正直にいうと、先進国の成熟市場にSUVが定着し、セダンのセグメント全体に、秋風どころか厳冬が訪れている中で、時流に乗れていない気もしていたし、中国市場コンシャスにまとめられるだろうと、たかを括ってさえいた。だがドアを開けて内装に触れ、走り出すと、時流に乗る必要もない独自の世界観が、一気に目の前に開けた。DSの新旗艦に完敗&乾杯だ!
DS初の非SUVモデルは入念に造り込まれたPHEV
シトロエンから派生して7年、ステランティス・グループ内でもハイエンドエレガンスかつ電動化ブランドの位置づけが与えられた新生DS。DS7とDS3両クロスバックに続く3番目のモデルは、メルセデスEクラスやBMWの5シリーズらがひしめく欧州Eセグメント、車型としてドライバーズカーとして古典中の古典に切り込んだ。フランス流のハイエンドを掲げるDSにとって、そのブランド性を固めるために避けては通れない試金石でもある。
DS7クロスバックがわりとサルーン顔だったせいか、フロントマスクは順当。むしろひと癖ありは後ろ姿で、リアウインドー左右上端に純粋な飾りだが補助灯と、LEDコンビネーションランプから前方にクロームのインサートが入る。これは1955年登場のシトロエンDSのウインカーとリアバンパーをモダン解釈した細部で、なくても構わないことは確かだが、DS9の何たるかを語る・知るための、何かではある。
だが、DS9の本懐はインテリアだ。ドアパネルからダッシュボードにセンターコンソール、フロントシートの背面まで、丹念に張られたルビーレッドのナッパレザー内装の質感は、圧巻だ。初めは刺激的でも、ダークトーンゆえ落ち着いて見える。天井は濃いグレーのアルカンターラ張りで、仄暗いというより柔らかマットな光に包まれる居心地だ。仏流の洗練とシックの権化ともいうべきこのDS9の「リヴォリ」内装には、白黒モノトーンのレザー仕様にはない独特で圧倒的な華が薫り立つ。
エンジンスタートで回転するBRMの時計やギョーシェ彫りの操作類などはDS7クロスバックと同じ要素だが、SUVより囲まれ感や陰影を強調した空間である点が、サルーンのフォーマルさとプレステージ性を際立たせる。
走りはプジョー508の二番煎じどころか、斜め上を行く驚きに満ちている。HV走行の通常モードでは、むしろソリッドな乗り心地に、適度にゲインが強過ぎないステアリング、さらに2895mmにおよぶロングホイールベースFFの恩恵で矢のような直進安定性という、古典的なドイツ車もびっくりの動的質感を伝えてくる。制御は違うが508では大人しく感じたFF/225psのPHEVパワートレインは、一貫して滑らかかつ低速域で軽やかに小気味よく、中速域から上は踏み込むと力強く、DS9のキャラクターによく合っている。
コンフォートモードでは、路面をカメラで読み取ってダンパー減衰力を最適化するDSアクティブスキャンサスペンションが発動され、いにしえのビッグ・シトロエンもかくやの、柔らかなダンスが始まる。4輪の粘るような接地感と周期の大きな揺らぎに身を任せる感覚は、柔らかとかソフトというよりスウィートですらある。それでいてステアリング舵の正確さが失われず、カントリーロードの中高速コーナーで不安を感じさせない。同じようなスポーティコンフォートが楽しめる他車の似た機能として、ベントレーのBモードすら彷彿とさせる。「DSモード」と名称を変えてもいいぐらいだ。
かくもFFロングホイールベースを究め尽くし、「DS」としての世界観をモダンな解像度で表現したDS9。ドイツ車に立ち向かうのではなく、自らの立ち位置をそこはかとなく示す、フラッグシップとして王道の名解釈だ。
【Specification】DS9 E-TENSE 225
■全長×全幅×全高=4934×1932×1460mm
■ホイールベース=2985mm
■トレッド=前1584、後1586mm
■車両重量=1839kg
■エンジン型式/種類=-/直4DOHC16V+ターボ
■総排気量=1598cc
■最高出力=180ps(133kW)/6000rpm
■最大トルク=300Nm(30.6kg-m)/3000rpm
■システム最高出力=225ps
■システム最大トルク=360Nm
■燃料タンク容量=42L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式=前ストラット/コイル、後マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前Vディスク、後ディスク
■タイヤ=前235/45R19、後235/45R19
※表中はすべて欧州仕様値