お地蔵さんの立つ旧道を越え、霊峰・御嶽の山ふところへ(長野県・地蔵峠)【絶景ドライブ 日本の峠を旅する】

木曽谷や伊那谷からは見えない御嶽が目の前に

九蔵峠付近から眺める開田の集落。のどかな農村風景が御嶽の山裾に広がっている。

御嶽は、長野/岐阜県境にそびえる大きな山塊の総称で、最高峰は標高3063mの剣ヶ峰。山系としては飛騨山脈(北アルプス)に分類されることもあるが、北の乗鞍岳(3026m)とは飛騨街道や野麦峠を挟んでかなり距離を置いているし、木曽駒ヶ岳(2956m)を主峰とする中央アルプスとも木曽谷を挟んで完全に分かれている。本州中部の山岳地帯では珍しい独立峰である。
富士山、立山や白山などとともに、御嶽は古くから信仰登山の盛んな山であり、もちろん『日本百名山』のひとつに数えられている。また、多数の犠牲者を出した2014年の噴火災害で誰もがその名前は耳にしたことがあるはずだ。

西洋馬の導入により、一時は絶滅の危機に瀕していた木曽馬。胴長短足のずんぐりした体型をしていて、寒さや粗食にも耐える。

これほど全国的にも知名度の高い山だが、しかし、実際に御嶽を眺めたことのある人というのは意外に少ないのではないだろうか。
中央自動車道の走る伊那谷からは、屏風のようにそそり立つ中央アルプスにさえぎられて御嶽を見ることはできない。木曽川沿いに国道19号を抜けていく時も、谷が狭く、深いため、手前の山々が邪魔して御嶽の姿はなかなか見えない。木曽路の北寄り、奈良井宿と薮原宿の間の鳥居峠には、古くから御嶽遙拝所があるのだが、そこまで登っても、重なり合う山並みの隙間からちょこんと顔をのぞかせる御嶽の頂上付近を拝めるにすぎないのだ。
以前、開田高原でお世話になった宿のご主人からこんな話を聞いたことがある。
「仕事で木曽福島まで出かけた帰り道、天気がいいと、新しいトンネルじゃなく、ついつい地蔵峠を走ってしまうんですよ。なにしろあそこから眺める御嶽の姿は格別ですからねぇ」

木曽馬の里へ通じる峠道だけに、かつては多くの馬が行き来していたのだろう。開田高原側の麓には馬頭観音も立っている。

標高1000m前後の高地に広がる開田高原は、寒冷な気候のため、つい最近まで稲作が行なわれていなかった。そのかわりに古くから盛んだったのが、木曽馬と呼ばれる在来馬の飼育である。開田高原で馬を飼い始めたのは平安時代。馬の供出・売買や荷役仕事のため、このあたりの人は一般の農民に比べると移動の機会が多かったに違いない。そんな開田の人々が手綱を曳いて険しい山道を越え、ふるさとを目の前にして眺めたのが地蔵峠からの御嶽なのである。

御嶽の眺望が素晴らしい地蔵峠展望台。この区間だけは道幅がたっぷりとってあるので、安心してクルマを停められる。

そんな想像を巡らせながら地蔵峠を越えていくと、展望台からの眺めは、よりいっそう素晴らしいものに思えてくるかも知れない。
ところで、地図によっては御嶽のことを『御嶽山』や『御岳山』と表記しているものもあるが、これは本来誤りである。明治時代のお役人が、地図を作るため地名を調べていた時、地元の人が敬意を込めて「御嶽サン」といったのを「御嶽山」と書き記してしまったため、嶽(岳)と山の2つの漢字が並んでしまったのだそうだ。

掲載データなどは2016年7月末時点のものです。実際におでかけの際は、事前に最新の情報をご確認ください。

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