“クルマと仲良くなる”なんて、フランス車以外に通用しないだろう
室内に入って思わず目を奪われるのは、親の敵のようにそこかしかにあしらわれた”菱形”である。ステアリングとペダルとシフトレバー以外、ほとんどすべてになんらかの菱形が象られている(液晶モニター自体は長方形だが、グラフィックには菱形が現れる)。少しビジーな感じもするけれど、他のどれとも似ていない強烈な独自性があることだけは確かだ。ドアにエアコンの吹き出し口を設けるなんて、ずいぶんと手間とコストのかかることをやってのけるもんだと感心した。
車重は1.3トンに満たないのに、どことなく重厚な乗り味が印象的。高速巡航は乗り心地も直進性も静粛性も、このセグメントにしては申し分なく、これならロングドライブも快適だろう。エンジンは1.3Lの直列3気筒ターボで、130ps/230Nmのスペックは心許ないように見えるが、8速ATとのマッチングがよく、最大トルクが発生する1750rpm付近を積極的に使うので、想像以上にパワフルに感じる。最低地上高は高くても全高は低いから、重心は思ったほど高くなく、ばね上の動きは少なくてもコーナリングはスムーズだ。ステアリングの動きに対する応答性もよく、安定した挙動に終始する。スポーティに片足を突っ込んだくらいの、大人にはちょうどいい塩梅のハンドリングである。
シトロエンC3エアクロスSUVはC3をベースにしているけれど、地上高を上げて加飾しただけの簡易SUVではない。ボディスペックをC3と比べると、全長で165mm、ホイールベースで70mm、全高で135mmそれぞれ延長しており、ボディをちゃんと作り直している。全長とホイールベースの延長分は、後席やラゲッジルームの拡大に充てられているし、室内は天地方向に余裕が増している。
さらに”グリップコントロール”と呼ばれる制御システムを装備。ノーマル/スノー/マッド/サンド/オフ(ESCをオフにする)の5つのモードは、駆動力やESCやブレーキなどを統合制御して、路面状況に応じて最適なトラクションが得られるという。ちなみにこのクルマ、4WDではなく前輪駆動である。さらに〝ヒルディセントコントロール〟まで装備するという徹底ぶり。パッケージにしても装備にしても、あえて”SUV”を名乗るにふさわしい設計がなされている。
そもそもC3は乗り心地もハンドリングもよく、価格を考慮すれば相当バリュー・フォ・マネーなクルマだと思っていた。エアクロスSUVはホイールベースが長くなった分、ハンドリングはややゆったりした反応となったが操舵応答遅れなどはない。気になったのは100km/h前後のサイドミラー付近の風切り音くらい。乗り心地は相変わらずよく、動力性能は必要にして十分で、何よりスタイリングやインテリアのしつらえが、走る前から乗る人をワクワクさせてくれる。
ルノー・キャプチャーは、今回の3台の中では良くも悪くももっともフランス車らしくないと言える。乗り心地は減衰が比較的速く足元がしっかりしている印象が強いから、いわゆるフランス車のフワッとした乗り心地を期待すると肩すかしを喰うかもしれない。2013年発表なので、設計年次の古さをインテリアなどに感じるのも事実だが、走る/曲がる/止まるの基本性能はいまでも通用するレベルにある。”隙のない”フランス車を望む方にはお薦めだ。
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