【カバタ屋よろず乗り物研究所】ヤマハMOTOBOTが示唆する未来とは?

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「王者ロッシに勝つ」を掲げた
ハイテクロボットライダー

 いま、クルマが目指しているような自動運転が、果たしてオートバイの世界にやってくるだろうか?
 前走車をロックオンして、自動的に加減速しながら追従走行する。道路両脇の白線を読み取り、レーン内走行をキープする。ウインカーを出すと、ハンドルをきって車線変更をやってくれる。いずれも乗用車ではすでに製品化されているが、はたしてこうした自動運転機構がオートバイにも付く日が来るのだろうか。
 少なくとも、2輪ライダーがそれを望んでいるとは思えないが、しかしオートバイの世界でも自動運転の研究は始まっている。そして、こんな夢のある試みもある。ヤマハ発動機のMOTOBOT(モトボット)だ。過去2回の東京モーターショーで成果が公開された「ヒト型自律式ライディングロボット」。簡単に言うと、サーキットをレーシングスピードで走るロボットライダーである。 

 

 人間が乗っていないバイクをコケずに走らせるというだけで信じ難いのに、2015年から3年計画でスタートしたこのプロジェクトは、いきなり高い目標を掲げた。ヴァレンティーノ・ロッシに勝つ! 2輪レースのF1、MotoGPで過去6回チャンピオンに輝くレーシングヒーローに挑戦状を叩きつけたのである。

 シリコンバレーの研究機関、SRIインターナショナルとの共同開発は主にアメリカで行われた。対決の舞台はカリフォルニアのサンダーヒルレースウェイ。全長2マイルのコースをロッシ選手が1分25秒で走ると、最新の MOTOBOT バージョン2は1分57秒を記録した。「あなたの背中が見えた」。2017年東京モーターショーで公開された記録動画では、そんなテロップが流れた。

 

新しい技術獲得のため
あえて高い目標に挑戦

今回お話をうかがったのは、モトボット開発に携わった森田浩之さん(写真左)と内山俊文さん(写真右)。ヤマハといえば2輪車がすぐに思い浮かぶが、いまや産業用ロボットの分野でも定評がある。このふたつの技術によってMOTOBOTのプロジェクトがスタート。目標に掲げたのは「200㎞ /h以上でのサーキット走行」「MotoGPのトップライダー、バレンティーノ・ロッシ選手を超える」こと。この挑戦から得られた知見や高度な要素技術を、今後の製品展開や新たな価値創造に応用していくという。

 

「MOTOBOTを“ムーンショット”のプロジェクトにしたいというのが、開発のスタート時からありました。ぜったい無理と思われる高い目標をあえて設けることで、思いもよらなかった技術を獲得できないか。その高いハードルがロッシ選手だったんです」
 生みの親のひとり、先進技術本部の森田浩之さんはそう語る。“ムーンショット”とは、シリコンバレーの起業家が好んで使う「実現不可能と思われる高い目標」のことである。
 MOTOBOTがまたがるバイクは、YZF-R1。エンジンは200ps/13,500rpmの998cc並列4気筒。ヤマハスポーツバイクの最高峰だが、中身に大きな改造は加えていない。体重45kgの“彼”はカーボン製ボディーの中に収めたGPSやIMU(慣性計測装置)でサーキットのコースを正確に把握し、人間ライダーがやるのと同じようにステアリングをきり、クラッチレバーとチェンジペダルでギアチェンジをし、スロットルをひねり、ブレーキをかける。ヤマハのスタッフは、これを「外付けの自動運転」と呼んでいる。開発中はアメリカに駐在し、SRIインターナショナル内のラボで仕事をしていたモビリティ技術本部の内山俊文さんが言う。

レバーを握る指は単なるカバーで、実際はワイヤーでコントロール。頭脳にあたるIMU(慣性計測装置) はモトボットのボディに格納される。タイヤの限界を見極めるデータのひとつとして前後輪の温度を常にチェックしている。ショックアブソーバーの後方にある細いロッドは、サスペンションストロークセンサーである。

 

「クルマでは車両側を改造するのが自動運転の主流ですが、ぼくたちはあえてノーマルバイクにロボットを乗せるということにこだわりました。車両側を改造しようかという議論もありましたが、それをやると新製品にしか付加できない。でも、外付けなら、古いクルマ、たとえば’80年代のシボレーを自動運転させるのも不可能ではありませんから」
 内山さんが唐突に「’80年代のシボレー」と言ったのは、4輪メディアのル・ボランに対するリップサービスだったのかもしれないが、「外付けの自動運転」という考え方はおもしろい。言い換えると、汎用性のある自動運転装置ということだろう。古くはトヨタ2000GTのエンジン開発/生産に始まって、ヤマハは4輪メーカーのサプライヤー(部品供給メーカー)としても豊かな実績を持つ。そんな企業メンタリティならではのアプローチと考えるのは穿ち過ぎだろうか。

 

リポート:下野康史 Y.Kabata フォト:柏田芳敬 Y.Kashiwada

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