【FIRST PICTURE】 新デザインによる懐古主義からの脱却と伝統のV12気筒エンジンの共存「フェラーリ・ドーディチ・チリンドリ」

自然吸気V12気筒エンジンをフロントミッドに搭載した、812スーパーファストの後継種、ドーディチ・チリンドリ。あえての新デザインとV12にはブランドの信念が詰まっている。

新しい挑戦こそイタリアンデザイン

イタリア語で12気筒を意味する“ドーディチ・チリンドリ(以下、12チリンドリと表記)”の開発が始まったのは、およそ4年前。当時、自動車産業界では電動化が注目されていて「12気筒エンジンはすぐに消えてなくなる」という見方が大勢を占めていた。
「そんな時代に新しい12気筒モデルの開発に着手することには大変な勇気が必要でした」と、フェラーリのマーケティング部門と販売部門を率いるエンリコ・ガリエラは、当時の状況をそう振り返った。

それでも12チリンドリを世に送り出したのは、12気筒エンジンがフェラーリにとって掛け替えのない存在だったからだ。ガリエラが続ける。「1947年にデビューしたフェラーリ初のモデルである125Sも12気筒を積んでいました。それ以来、私たちは常に12気筒を作り続けてきました」

812スーパーファストの後継モデルとなる12チリンドリには、フロントエンジン+後輪駆動の基本レイアウトが継承された。あえてミッドシップではなく、フロントエンジンとしたのは、乗員スペースや静粛性などを重視した結果。それでもフロントミッドシップとすることで48.4:51.6という理想的な重量配分を実現している(クーペの場合。後述するスパイダーは47.8:52.2)。

インテリアには「デュアル・コクピット・アーキテクチャー」を採用。メーターパネル周りのデザインを助手席側でも反復することで、ドライバーと近い感覚が味わえるという。

さらに、俊敏なハンドリングを実現するためにホイールベースを20mm短縮。これにより失われるスタビリティは、独立型4WSを用いることで克服したという。
独立型4WSは一般的な4WSとは異なり、左右の後輪を個別に制御できるもので、コーナリング中は外輪のみ操舵される。その理由としては、遠心力により外輪は内輪よりも接地荷重が大きいために十分な効果が得られるほか、2輪を同時に動かすよりも素早い制御が可能になることが挙げられる。

シートフレームはいかにも軽量そうなカーボン製だ。

注目のエンジンは812コンペティツィオーネ用をベースにすることで9500rpmの最高許容回転数を達成。最高出力は830psを絞り出し、0→100km/h加速は2.9秒と340km/h以上の最高速度を実現する。
そうした圧倒的なパフォーマンスとともに注目したいのが、そのデザインだ。V12エンジンをフロントミッドシップするゆえ、全体的なプロポーションはオーセンティックな仕上がりで、透明なカバーで覆われたヘッドライト周りを含め、1968年デビューの365GTB/4を想起させる。

もっとも、実車を目の当たりにすると古典的な印象は皆無で、強烈な未来感が伝わってくる。その最大の理由は、着色されたガラスルーフやリアウインドーを中心として大胆なグラフィックを描き出したことにある。とりわけリアウインドー周りの逆T字形をしたデザインは、チーフデザイナーのフラヴィオ・マンゾーニが「超音速旅客機にヒントを得たデルタウィング(三角翼)コンセプト」と呼ぶもので、クルマ全体のイメージを決定づけているように思える。

いっぽう、同時発表されたスパイダーは、ファストバックのリアウインドーに代えてヘッドレストから伸びるふたつのフェアリングが設けられている関係で“デルタウィング”は採用されず、比較的大人しいデザインとされた。
堅苦しい伝統の内側に留まることなく、常に新しい挑戦を試みることこそイタリアンデザインの本質。「懐古主義ではなく、最先端のデザインを生み出しました」マンゾーニのその言葉は、12チリンドリのコンセプトをそのまま体現しているように思えた。

フォト=フェラーリ ル・ボラン2024年7月号より転載

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