【比較試乗】熟成の域に達したミドルサイズSUVに求めるのは俊敏なハンドリングかレスポンスか?「ポルシェ・マカン vs BMW iX3」

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マカンとX3はいずれも熟成の進んだモデル末期のミドルサイズSUVだ。ここでは、ガソリンエンジンを搭載した軽快なマカンTとレスポンスに優れるBEVモデルのiX3を乗り比べて、それぞれパワートレインの特性や魅力に迫る。

マカンとX3は完成度が高く安心して選べるSUV

SUVであっても一体感が味わえる走りを求めるなら、ポルシェとBMWは外せない。なかでもミドルサイズのポルシェ・マカンとBMW X3はぜひともチェックしておきたいモデルだ。
いずれもモデル末期を迎えているが、それだけにクルマとしての完成度は高く、安心して選べるのがうれしいところ。
マカンがデビューしたのは2013年11月のことで、10年超えのモデルが現行型として販売されているのは驚きだが、2018年と2021年の2度にわたってフェイスリフトが実施され、そのたびにより魅力を増してしているのはご存知のとおりだ。

PORSCHE MACAN T/2022年2月に日本導入が発表されたマカンTは、マカンとマカンSの間に位置づけられる新グレードだ。インテリアはマカンT用にコーディネートされている。標準装備の8ウェイ電動調節機能付きヒーテッドスポーツシートはブラックレザーパッケージをベースに、フロントシートとリアの両側シートの中央部はストライプ柄の「Sport-Tex」で仕立てられる。

今回、試乗したマカンTは、2022年に追加された注目のグレードで、ベースモデルのマカンと同じ2L直列4気筒ターボエンジンを搭載しながら、よりダイナミックな走りを実現するのが特徴。
これまでポルシェの911などに設定されていた“T”モデルを、初めて2ドア以外に設定したというだけに、どんな走りを見せてくれるのか、期待は高まるばかりだ。
マカンに比べるとX3はデビューが新しい。3代目となる現行型は2017年に登場し、2021年にマイナーチェンジを実施。その後、BMWは電気自動車(EV)版のiX3を追加し、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、プラグインハイブリッド(現在未設定)、電気モーターの4種類を用意している。この中から、今回はEVのiX3でマカンTに挑むことにした。

PORSCHE MACAN T/エンジンは、最高出力265ps、最大トルク400Nmを発生する2L直列4気筒ターボを搭載する。2.9L・V6ツインターボを搭載するマカンSやマカンGTSに比べ、フロントアクスルで58.8kgの軽量化が実現されている。

まずはマカンTから。911カレラTの一番のハイライトが軽量化だったが、マカンTのアプローチはそれとは少し異なるのが興味深い。911カレラT同様、ベースモデルと同じスペックのエンジンを搭載する一方、シャシー性能を高めることで走りの楽しさを追求したというのだ。具体的には、車高を15mm低めたポルシェアクティブサスペンションマネジメント(PASM)を標準装備とするとともに、フロントのスタビライザーの強化やポルシェトラクションマネジメントの最適化も図られている。オプションのアダプティブエアサスペンションを選べば、車高がさらに10mm低くなる。この試乗車もアダプティブエアサスペンションが装着される仕様だ。足元も、マカンの19インチに対して、このマカンTでは1インチアップの20インチホイールを手に入れている。アゲートゲーレーメタリックのドアミラーやサイドブレードとあいまって、より精悍な雰囲気に仕立てあげられているのが見逃せない。

PORSCHE MACAN T

運転席に着くと、スポーティかつスタイリッシュなコクピットが迎えてくれる。以前はたくさんのスイッチが並んでいたセンターコンソールはタッチスイッチに置き換えられて、すっきりとした印象に。それでいて、エアコンの温度や風量の調節には鈍く輝く物理スイッチが用意されているので使い勝手は悪くない。それ以上にうれしいのがメーターパネルで、中央の大きなレブカウンター、その左のスピードメーターがいまどき珍しいアナログタイプというのが、なんとも心地よいのだ。

PORSCHE MACAN T

SUVでも走りはやっぱりポルシェ

コクピットに見とれている間もなくさっそく走り出すと、265psを発揮する2Lターボは低回転からトルクがあり、動き出しは軽やか。レブカウンターが1700rpmを超えたあたりからは力強さを増していくから、街中でも高速道路でも実に扱いやすい性格だ。一方、いざという場面でアクセルペダルを踏み込むと、4000rpmを超えたくらいからさらに勢いがつき、6500rpm超まで気持ちの良い加速が続く。
それ以上に楽しいのがマカンTのハンドリングだ。コーナーに向かいステアリングを操作すると、間髪入れずにスッとノーズが入っていく感覚はまさにポルシェ! 2ドアでなくても、フロントエンジンであっても、同じ感覚の軽快な走りが味わえるはマカンTの一番の魅力だ。

BMW iX3 M SPORT/X3をベースに電動パワーユニットを搭載したiX3は、後輪駆動のiX3 Mスポーツの1グレードのみとなる。インテリアのデザインや操作系は、ICE搭載のX3に準じている。80kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、普通充電で最大9.6kWの充電が行なえ、約8時間で充電が完了。急速充電(80kW)であれば、68分で10〜80%まで充電することが可能だ。

それでいて、エアサスペンションとPASMを手に入れたマカンTは乗り心地も快適であり、スポーティさと快適さを見事に両立させていたのである。
EV専用設計を謳うクルマが多いなかで、このiX3はエンジン車と基本設計を共有する少数派。それでも、パネルにより上3分の2が塞がれたキドニーグリルを見れば、特別なクルマであることに気づくはずだ。
iX3 Mスポーツというモデル名からもわかるとおり、このクルマは4WDではなく後輪駆動を採用している。搭載される電気モーターは最高出力286ps(210kW)、最大トルクは400Nmの実力を誇る。床下には80kWhの大容量バッテリーが搭載され、航続距離は508㎞(WLTCモード)を達成。このクラスとしては申しぶんのないスペックだ。

BMW iX3 M SPORT/iX3のボンネットフードを開けると、大きなフードカバーがある。そのカバー外すと中には、CCU(コンバインド・チャージング・ユニット)や12Vの鉛バッテリーなどがフロントのバルクヘッド側に搭載されている。

Mスポーツだけに、存在感あるエアロパーツや20インチのMエアロダイナミックホイールがスポーティさを後押ししている。
一方、コクピットは懐かしい雰囲気が漂っている。最新のBMWに搭載されるカーブドディスプレイは搭載されず、メーターとセンターディスプレイが分離しているのがモデルサイクル末期を感じさせるが、一方、物理スイッチが並ぶセンターパネルは直感的な操作が可能で、初見でも取扱説明書に頼らずにすむのは実に助かる。
とはいえ、EVならではの操作が必要なのも確かで、メニューから回生ブレーキの設定を探す必要があった。Dレンジでは3段階のレベルと、先行車との距離から自動的にレベル調整を行う「アダプティブ」が選択可能。さらにBレンジにでは強めの回生でワンペダルドライブが可能になる。私はDではアダプティブに設定し、適宜DとBを切り替えている。

BMW iX3 M SPORT

準備が整ったところでいざ発進。0回転から400Nmの最大トルクが発揮できるiX3のモーターは、アクセルペダルを軽く踏むだけで2200kgの車両重量を感じさせないほど、動き出しは軽快だ。EVだけに、アクセルペダルを踏む右足に即座に反応する爽快さは、先に楽しんだマカンTをはるかに上回っている。
右足に力をこめると、合成音とともにスピードがぐんぐん伸びていく。0→100㎞/h加速はiX3が6.8秒、マカンTが6.2秒だが、感覚だけでいえばiX3のほうが駿足に思える。

BMW iX3 M SPORT

もともとSUVらしからぬスポーティな走りが自慢のX3だが、EV版のiX3はバッテリー搭載による低重心化により、コーナリング時のロールはごくわずかであり、前960kg、後1250kgの重量配分のおかげで、オンザレールのハンドリングが実に楽しい。
ということで、スポーティな走りを求める人にとって、間違いなく期待に応えてくれるマカンTとiX3。モデル末期だからこそ、いまのうちに新車で手に入れておきたい2台である。

【JUDGMENT】ポルシェ マカンT
どちらもスポーティな走りが楽しめるだけに正直なところ甲乙つけがたい。レスポンスの良いパワートレインを積むiX3に惹かれながらも、ポルシェらしい俊敏なハンドリングには抗しきれず、僅差でマカンTの勝ちとしたい。

【SPECIFICATION】PORSCHE MACAN T
■車両本体価格(税込)=9,010,000円
■全長×全幅×全高=4726×1927×1606mm
■ホイールベース=2807mm
■車両重量=1865kg
■エンジン種類/排気量=直46DOHC16V+ターボ/1984cc
■最高出力=265ps(195kW)/5000-6500rpm
■最大トルク=400Nm(40.8kg-m)/1800-4500rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション=前輪:5リンク、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:265/45R20、後:295/40R20

問い合わせ先=ポルシェジャパン TEL0120-846-911

【SPECIFICATION】BMW iX3 M SPORT
■車両本体価格(税込)=9,220,000円
■全長×全幅×全高=4740×1890×1670mm
■ホイールベース=2865mm
■車両重量=2200kg
■モーター最高出力=286ps(210kW)
■モーター最大トルク=400Nm(40.8kg-m)
■総電力量=80.0kWh
■航続距離(WLTC)=508km
■サスペンション=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:245/45R20、後:275/40R20

問い合わせ先=BMWジャパン 0120-269-437

フォト=小林俊樹 ル・ボラン2024年4月号より転載

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