【海外試乗】マセラティ伝統の内燃機に昂る!V8トライデントのカーテンコール「マセラティV8レンジ・ドライビングエクスペリエンス」

マセラティはV型8気筒エンジンの生産を2023年内で終了。これは3L・V6ツインターボエンジン「ネットゥーノ」や、電動パワートレインにブランドの未来を託したとも言えるが、歴史あるエンジンはさらに輝きを増すこととなるだろう。イタリア・リヴィーニョに集結した現行V8トライデントの、改めて走りの印象や発見をお届けしたい。

V8エンジンのフィナーレは歓びや愉しみとともに!

マセラティは、マラネロ謹製の歴史あるV型8気筒エンジンの生産を2023年内で終了した。1959年にトリノショーでデビューを果たし、最初にV8エンジンを搭載した5000GTの登場から64年の月日が経つこととなる。今後、マセラティのパワーユニット構成は、プレチャンバー技術を採用した3L・V6ツインターボの「ネットゥーノ」が頂点に立ち、48Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせた2L直4ターボ、そしてフォーミュラEで培った電動化技術を投入したフォルゴーレシステムと呼ばれるBEVも、今後は頭角を現してくることとなるだろう。実際にマセラティは、’25年までに全ラインナップにBEV仕様を設定するとしている。

MASERATI QUATTROPORTE/ホテルのあるボルミオからリヴィーニョのアイストラックまでの行程をクアトロポルテ・トロフェオでドライブ。トロフェオは’20年に設定されグレードで、乗り心地はすこぶる良好であった。

そんな、2023年が終わろうとする12月中旬、幸運なことにV8エンジンを搭載したギブリ、クアトロポルテ、レヴァンテを一気に試乗する機会と、V8エンジンを搭載した最後のスペシャリティモデル「ギブリ334ウルティマ」と「レバンテV8ウルティマ」のお披露目および試乗をする機会に恵まれた。
しかし意外なことに、今回マセラティが用意した試乗ステージは、扇情的なサウンドの中フラットアウトできるモデナのサーキットでもなければ、暖かい南ヨーロッパのワインディングロードでもない。イタリア北部に位置する標高2000mにも及ぶスキーリゾート地リヴィーニョのアイストラックだ。

最高出力580ps/6250rpm、最大トルク730Nm/2250-5250rpmを発揮する3.8L・V型8気筒エンジンは、マラネロにあるフェラーリの工場で製造される。クアトロポルテの0→100km/h加速は4.5秒。最高速度は326km/hに達する。

マセラティ広報のダヴィデ・クルーザー氏は、今回のプログラムについて「マセラティは新しい時代に入ろうとしている。しかしその前に我々の“特別な歴史”を祝福したいのです」と語った。つまり、特別な歴史とはV8エンジンであり、そのフィナーレは歓びと愉しみをもって祝福しよう、というなんともマセラティらしい粋なプログラムと言うわけだ。

時の洗礼がブランドの真価を輝かせる

最初にステアリングを握ったのは上位グレードのクアトロポルテ・トロフェオ。「AWDでは物足りないだろ? だから今回は全てRWDだ」と不敵に笑うマセラティのインストラクターは、まずはトラクションコントロールを使用して走るように指示。かつての記憶では、妙なクセのない扱いやすさが印象的なクルマであったが、滑りやすい路面でもその性格は基本的に同じ。突然フルスロットルにして車体を不安定にさせようとしても、巧みに制御が介入して素晴らしい安定感を披露してくれた。しかし、3周目以降、くだんのインストラクターからの「トラクションコントロールを解除しろ」という指示に従うと、その性格は一変する。アクセルペダルをタッチすると3.8L・V8エンジンは回転数を上げ、ピボットするようにリアが回転してしまう。正直、挙動をコントロールできるようになるまでは、何周ものレッスンを必要としたが、自分の意思で積極的に振り回せるようになれば、そこから先はお楽しみの世界。ターンインさえ上手く決まればドリフト遊びも自在となり、両手に汗をかきながらステアリングを握り、ゾーン状態に入り浸ってしまった。

MASERATI QUATTROPORTE/アイストラックでのFRはまさにエンターテイメント。たっぷりとパワースライド遊びに興じさせてもらった。もちろんトラクションコントロールを使用すれば安全にコースを回ることができた。日本での販売価格は2420万円。

また、クアトロポルテ・トロフェオはホテルのあるボルミオからリヴィーニョのアイストラックまでの除雪された約40kmの峠道をドライブすることができた。インターフェイスやADASは世代を感じさせるものの、クルマの本質となる走りの基本性能は全くと言っていいほど衰えはなく、最新世代のライバルに劣ることもない。むしろ乗り心地やハンドリングは成熟の極みで、最新だけが価値ではないことを再認識させてくれた。
時の洗礼を受けることでさらに輝きが増す。これこそラグジャリーの証であり、終焉を迎えるこのV8エンジンの気鋭と伝統も、色褪せることなどないのだろう。

MASERATI GHIBLI/ギブリはクアトロポルテよりも全長が291mm、ホイールベースが173mm短くなり、その差はハンドリング特性ではっきりと感じられ、アイストラックでのエンターテイメント性はギブリに軍配。日本での販売価格は1910万円。

ギブリ・トロフェオも同様のコースを走り込んだが、クアトロポルテよりもボディサイズが小さい分、コントロール性の高さが際立っていた。そして、何より大きな気づきであったのが、ボディ剛性の高さだ。各国のジャーナリストがコースを走り込むことで路面環境はじわじわと悪化し、スピンやコントロールを失う機会が増えてきても、ボディのよれを感じることはなく、身体への負担は最小限であった(だから何周も“おかわり”をしてしまった)。ダンパーやブッシュ類の足回り特性が優秀なことはさることながら、このような路面環境でもボディ剛性に破綻を見せないところは感服するほかない。
そして、今回のトピックでもある2台のスペシャリティモデルは、レバンテV8ウルティマのみ、リヴィーニョからホテルまでの一部区間の試乗が許された。

特別に用意されたグラントゥーリズモもテスト/V8のプログラムではあったが、日本でも昨年末に導入されたばかりのグラントゥーリズモの試乗も行なえた。V6ツインターボにAWDが組み合わされるため、雪上ではまったく異なる挙動を示してくれた。

基本的にレバンテ・トロフェオからメカニカルな部分での変更はなく、コスメティックチェンジが中心。とは言え軽量化によりトロフェオよりも最高速度は高まり、リアスポイラーなどのエクステリアにはカーボン素材が採用されている。インテリアやシートは「ペイル・テラコッタ」のレザーで仕立てられ上品さが漂う。ちなみに、ヘッドレストにある334の刺繍は、ギブリ334ウルティマの最高速度を表しているとのこと。このクルマの試乗は短い時間ではあったものの、AWDの安定感はバツグンで、エクスクルーシブ性は現行マセラティの中では随一と言えるだろう。
今回のプログラムではマセラティのV8エンジンを味わい尽くせた一方、ブランドの本質的な価値を再認識することもできた。新時代へとは移り変わっても、マセラティの“特別な歴史”は色褪せないどころか、さらに輝きを増すこととなるだろう。

現地到着した夜、ボルミオで行なわれたプレゼンテーションでは、ギブリ334ウルティマとレバンテV8ウルティマがお披露目された。ウルティマはイタリア語で「最後」の意。

MASERATI LEVANTE V8 ULTIMA

レバンテV8ウルティマは「ブルー・ロワイヤル」(写真)と「ネロ・アッソルト」それぞれ限定103台販売される。

写真のレバンテV8のインテリアにはペール・テラコッタとブラックの最高級レザーが採用される。いっぽう、ギブリ334のシートはアルカンターラ仕様となる。

ギブリ334が21インチでレバンテV8が22インチのホイール&タイヤを装着。

センターコンソールにはギブリ334の最高速度334km/hを示したプレートがあしらわれる。

【SPECIFICATION】MASERATI LEVANTE V8 ULTIMA
■車両本体価格(税込)=—
■全長×全幅×全高=5020×2158×1696mm
■ホイールベース=3004mm
■車両重量=2240kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3799cc
■最高出力=572ps(421kW)/6750rpm
■最大トルク=730Nm(74.4kg─m)/─rpm
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=—

MASERATI GHIBLI 334 ULTIMA

ギブリ334ウルティマは専用色の「ブルー・ディ・ペルシャ」が限定103台販売される。

【SPECIFICATION】MASERATI GHIBLI 334 ULTIMA
■車両本体価格(税込)=—
■全長×全幅×全高=4971×2128×1461mm
■ホイールベース=2998mm
■車両重量=2020kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3799cc
■最高出力=572ps(421kW)/6750rpm
■最大トルク=730Nm(74.4kg─m)/─rpm
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ:=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=—

問い合わせ先=マセラティジャパン TEL0120-965-120

リポート=佐藤 玄 フォト=マセラティ ル・ボラン2024年3月号から転載

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