前年型よりマイルドに
前回から少々間が空いてしまったが、当連載第48回となる今回は、黄金時代のアメリカ車を採り上げることとしよう。1960年型のポンティアックである。
【画像22枚】豊かさが充満するポンティアックのカタログを見る!
ポンティアックはすでに消滅してしまったブランドだが、GMの中ではシボレーとオールズモビルの中間という位置づけであった。GTOやトランザムといったモデルでスポーティなイメージの強いポンティアックだが、1950年代まではどちらかというと地味なイメージだったという。それが変化したきっかけは、1957年型において、ハイパフォーマンス・モデルのボンネビルを登場させたことであった。それとともに1950年代後半にはスタイリングもシボレーとの差別化が強められ、1960年代の飛躍へと繋がっていったのである。
1960年型のGM系各車は、前年で採用した低くシャープなボディラインはそのままに、特徴的すぎたディテールを若干マイルドにトーンダウンさせたボディスタイルが特徴で、ポンティアックも同様であった。1959年型ではV字型のテールフィン(つまり左右合わせて4つのフィン)や2分割のフロントグリルでその姿を強烈に印象づけたポンティアックだが、1960年型ではフィンはなくなり、グリルも左右分割の面影を残しつつ一体化されている。
この年のポンティアックは大別すると2種類に分かれる――スタイリングは共通だが、ホイールベースが2種類あったのである。短い方の122インチ(3099mm)は、下級モデルのカタリナと、それをベースに若干豪華に仕立てたベンチューラ。長い方の124インチ(3150mm)は、上級モデルのスターチーフと、最上級に位置するボンネビル。
ボディ形式は4ドア・ハードトップ(”ビスタ”)と2ドアのハードトップおよびコンバーチブル、4ドアおよび2ドアのセダン、そしてワゴン(”サファリ”)の合計6種類があったが、その設定はモデルによって若干異なり、例えば最上級モデルのボンネビルに2ドア・セダンはない、スターチーフにサファリはない、ベンチューラはビスタと2ドア・ハードトップのみ、といった具合だ。
エンジンは389-cid(6.4L)のV8が標準で、これはテンペスト425と名付けられていた。キャブレターは2バレル、4バレル、そして2バレル3連装の3タイプがあり、それぞれ出力は283hp、303hp、318hpとなるが、これはいずれもハイドラマチック・トランスミッション(4速AT)との組み合わせの場合である。また、2バレル・キャブ装着で経済性を重視したテンペスト425Eというユニットもあり、こちらは最高出力215hpであった。
伝説のふたりによるアートワークに注目!
ここでご覧いただいているのは無論1960年型ポンティアックのカタログであるが、アメリカ本国のものではなく、当時日本のディーラーで使用されたもののようである。そのため、カタログにも「FOREIGN DISTRIBUTION DIVISION ● GENERAL MOTORS CORPORATION ● NEW YORK」と記載がある――つまり輸出向けに作られたカタログなのだが、本国版と内容に大差はないようだ。表紙を含めて全16ページ、サイズは211×275mm(縦×横)。
さて、1960年代のポンティアックと言えば、その広告/カタログに用いられたアートワークはもはや伝説となっている。担当したのはAF/VKもしくはVK/AFとして知られる二人組、アート(アーサー)・フィッツパトリックとヴァン・カウフマン。
AF(フィッツパトリック)が自動車を描き、元ディズニーのアニメーターという経歴を持つVK(カウフマン)が人物や背景を担当することで成立したこの時期のイラストレーションは、実際にポンティアックのセールスを大いに伸張させた立役者でもあった。彼らが描き出す豊かな世界に魅了される者は今も後を絶たず、コレクターも多いようである。
ポンティアックがふたりを起用したのは1959年型からのことで、ここで採り上げる1960年型のカタログも当然このコンビによるものと思われるのだが、全てのイラストがそうであるのかは、個人的には少々判断が難しい。表紙の絵なども微妙にタッチが異なる気がしないでもないのだが……。
また、ふたりの作品は特に、一枚絵として完成されているタイプの広告のものにその持ち味が発揮されると感じるところで、このカタログのように車両と人物・小道具が抜き出されて、白い地の上に配されたものでは、その妙味が堪能しきれないように思われる。なお、一枚絵の形を採るものでは、バックが情景としてしっかり描き込まれているものと、抽象的な表現のもの(筆のストロークをそのまま活かしたりなど)、ふたつに大きく分かれるのだが、どちらも魅力的だ。
とはいえ、この時期のアメリカ車ならではの空気を味わわせてくれるカタログであるのは確かなところであり、皆さんもじっくりご覧いただければ幸いである。