常に余裕をもって行動できる“強欲なき紳士”にこそ相応しい!「ロールス ロイス スペクター」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

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ロールス・ロイスとBEVのマッチング率は200%と言いたくなるほど相性は抜群!

120年以上にも渡り、世界中の富裕層に向けてラグジュアリーカーを送り出してきたロールス・ロイスも遂に電動化されてしまったのか――などと思ったそこのアナタ、それは紛れもない誤りである。誤解を恐れずに断言するなら、ラグジュアリーカーとBEV(電気自動車)ほど良い組み合わせはない。しかも数あるラグジュアリーブランドの中でもロールス・ロイスは抜きん出て相性が良いと言える。

【画像29枚】電動化でさらなるラグジュアリーの頂点へと到達した「ロールス・ロイス・スペクター」

当初、自動車の電動化が進んでいく中で、ロールス・ロイスはファントムに取って代わるようなショーファードリブンで第一弾はくるだろうと予想していた。何よりも静粛性にこだわり、“魔法の絨毯”と自ら例えるほどの快適性を実現しながらもV型12気筒エンジンを搭載し、使わずとも欲張りなパフォーマンスも超弩級という、まったく非の打ち所がない、“究極の理想”とも思えるショーファードリブンは、コンセプトをそのままにして100%電気に置き換えるほうが自然の流れだと考えていた。比較的、短距離の移動がほとんどというショーファードリブンなら、フル充電時の航続距離も気にすることがないから尚さらだった。

ところが、ロールス・ロイスは驚くことに2ドア・クーペからスタート。レイスの後継車として、その名も新たに「スペクター」という名でデビューしたことに意外性しか感じなかったのだが、その背景に様々な事情を匂わせるとはいえ、乗ってみれば、納得の連続。やはりロールス・ロイスとBEVのマッチング率は200%と言いたくなるほど、そのフィーリングはこれまでのロールス・ロイスと共通し、「これならもっと早く出せばよかったのに……」と思わずつぶやいてしまったほどである。

一充電での走行可能距離はWLTPモードで530kmを実現。

詳しい概要や解説は、本サイトをはじめ多くのメディアで紹介されているから割愛させていただくが、簡単にスペックに触れると、スペクターの最高出力は584ps、最大トルク900Nm、0→100km/h加速は4.5秒と記されている。前後に1基ずつモーターを備えたAWDモデル(フロント:190kW&365Nm/リア:360kW&710Nm)で、リチウムイオン電池の容量は102kWh、フル充電時で最大530km走行可能というのが基本。ちなみに、10〜80%を195kWで充電(DC)した場合は最大で34分で完了するというから、300〜350km程度の移動なら余裕だろう。ロールス・ロイスを所有できるようなオーナーなら、ほとんど何も気にせずに使えてしまうはずだ。

ロールスロイスのモデルの特徴のひとつでもあるコーチドアは、特に前席への乗降性に優れる。

言うまでもなく、電気自動車の加速性能は内燃エンジンよりも瞬発性に優れているから、この4.5秒という数字は意図的な設定であることは明白だが、それよりもほぼ無振動&無音というBEVのメリットが活かされたスペクターの加速に対する味付けは、いかにも電気モーターというよりも、内燃エンジン車にも近いフィーリングだったのは意外。その後の中間加速も同様で、これならレイスのオーナーが乗り換えても違和感を覚えることもなさそうだ。いや、逆に言えば、ロールス・ロイスが搭載してきたV12エンジンのフィーリングは電気モーターのような走行性を望んでいたのだと、あらためて気付かされるほど、絶妙なところを狙っている。

室内にはプラスチックパーツが皆無で、ウッドやレザー、アルミ、真鍮などの素材をふんだんに使用。クラフトマンシップとデジタライゼーションが、絶妙なバランスされている。

乗り心地やハンドリングに関してもレイスにも通じる、不快感など一切ない適度な硬さと、ラグジュアリークーペらしい旋回性能を見せるが、これも他車とは違う、ロールス・ロイスらしさがまずは際立つ。適度な硬さというと誤解されそうだが、あえて強調させてもらうと、スペクターはオーナー自らがステアリングを握るドライバーズカー。乗せてもらうのではなく、“ドライブする”という意思があって乗るということだから、リアリティが重要になる。もっともイメージ的に“ロールス・ロイス=超快適”と思われるかもしれないが、ロールス・ロイスを熟知している人なら、このスペクターに与えられたキャラクターは理解できるはずだ。

この絶妙で適度なドライブフィールは、ロールス・ロイスが本来もつコンセプトを貫いた証し。事実、このスペクターもスポーツモードといったドライブモードを備えていない。即ちこれは、あくまでも、いつまでも、どこまでも“フツーにドライブを楽しんください”というメッセージのようなもので、決して攻めたりせずとも、快適に超高速移動を実現してみせます、と伝えてくる。

ホイールはロールスの2ドアクーペで初となる23インを装着。タイヤはピレリPゼロが組み合わされる。

その点において、今やロールス・ロイスのお家芸ともなった、プラナーサスペンションシステムによる走行中の安定感とフラット感は見事というほかない。直進時ではアンチロールバーが切り離され、各ホイールが独立して作動することで快適性を維持する一方、システムがコーナーを検知するとコンポーネントを再結合して、ダンパーを強化して対応するなど、そのアプローチは相変わらず先進的でロールス・ロイスらしい。レイスやゴーストに採用されていた、GPSによってギアを自動的に選択するサテライト・エイデッド・トランスミッション(元はBMW F1チームの技術)と同様に、先進技術を積極的に採用するあたりは、さすがはラグジュアリーブランドだと唸らせる。

ロールス独自の装備であるアンブレラは、ボディカラーに合わせたコーディネートが可能。スターライトヘッドライニングなど、あらゆる装備がオーナーの好みの仕様にすることができる。

そのプラナーサスペンションによるフラット感、実に“体感的自重”にも高い効果を発揮しているのは明らか。それはフロア下にリチウムイオンバッテリーを搭載していることを忘れさせるほどである。レーンチェンジ時も後輪ステアを備えていることもあって、車両の動きだけで言うなら、まさにレイスの進化形と思えるくらい秀逸だが、実のところそのレイスとの重量差は400kg以上あることを知れば、如何にその効果が優れているか伺い知れるうえ、BEVのほうが体感しやすいと今回の試乗で思い知らされた。

コクピットには、ロールス・ロイスでは初となるフルデジタルの「ビスポーク・インストルメント・ダイヤル」はクラフトマンシップを巧みに表現。オーナー様向けプライベート・メンバーズアプリの「Whispers」は、コンシェルジュサービスのほか、他のオーナーとの交流など、特別な体験ができる。

それにしても、やはりこのリアヒンジでドアが開閉するクーペというのは実に粋だとあらためて今回、痛感してしまった。インテリアの造りもこの上なく上質で、夜になれば星空を演出するスターライト・ヘッドライナーがルーフに輝くなど、そのセンスはロールス・ロイスならでは。それに例えクーペモデルであっても、後部座席の居住性に一切妥協がない。座面の高さや乗降性も考え尽くされている。参考までに記すと、4ドアのフェラーリとして話題のプロサングエのリアシートよりもスペクターのほうが明らかに広く、実用的なのは事実。断じて企画モノではなく、理想的な現実と本質を探求していることに褒めずにはいられなくなる。

親会社のBMWがロールス・ロイスというブランドを心底、理解していなければ、ここまでパーフェクトな1台にならなかったことも加えておきたい。BEVをはじめとする技術を提供する一方で、独自性の余地を自由に与えていることを思うと、理想の関係性だと思う。

それと、最後にひと言だけ強調しておきたいのは、スペクターは“強欲なき紳士”にこそ相応しいということ。時間の概念に縛られず、常に余裕をもってすべて実行するようなオーナーでなければ、この良さは伝わらない気がしてならない――。もし、自分で欲望に溢れていると感じているのならば、迷わず他のブランドを選んだほうが無難だろう。

【Specification】ロールス・ロイス・スペクター
■車両本体価格(税込) ¥48,000,000 〜
■全長×全幅×全高=5475×2144×1573mm
■ホイールベース=3210mm
■車両重量=2890kg
■モーター形式/種類=ー/交流同期電動機
■モーター最高出力=584ps(430kW)/ ー
■モーター最大トルク=900Nm(91.8kg-m)/ ー
■バッテリー種類=リチウムイオン電池
■一充電航続可能距離(WLTP)=530km
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン/エア、後:マルチリンク/エア
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前後:255/40R23

フォト:篠原晃一/KShinohara

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