGT53で感じた直進状態での左右のタイヤに不連続な入力がある場合の頭の横揺れとは無縁でいられる。つまり、A7は軽快かつ快適な走りが実現されているわけだ。
さらに、ロードノイズのボリュームも同行のモデルではもっとも低い。室内スペースも広く、後席での足下や頭上の余裕はA6と比べても大きな違いはない。サイドウインドーも大きめであり、まさにサルーンカーのくつろぎ感が得られる。しかも、ラゲッジスペースの容量は、M850iの440LやGT53の461Lに対して535Lと圧倒的に広く、優れた実用性までも獲得している。
今回試乗した3モデルはボディ形態こそいずれも4ドアクーペとなるが、キャラクターはそれぞれに異なっていた。GT53はシリーズ最強モデルのGT63を選ぶまでもなくリアルスポーツに迫る刺激があり、A7はサルーンカーとして扱える。M850iはシリーズ最強モデルらしいリアルスポーツぶりを発揮しつつも、サルーンカーとしての期待にも応えられる潜在能力を備えていた。