連載【桃田健史の突撃!キャンパーライフ「コンちゃんと一緒」】~ジャパンキャンピングカーショーは「フィアット デュカト祭」! 軽キャン含めて市場は新たなる展開へ~

「なるほど、一気にキタなぁ~」。
コンちゃんと一緒に、今年もジャパンキャンピングカーショー(2023年2月3日~6日、於:千葉県幕張メッセ)を視察に行ったのだが、フィアット「デュカト」の存在感が凄かった。
福岡を本拠とするNUTS、岐阜を本拠とするトイファクトリー、そして愛知を本拠とするホワイトハウスなど、5社が「デュカト」をキャンピングカー仕様に仕上げた。
日本でのキャンピングカーと言えば、「ハイエース」や「カムロード」をベースとするのが一般的で、全国各地のビルダーが多彩なアレンジをしている。そうした中で最近は、売れ筋が似通ってきている印象がある。
そんな中、「デュカト」は「白いキャンパスに自由に絵を描く」といったイメージで、ビルダー各社の独自性が強調されている感じだ。ビルダーとしては、「デュカト」を新たなるビジネスチャンスとして捉えており、これからさらに参入するキャンピングビルダーも増えることは確かであり、顧客獲得競争が激化しそうだ。
まさに、日本では今、「デュカト」ベースキャンピングカーの創世記である。

商流が分離しているようで分離していない?

日本における「デュカト」の存在について、少し振り返って見てみよう。
今からちょうど1年前のジャパンキャンピングカーショーで、フィアット、アルファロメオ、シトロエン、マセラッティ、ジープなど14のブランドをグローバルで展開するステランティスジャパンから、フィアットの商用車である「デュカト」の日本導入を正式に決定した。
しかも、注目点は「デュカト」を業務用の商用車としてではなく、「キャンピングカーのベース車」と位置付け、それをキャンピングカービルダーに販売する点だ。一般的に、新車の商流は、メーカーはその名の通り製造者であり、製造したクルマを販売店に卸売り販売する、「B to B(ビジネス・ツウ・ビジネス:業者間取引)」の形式となる。そこから、販売店が仕入れたクルマを、販売店がユーザーに販売する。つまり、商流の全体としては、「B to B to C(コンシューマ:消費者)」という形になる。

一方で、「デュカト」の場合も、ステランティスジャパンからすると、「B to B to C」なのだが、キャンピングカーによる大規模な加装が前提であり、一般的なクルマの商流とは違う。一見すると「B to B」と、「B to C」が分離しているように見えるが、実は「B to B to C」だと言えるだろう。

「際立つ」ことがブランド戦略成功への道

「デュカト」の事例と比較するため、「B to B」と、「B to C」が分離しているケースを紹介する。それは、光岡自動車だ。例えば、大人気車の「Buddy」のベース車はトヨタ「RAV4」であり、また2ドアスポーツカー「Rock Star」はマツダ「ロードスター」だ。
ところが、トヨタもマツダも、加装を前提として新車を光岡自動車に直接、卸売り販売しているわけではない。光岡自動車は、トヨタとマツダの販売店から新車を仕入れて、それを架装しているに過ぎない。トヨタ本社とマツダ本社にも、こうした商流について確認してみたが、両社とも「あくまでも、正規販売店と光岡自動車との間の売買取引」であり、自動車メーカーとしての関与は全くないという立場を明確に示している。
こうした図式は、「ハイエース」や「キャラバン」、そして各種軽自動車を使う本格的なキャンピングカーでも同様だ。自動車メーカーはキャンピングカービルダーに対して直接関与していない。キャンピングカービルダーは正規新車販売店や中古車販売店などを通じてベース車を仕入れて、それを架装しているに過ぎない。
そうした中で、珍しいケースとしては、例えばコンちゃん(ハイエース・アルトピアーノ)のように、正規新車販売店の大手が独自プロジェクトとしてキャンピングカー仕様を手掛けることがある。
ただし、自動車メーカーとしての新車補償の枠や、自動車メーカーとしての社内規定から逸脱しない範囲で加装をするため、いわゆる「ライトな感覚の」キャンピングカー仕様にとどめているのが特長だ。
このように、日本でのキャンピングカーの商慣習から考えて、ステランティスジャパンの「デュカト」キャンピングカー戦略がいかに珍しい手法であるかが分かるだろう。

「三菱デリカミニ」は「軽キャンっぽさ」の筆頭か?

では、近年人気が上昇している軽自動車の軽キャンについてはどうか?
様々な軽キャンビルダーがコンプリートカーを紹介しているが、その一方でユーザー自身の軽キャンをカスタマイズのかなり盛んになっている印象がある。大がかりなDIYではなく、ホームセンターや100円ショップなどで「これなら、キャンパー仕様に使えそう」という様々なアイテムを少しだけ加工して車載する、といった感じだ。さらには、ユーザー個人が新車販売店から購入できる、軽キャンを前提とした商品開発志向のある軽商用が各社から出揃った。
先行したホンダ「N-VAN」続き、ダイハツ「アトレー」やスズキ「スペーシア ベース」の需要が個人ユーザーの間で浸透し、軽キャンユーザーのすそ野を一気に広げた。それでも、商用車を購入することへの心のハードルがある人が多い。そうしたニーズにハマりそうなのが、三菱「デリカ ミニ」だ。
三菱(自動車工業)の「デリカ ミニ」開発関係者に直接話を聞いたが、ターゲットはアウトドアを気軽に楽しみたいファミリー層。「デリカD:5」には、クルマの大きさや価格などで、ちょっと手が届かないが「軽だったら…」というユーザーの背中をポ~ンと押す感じのクルマである。四駆性能は、ベース車である「eKクロススペース」と基本的に同じで、タイヤサイズの変更やショックアブソーバーの仕様変更によって、砂利道などの未舗装路での操縦安定性と乗り心地をカイゼンした、という。これで、気軽に「軽キャンっぽさ」をファミリーで体験してもらおうというのだ。

以上のように、キャンピングカー、またはクルマを使ったアウトドアに関する市場動向は、コンプリートカーとして1000万円前後の「デュカト」効果による上級志向と、ノーマル軽自動車のライトなカスタマイズ志向の二極化が、今度さらに進むのではないだろうか。その中間にある、「ハイエース」や「タウンエース」のバンコンでも、上級化とライト化の二極化が徐々に進んでいくように思う。
これからも、コンちゃんと一緒に、キャンピングカーやクルマを使ったアウトドアについて様々な角度から体験を積み上げていこうと思う。

フォト=桃田健史 K.Momota

この記事を書いた人

桃田健史

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、自動運転、EV等の車両電動化、情報通信のテレマティクス、そして高齢ドライバー問題や公共交通再編など。

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2023/02/15 12:00

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