新設アウトバーンを疾走した当時最高峰のオープンスポーツ
ディキシーのライセンス生産を終えたBMWは、コンパクトモデルの303が大ヒット。その後継として創られた315には、現代のZ4ロードスターに通じる高性能オープン2シーターも存在していたのだ。
ビー・エム・ダブリュー315/1ロードスター(1934-1937)
1929年に起こった世界恐慌の影響から欧米諸国に先駆けて抜け出していたドイツは、間もなく国民所得が上昇に転じ、1933年からは自動車の税制や保険制度に優遇措置が設けられアウトバーンの建設もはじまった。
その1933年、BMWは現在の成功の原点となる303を投入した。当時としては先進的なOHV(オーバーヘッドバルブ)を採用する1.2リッターの直列6気筒エンジンを搭載。ソレックス製のツインキャブを組み合わせていた。さらに、BMWのデザインを象徴するキドニーグリルもこの303から採用された。
翌1934年には早くも303を高性能化し、排気量を1.5リッターと1.9リッターに拡大した315と319を追加。続いて、今回紹介する315/1(319/1)ロードスターを投入した。303により、市場では「BMW=小型で高性能」という評価が定まりつつあり、315/1はそれを裏付けるモデルとなった。エンジンは、排気量の拡大だけではなく、圧縮比を上げてトリプルキャブを組み合わせた結果、最高出力の40psを4300rpmで発揮。4000rpmですら高回転型だった時代だけに、その高性能ぶりが伺える。
さらに、低く長いボンネットにスラントしたキドニーグリルとフロントスクリーンは、現代のZ4に至るロードスターの伝統的なデザイン(Z4のグリルは逆スラント)だ。しかも、リアホイールを覆うカバー(撮影用のモデルは未装着)などで、エアロダイナミクスを向上させた結果、最高速度は120㎞/hにまで達した。まさに、新設のアウトバーンを疾走するに相応しいモデルといえた。
また、サスペンションはフロントが横置きリーフスプリングを採用する独立式、リアが縦置きリーフスプリングを採用する固定式とし、前後ともに有効なショックアブソーバーも組み合わせ、ステアリングにはクイックなギア比を持つラック&ピニオン式も採用した。高性能なシャシーを得たことで、アウトバーンを疾走するだけではなく315/1をベースにしたモデルは、ヒルクライムやラリー、レースなど、舞台を問わずモータースポーツで優秀な戦績を残したのだ。
こうした、303から続くモデルの成功により「BMW=直列6気筒」という名声がこの時代から高まった。ただ、315/1と319/1の販売台数は400台あまり。ところが、その数もまた、「BMWは量産を目指さず技術革新に挑む」という評判さえ勝ち取ったのである。
BMW 315/1 ROADSTER (MY:1935)
Specification■全長×全幅×全高=3830×1440×1290㎜■ホイールベース=2400㎜■車両重量=750㎏■乗車定員=2名■エンジン種類/排気量=直列6気筒OHV/1490㏄■最高出力=40ps/4300rpm■最大トルク=-■トランスミッション=4速MT■サスペンション(F:R)=ウィッシュボーン:リジッド■ブレーキ(F:R)=ドラム:ドラム
■取材協力=堺市 文化観光局 https://www.city.sakai.lg.jp/
堺市ヒストリックカー・コレクション
「カメラのドイ」の創業者である故・土居君雄氏が、ドイツ工業技術への憧れから収集し世界的に注目を集めた「ドイBMWコレクション」。土居氏の他界後、新婚時代を堺市の浜寺で過ごした佳き思い出から、1993年に妻・満里恵さんのご厚意により堺市に寄贈された。