愛車再現すべきか否か、そこが問題だ!
フジミ製1/24スケール・プラモデル、メルセデス・ベンツ190Eエボリューションをベースにノーマルの190E後期型へと改造した作例と、190Eの実車については、前編の記事(下の「関連記事」参照)にて、すでに詳細をお読みいただいた。
【画像44枚】フェンダーのノーマル化など、気になる制作工程を見る!
この作例は、自動車模型専門誌「モデルカーズ」の292号(2020年)のメルセデス特集のために制作されたもので、前編でお読みいただいたのは、作者・北澤氏による解説である。そこで書かれている通り、この作例は北澤氏の愛車(となる前の状態)を再現したものだが、愛車を完全に再現するかどうかというところに、ちょっとした逡巡があったようだ。これについては、同じ号における北澤氏のコラム(連載「プロモデラー千夜一夜」)で詳しいところが綴られているので、以下、こちらも転載させていただくことにしたい。
「今回の巻頭特集『メルセデス・ベンツ』、私の担当はW201・190E。ご存知の方も少なくないと思うが、かれこれ20年以上乗り続けている私の愛車と同じ車種である。当然『愛車再現やらせてよ』と私の方からネジ込んだと思われても仕方がないが、実はそうではない。今年もいつもどおり、春先に編集部(注:もちろんモデルカーズ編集部のこと)から大雑把な1年分の特集スケジュールが届いて『やりたいものあったら提案してね』と言われたので、AMG 500SECワイドボディを提案した。
『あれ? 愛車再現じゃないんですか』と言われたが、2月の某旧車イベントで見た実車があまりにもカッコ良くて目に焼き付いてしまい、これは作らなくては! と思っていたのである。写真を大量に撮ってきたので資料もバッチリだ。ところが、ちょうど先月掲載のシティ・シルエットの制作に取りかかった頃、友人の飯塚健一君から電話があって、『今AMGのSECワイド作ってて、Eクラスクーペのワイドも並行してやってんですよねー』なんて言うではないか。
彼とはクルマの好みがいつも丸カブリで、私が作ろうと企んでいるモノはだいたい彼もすでにやってるか、計画していたりするのだ。彼の腕前なら良いモノが出来上がるのは間違いないので、私は潔く退くことにして、190Eに変更したいと申し出た(注:飯塚氏のAMG 500SECについては、下の『関連記事』参照のこと)。当然『愛車再現ですね』ってことで、ライセンスプレートや窓ガラスに貼られた各種のステッカー、シガーライター接続の2連電源ソケットやマグネット式スマホ・ホルダーなど、ウチのクルマならではのディテールを作り込んでやろうかね、と考え始めたのだが……
実際に取りかかってみると、どーにもモチベーションが盛り上がらない。リアウィンドウにズラリと並ぶ神社のステッカーなんて、1/1だと微笑ましくても模型にしたらダサイことこの上ない。オールペンした時に上下2トーンじゃなくなっちゃったボディカラーも、実物はいかにもウチの子って感じで好ましいが、模型だと2トーン塗装が苦手でサボっちゃったみたいだし。本当にそんなの作りたいのか私は? なんかもう、よくわかんなくなっちゃったぞ……。
「どう作るか」は「なぜ作るか」に直結する問題なので…
実は私は普段、趣味の模型では実際に路上で運用されている個体の再現をほとんどしない。ファクトリーストックならば実車のカタログ写真っぽいのが好きで、ライセンスプレートに登録ナンバーを入れるのもあまり好きじゃない。窓ガラスに貼る保険や整備、車庫証明などのステッカーも、デカールが付いていても極力貼りたくない。そういうところから生活感が醸し出されるのがイヤなのだ。
SNSでいろいろなモデラーの方々の投稿を見ていると『友だちの◯◯君のクルマを再現したぜ!』とか『チューニングショップ□□のあのカスタムカーを作りました』みたいなのをよく見かける。レーシングカーやラリーカーなどの競技車両も、特定のレースに出走した時の姿を、当時の資料を駆使して正確に考証する人が多いようだ。
ファクトリーストックでも、登録ナンバーや保険などのステッカーを貼って、実際に路上を走っている状態を再現している人は少なくない。ライセンスプレートを自作できるインレタやデカールのセットは常に人気が高く、リリースされてもすぐに売り切れてしまう。助手席に縮小した自動車雑誌を置いたり、バッグなどの小物をわざわざ自作したりして、ドライバーやパッセンジャーの存在を暗示する人もいる。
その先にあるのはおそらくジオラマやビネット仕立ての展示だろう。人の生活の中にある自動車の姿を再現するジオラマ仕立ての作品は見ていて楽しいし、そういう小粋な作品を作れる人を私は心から尊敬する。だが、私が作りたいのはそれじゃない。
ファクトリーストックを作る場合、私は新車がショールームに展示されている未登録の状態を想定している。アメリカ製のプラモデルのパッケージによく『Show Room Stock』と書いてあるが、要するに全く何もいじってない純粋な新車状態こそ、私が作りたいものなのだ。湘南ナンバーのライセンスプレートとか窓ガラスのステッカーとか電源ソケットなんてものは、いわば190Eにまとわりついて純度を下げてしまう雑味みたいなもんだということに、今さらながら気が付いたのである。
もっとも、これはあくまで趣味の模型の話であって、仕事で作る模型に関しては話が別だ。『私の愛車を細部までそっくりに作って』という制作注文はわりと良くあるし、本誌の作例でも実在する個体を再現したものは少なくない。仕事であるからには自分の嗜好は棚上げにするのが当然だ。昼も夜も同じことをやっているようでも、自分の中ではちゃんと仕事と趣味の区切りはついているワケで……
しかし今回はちょっと微妙だったのだ。本誌の作例も厳然と仕事のひとつではあるけれど、エボ1改造で190E後期型ノーマルというお題は、私が実物に乗っているからこそ採用されたのに違いない。作例の制作メニューは基本的には当方にお任せで『必ず愛車再現じゃ無いとダメ』と言われたワケではないが、ある程度それを期待されていることも判っている。この仕事と趣味の狭間感。さてどーしたもんかね。
で、オーバーフェンダーをモーターツールでゴリゴリ削りながら煩悶した挙げ句に思いついたのが『ウチのクルマを私が買う前』の再現というワケだ。実に苦し紛れな結論であるが、ウチのクルマはちょっと不思議な仕様だから、ミニカーでも全く同じスペックというのはあり得ない。結果、出来上がったモノには深く深く満足している私である」