カー・ガイたちが作るアメリカン・スーパースポーツやいかに
アメリカの新興自動車メーカー、VLFオートモーティブがデトロイトショーで公開した「フォース1 V10」は、一時は出展自体が危ぶまれていた。デザインが最新ボンドカーのDB10に酷似しているとして、アストン・マーティンから開発中止を要請されていたためだ。
言われてみれば、斜め前方から見たときのリアフェンダーの造形など、DB10と印象が重なる部分がなくもない。けれど、フォース1 V10をデザインしたのがヘンリック・フィスカー氏だと聞けば、この程度はやむを得ないとも思えてしまう。何しろDB9やDBS、それにV8ヴァンテージといった現在のアストン人気を決定づけた数多くのモデルは、彼がそのデザインを担当したのだ。
フィスカー氏がフォース1 V10のデザインを担当するにいたった縁は、VLFオートモーティブの前身であるVLオートモーティブ時代にさかのぼる。ゼネラルモーターズ前副会長のボブ・ラッツ氏と投資家のギルバート・ビレリアル氏が2012年に立ち上げた自動車メーカーだ。ちなみに「VL」は二人のイニシャルの組み合わせである。VLオートモーティブは最初の市販モデルとしてディスティノV8を世に送り出したのだが、このクルマがVLオートモーティブとフィスカー氏を結びつける。
自動車デザイナーとしてその名を知られるフィスカー氏は、BMWで自身のキャリアをスタートさせた。そこでZ8を手掛けた彼が移籍した先が、件のアストン・マーティンだ。その後、彼は独立してフィスカー・オートモーティブを起業し、高級ハイブリッドサルーンのフィスカー・カルマを完成させるのだが、その美しいプロポーションにラッツ氏とビレリアル氏が惚れ込んだ。そして、カルマに軽量かつハイパワーなシボレー・コルベットZR1のドライブトレインを移植したら素晴らしいスポーツサルーンになると考え、実行に移したのが、ディスティノV8というわけだ。
それをきっかけにVLオートモーティブはフィスカー氏を迎え入れ、3つめのイニシャル「F」を追加したVLFオートモーティブへと社名を変更。ラッツ氏を社長、ビレリアル氏をCEO、そしてフィスカー氏をデザインおよび製品戦略のトップとする新体制となった彼らの最初の製品が、無事にデトロイトでのワールドプレミアにこぎ着けた、このフォース1 V10である。
フィスカー氏がデザインしたオールカーボンボディの内側は、基本的なメカニズムをクライスラー社のダッジ・ヴァイパーから流用している。ただし8.4リッターV10エンジンはヴァイパー用の640hp(649ps)から自然吸気スポーツカー最強の745hp(755ps)へと強化されており、1538kgの軽さを利して最高速は350km/h、0-97km/h加速は3.0秒を誇る。トランスミッションはヴァイパー用の6速MTのほかにパドルシフト付きの6速ATも用意されている。
生産は2016年の4月末からはじまり、同年の第3四半期にはデリバリーを開始する予定とのこと。価格は26万8500ドル(約3150万円)で、50台のみの限定生産となる。なお、デスティノV8は22万9000ドル(約2690万円)で、生産台数は制限されていない。