戦後の荒廃に対応して生まれたトランスポーター
第二次世界大戦後のヨーロッパでは、”カビーネンローラー”、”バブルカー”などと呼ばれる極小の自動車――その多くは三輪車――が人気を博していた。敗戦国ドイツとイタリアはもちろん、ヨーロッパ全域を経済的な疲弊が覆ったため、彼の地の庶民は自動車に乗ることもできず、最低限度のトランスポーターで凌いでいたのである。そうしたマイクロカーの中で特に日本でも有名なのが、BMWのイセッタであろう。
【画像44枚】可愛らしく仕上がったイセッタとその制作工程を見る!
イセッタは、元来はイタリアのイソ社から送り出されたものだった。のちにリヴォルタなどの高級GTを手掛けることになるイソだが、もとは冷蔵庫や暖房器具を製造していた会社である。一説には、冷蔵庫を間に挟み2台のスクーターを置いて設計が練られたと言われるイセッタだが、同社がこれを発表したのは1952年のこと。
冷蔵庫をおむすび型につぶしたようなボディに236ccの空冷2気筒エンジンを搭載、後輪のトレッドが極端に狭い四輪車としてデザインされたイセッタは大反響を呼び、翌年から発売されたのだが、セールス的にはなぜか失敗に終わってしまった。
これに目を付けたBMWが生産権および生産設備を買い取り、自社製品として発売。これが1955年のことなのだが、こちらの販売は大成功。BMW独自の改良を加えてエンジンを298ccに拡大したイセッタ300を追加し、イギリス向けには三輪仕様を用意するなど様々な展開が行われた。なお、イソでの設計も元は三輪だったという。こうして人気を博したバブルカーだったが、やがてそれらを駆逐していったのは、フィアット500やミニなどの小型四輪車だったのである。
ヒンジやレバー類に気を使って作る!
BMWイセッタのプラキットはグンゼ(現GSIクレオス)の1/24キットがあったが、ここで採り上げるのは、2016年に新金型キットとして登場した、ドイツレベル製1/16モデルだ。大スケールにもかかわらず、実車が小さいため完成してもほぼ1/24乗用車サイズである。ご覧頂いているのは、このキットをほんの少しディテールアップして制作したもの。
キットの印象としては、イセッタのコロンとした感じが出ていてなかなか良い。ボディはフロントパネル(ドア)が可動式で、ステアリングも連動する。ボディ側にモールドされたドアのヒンジが大きいのは仕方ないが、下側のヒンジは形状的にも修正した方がよい。上のヒンジは1/4ほどが欠けた形なので、これも修正した。塗装後は組み付けがキツくなるので、組み立てで破損しないよう注意する。
サイドウィンドウのレインモールは若干曖昧な表現なので、一旦モールを削り、プラ棒で作り直した。エンジンカバーも少々きついので事前に調整しておこう。ヘッドライトは庇付き/無し、ルーフトップは閉じたもの/開いて畳んだもの、各2種類が付属する。サイドウィンドウは接着シロが僅かなので注意が必要だ。作例ではエポキシ接着剤を薄くつけて接着した。
インテリアは一部のレバーがモールド表現なので、作り直すとよいだろう。シート表面に細かなモールドがされているので、デカールを貼る時は注意。このデカールはパターンが粗いので使用しなかった。シャシーフレームはボディ底面パネルと一体なので、塗装の際のマスキングはかなり面倒だ。足周りは実車と構造が違うが、模型としてはこの方が丈夫だろう。孔がきつい所があるので仮組み・調整は必須。エンジンは一応プラグとコイルを追加したが、そのままでもよいだろうと思われる。
ボディカラーは作者の好みで選んだもの。赤、青、黄色のイセッタは色々な所で見るので、緑系の色とした。ライトグリーン、和名で言えば山葵色(わさびいろ)というような色だ。クレオスのGX6モウリーグリーンにGX1クールホワイト、GX2ウイノーブラックを混ぜて塗装。白い部分はGX1にGX2とC44タンを混ぜ、すこしくすんだ色としている。内装はC44とC33つや消し黒のコンビネーション。このクルマは形が可愛いので、似合う色を自分であれこれ考えるのも楽しいだろう。