8世代目となる新型コルベットが待望の日本上陸を果たした。その最大のトピックは既報の通り、これまでの駆動方式がFRからMRに変更されたことだが、その他にも、コルベット初の右ハンドルの採用をはじめ数々のプロダクトハイライトが投入されているのだ。
必然といえるミッドシップ化
今年も個人的に「早く乗りたいクルマ」がいくつかあって、シボレー・コルベットもそのひとつだったから、ついに念願叶ったことになる。「C8」と呼ばれる8代目は、その歴史上もっともドラス
ティックな変貌を遂げたモデルと言える。これまでのフロントエンジン/リアドライブのFRから、ミッドシップに駆動形式を改めたからである。ポルシェ911がリアエンジン/リアドライブのRRを死守するのと同じように、コルベットもまたFRと共に生きていくのだろうと信じていたから、「次期型がミッドシップ」という一報を聞いたときは椅子から転げ落ちそうになった。
ミッドシップに変更した理由について「FRはやり尽くした」とエンジニアは述べているようだけれど多分本意だと思う。スポーツカーの理想を追求すると、FRで大パワーのクルマをまともに走らせるには限界があり、物理的にも有利なミッドシップに行き着くのは必然である。だから、ロータスもフェラーリもマクラーレンもあのポルシェでさえもミッドシップレイアウトを採用しているのだ。
Aピラーの先端を頂点としてリアへ向かってなだらかに下っていくルーフラインは、キャビン・フォワードのミッドシップらしいシルエットを強調している。フロントノーズがどーんと長かった先代までは、あれはあれでFRを想起させるデザインだったから、駆動形式に準じたデザインという観点からすれば、新型になってもコルベットのデザインコンセプトにブレはない。
現代のミッドシップスポーツカーのアーキテクチャーには、キャビン部分をカーボンモノコックにして前後のアクスルを締結するタイプやアルミのスペースフレームを用いるタイプなどがあるが、新型コルベットは後者である。特徴はセンタートンネルを太く頑強に構えている点。エンジンは後ろにあるからプロペラシャフトは通っていないのだけれど、まるでそれが貫通しているかのような存在感である。センタートンネルをいわば大黒柱にして、ボディやシャシーのたわみや捻れを抑制すると共に、サスペンションの動きを邪魔しない設計になっていると思われる。サスペンション形式は前後ともダブルウイッシュボーン。これに磁性流体を使ってオイル粘度に変化を持たせ、減衰力を連続可変するダンパーを備えたマグネティックセレクティブライドコントロールを装備している。
ミッドシップになったことも驚きだけれど、運転席に乗り込む際に右側のドアを開けるのもまた驚きである。ついにコルベットにも右ハンドル仕様が用意された。その要因のひとつが、フロントのバルクヘッド前方にパワートレインがなく、ステアリング機構の設置の自由度が高いミッドシップにあることはおそらく間違いない。ステアリングやペダルのオフセットもほとんど気にならず、低い位置に足を前方に投げ出すような姿勢で座るドライビングポジションは、それだけでもう走り出す前からスポーツカーに乗っている雰囲気満載である。
スクエアに近いステアリングの奥には液晶のメーターパネルがあって、その左側にはドライバー側に向けられたタッチパネル、その下にドライブモードの切り替え用ダイヤル式スイッチとトランスミッションのプッシュ/プル式スイッチが整然と並ぶコクピット。さらに助手席との間には仕切りまであって、”包まれ感”が半端ない。その仕切りの上にずらりと並んだ18個もの空調関連スイッチは、「タッチパネルの中に入れなさいよ」とも思ったけれど、そこに置きたくなる気持ちは分からなくもない。きっとインテリアデザイナーは男子だと思う。
乗り心地のよさと絶妙なハンドリング
走り出してまずはその乗り心地のよさに感心し、続いて後方から聞こえてくるメカニカル音に「あ、プッシュロッドか」と悟った。プッシュロッドとかOHVとか言って響くのは、もはやいまだにテレビを見ていてなんの疑いもなくリモコンを指さして「チャンネル”回して”」とほざいてしまう昭和のおっさん世代だけかもしれない。ミッドシップになってもコルベットは伝統のV型8気筒で自然吸気の6153cc OHVエンジンを捨てなかった。そしてミッドシップレイアウトの特性が活かせるよう、ドライサンプにして低重心化も図っている。
637Nmの最大トルクの発生回転数が5150rpmだからといって、低回転域におけるトルク不足の心配は無用である。たっぷりの排気量と1600kg台の車両重量のおかげで、低中速域での加速は必要以上にパワフルだ。自然吸気らしいスムーズで滑らかな回転フィールも心地良い。これに組み合わされているトランスミッションは8速DCTで、Dレンジでたまに予期せぬ軽いショックに見舞われたけれど、シフトプログラムや変速スピードは概ね良好だった。
でも新型コルベット最大の魅力はハンドリングにあると思う。基本的にはニュートラルステアで、まあとにかく見事に綺麗な挙動でコーナーをクリアする。ターンインから旋回姿勢が整うまでの過渡領域がとてもしなやかで、猫が高いところから飛び降りて着地する時のフワッとしっかりした感じにちょっと似ている。これは車両中心に重量物を配したミッドシップだからという理由だけではなく、重量配分(車検証換算で39:61)や重心高やホイールベースやトレッドといった物理的要件を元に、サスペンションやタイヤ(ミシュラン・パイロットスポーツ)の性能やステアリングギアや電子制御式LSDを吟味して入念にセッティングした賜物と推測する。シボレーにこんなチューニングの魔術師みたいなエンジニアがいたのかと感服した次第。いたずらにステアリングゲインを上げず、あくまでもドライバーの入力の量や速度に忠実に正確に反応する操縦性の作り方はとてもスマートである。
ステアリングの切り始めのところをナーバスにしていないから、高速道路での直進安定性も抜群にいい。ステアリングに軽く手を添えているだけで修正舵はほとんど必要なく、スタビリティの高さを実感できる。加えて、速度を問わずにほぼ同じ乗り心地もキープする。試乗の間、ずっと助手席で話し相手をしてくれていた編集部のK女史から乗り心地に関する不満はひと言も聞かれなかったので、きっと快適だったのだろう。
直進安定性をおろそかにしなかったのは、本国アメリカの道路事情を考慮したのかもしれない。V8の採用だってアメリカ人の強い要望に違いない。コルベットは相変わらずやっぱり”アメリカ・ファースト”だったけれど、それがグローバルでも戦える絶対的な性能に成長していた。
【Specification】シボレー コルベット・クーペ3LT
■全長×全幅×全高=4630×1940×1220mm
■ホイールベース=2725mm
■トレッド(前/後)=1630/1570mm
■車両重量=1670kg
■エンジン型式/種類=LT2/V8OHV16V
■内径/行径=103.2×82.0mm
■総排気量=6153cc<
■最高出力=502ps(369kW)/6450rpm
■最大トルク=637Nm(65. 0kg-m)/5150rpm
■トランスミッション=8速DCT
■サスペンション=前:Wウイッシュボーン/コイル、後:Wウイッシュボーン/コイル
■ブレーキ=前:Vディスク、後:Vディスク
■タイヤサイズ=前 245/35ZR19、後 305/30ZR20
■車両本体価格(税込)=14,000,000円
公式ページ https://www.chevroletjapan.com/cars/all-new-corvette/model-overview.html
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