知床横断道路(No.006)
世界遺産のなかを抜ける貴重なワインディングロード。
雪の残る羅臼岳を仰ぎ見ながら知床峠まで来ると、東側の眺望が大きく開けた。眼下には羅臼の町や根室海峡を覆い尽くす一面の雲海。そして、雲の大海原の向こうには北方領土、国後の山々がまるで離れ小島のように浮かんでいる。知床横断道路はもう10回近く走っているが、こんな風景を目にしたのは初めての経験である。
知床という地名は、アイヌの言葉で「大地の突端(行き詰まり)」を意味する。まさに最果てのイメージそのものだが、ただし、海産物の豊かな知床半島の海岸部にはアイヌ民族より遙かに古い時代から人が暮らしてきた。いわゆる続縄文人とか、オホーツク人と呼ばれる太古の人々である。
一方、半島の稜線地帯は一面ハイマツに覆い尽くされているため、永らく人が足を踏み入れることができなかった。そんな秘境の地で道路建設が始まったのは昭和38年(1963年)。18年の歳月と巨額の費用をかけ、知床峠を抜ける国道334号が開通したのは昭和55年(1980年)9月のことだった。
現在、知床半島で世界自然遺産に登録されているのは、先端の知床岬から国道344号の南にそびえる遠音別岳にかけての7万ヘクタールあまり。この東京23区より一回りほど大きなエリアには、推定200頭のヒグマが生息し、世界有数のヒグマ密集地帯となっている。この道は国内で最後まで残された本当の秘境を抜けていく絶景ロードなのである。
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