“グランドツーリングカー以上、スーパースポーツ未満”という絶妙なポジショニングに仕上げられた実にマセラティらしい1台!「マセラティ グラントゥーリズモ」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

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日常使いからロングドライブまでこなすだけでなく、その気になればサーキット走行も可能

パフォーマンスだけに執着することなく、ライフスタイルの中でこそ活きるGT=グランドツーリングカー。イタリアのマセラティは旧くからそうした2+2クーペを手掛けてきたブランドだ。その現行型となるグラントゥーリズモも高性能であることは確かだが、しかしやはり基本はこれまで同様、“乗る”というよりも“着る”と表現したくなるような存在感で魅了する。しかも一目見た瞬間から、そう思わせる。これはマセラティだから成せる技なのかもしれない。英国のアストンマーティンとは対極に位置する“イタリアン ダンディズム”を全身から放っている。

マセラティ伝統のロングノーズに、滑らかなルーフラインのクーペスタイルは、スポーティとラグジャリーを巧みに融合させたものだ。

最新版となるグラントゥーリズモは、初代(先代)のテイストをそのまま受け継ぎ、随所をブラッシュアップして洗練された印象だが、そもそも初代をデザインしたのはピニンファリーナである。ロングノーズ&ショートデッキという伝統のFRレイアウト車を優雅に描くとこうなるという、傑作とも評すべきエクステリアだと今でも思う。ただ、初代と違うのは、全体的にボリュームが増して筋肉質かつ彫刻的になったこと。マセラティは流行りに流されないデザインと主張するが、個人的には昨今の筋トレブームにも似た雰囲気に感じるし、デザイナーもそうしたトレンドやヒトの意識を取り入れてデザインすることが多いから、あながち間違っていないと思う。

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ラインナップされるのは、現在のところ「トロフェオ」と「モデナ」の2グレード。いずれもMC20譲りのV6ツインターボエンジンのネットゥーノを搭載する。その違いは、ほぼ出力値のみというのが如何にも現代的だが、2代目グラントゥーリズモは実のところ、このあと上陸するBEV版の「フォルゴーレ(FOLGORE)」に合わせて開発されたと見るのが妥当。事実、初代は15年にも渡り造り続けられてきたことを考慮すると、おそらく新型の開発は二転三転したのは明白で、グループ内での様々な事情が重なったことも合わせれば、ようやく日の目を見ることが叶った1台と言える。

フロントミッドに搭載される3L V6ツインターボユニット「ネットウーノ」は、グレードによってスペックが異なり、モデナは最高出力490psに最大トルク600Nm、トロフェオは同550ps&650Nmを発生。駆動方式はFRではなく、全モデルAWDが採用された。

その甲斐あってか、パワートレインの完成度は高い。今回テストしたのは、高性能版の「トロフェオ」だが、すでにミッドシップスポーツのMC20に搭載され好評を博しているだけに一切の不満なし。最高出力&最大トルクは550ps&650Nmを出力し、0→100km/h加速は3.5秒を誇る。ただ、MC20のV6と違うのは、ドライサンプ式ではなく、SUVのグレカーレ同様にウエットサンプ式が採用されていることだろう。GTとしてはこちらで十分。むしろ、先代に積まれていたV8エンジンと比較すると俊敏性が増して好ましく、正直、初代のエンジンはGTとしてまとまりが良いように感じられる一方で、ここ一番という時の瞬発力にかけていたから、それが改善されているだけでも評価できる。

ましてや今作はAWD。先代のV8と比べれば、エンジン長が短いV6だから完全にフロントミッドに収められているだけに前後の重量バランスが絶妙で、日常使いからロングドライブまでこなすGTとしてだけでなく、その気になればサーキット走行も可能になったほど初代と現行型は違う。初代の場合、サーキット走行は無理、そんな気にもならない中間加速だったから、これは劇的な進化だ(唯一、MCストラダーレだけは例外だが)。

最新のマルチメディアシステムとインフォテイメントに加え、上質なレザー素材がふんだんに用いられたコクピットは、ラグジュアリークーペに相応しい雰囲気を演出。シートは基本骨格こそ同じものの、カラーやデザインがグレードごとに異なる。後席の足元も十分なスペースが確保されている。

実際、今年の4月上旬にサーキットでグラントゥーリズモを試乗した際、その走りに魅了されてしまった。それは、スーパースポーツ寄りのGTという世界観。パワーもトルクも十分、サーキット走行に適したコルサモードでは、ライントレース性に優れた確かな手応えのハンドリングに、優れたトルクデリバリーで楽しませ、AWDの安定感のうえに適度なトラクション性をもって、ドライバーに汗をかかずに周回を重ねさせるという、実にジェントルな走りに促す。

これは、前後重量配分を52:48というところに収めているのが肝。例えば、フェラーリのFRモデルなどはリア寄りの加重にしてトラクション性能を稼ぐのとは逆で、グラントゥーリズモは、あくまでもGTの延長にスポーツ性を置くことで、“性能よりも性格”を重視しているのは明らか。8速ATに関しても、コルサモードでパドルを使用して変速してもシフトショックは抑えている一方で、必要十分な加速は得られるという、見事なまでギア比もGT流だから、さすがはマセラティだ。

もちろん、快適性を重視するコンフォートモードや、効率性を優先したGTモードでは、2929mmのホイールベースも併せて功を奏し、多少荒れた路面でも上質な乗り心地を確保、特にリヤのマルチリンクサスペンションのセッティングは好印象だった。しかもこのモードでは排気音も抑えられるから初代とは大違い。以前のような過剰な演出がなくなったのも個人的には評価したい部分だ。

フル液晶のメーターは、ドライブモードの切り替えによって表示を変更することが可能。センターディスプレイ上部にはICEはアナログ時計が備わる。

インテリアの上質感も相変わらず、というか、さらにクオリティは上がっているし、最新のADASが装備されたことで安心感が増している。それよりも皆が懸念してきた信頼性が向上しているのが最大のニュースかもしれない。細かく言ってしまうと、きりが無いからこの辺りで終わりにしておくが、それほど新型グラントゥーリズモは◎。フェラーリは派手、ポルシェは体育会系すぎるし、アストンマーティンには何か物足りなさを感じると思う向きには、グラントゥーリズモなら着こなすことができるはずだ。“グランドツーリングカー以上、スーパースポーツ未満”という絶妙なポジショニングに仕上げられた、実にマセラティらしい1台である。

テールライトは、伝統的なブーメラン型と銛をミックスしたデザインが特徴。フルLEDにより、リアビューをより個性的に演出している。

【SPECIFICATION】マセラティ・グラントゥーリズモ・トロフェオ
■車両本体価格(税込) ¥29,980,000
■全長×全幅×全高=4965×1955×1410mm
■ホイールベース=2930mm
■車両重量=1870kg
■エンジン形式/種類=ー/V6DOHC24V+ツインターボ
■総排気量=2992cc
■最高出力=550ps(404kW)/6500rpm
■最大トルク=650Nm(66.3kg-m)/2500-5500rpm
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン/エア、後:マルチリンク/エア
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前:265/30ZR20、後:295/30ZR21

フォト:篠原晃一/KShinohara

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

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野口優
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2024/10/03 12:00

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