かつての365GT4からおよそ50年振りとなるV12搭載のFRスパイダー、「812GTS」が上陸した。812スーパーファストをベースにリトラクタブルハードトップが与えられたオープンスーパースポーツは果たしてどんなドライビングワールドを披露してくれたのか?
オープンボディならではの爽快なサウンドを堪能
フェラーリ812GTSは、先に登場した812スーパーファストのオープン版である。
ベースとなる812スーパーファストはご存知の通り、フェラーリのラインナップの中でもトップクラスにある、V型12気筒エンジンを搭載した高性能モデル。そして812GTSはこれをもとに、リトラクタブルのハードトップを与えた1台である。
以前試乗した812スーパーファストでも感じたことだが、やはりV12を搭載するトップクラスのフェラーリは存在感がとてつもなく大きい。ボディサイズは全長4693㎜×全幅1971㎜×全高1278㎜と、このクラスでは標準的なのだが、発せられるオーラからかそこにあるだけで張りつめた空気が感じられる。
メカニズムは812スーパーファストと共通で、フロントミッドに搭載される6.5LのV型12気筒ユニットも、同スペックとなる最高出力800ps、最大トルク718Nmを発生。これを後輪にマウントされた7速DCTを介し、後輪を駆動するトランスアクスル式FRレイアウトを採用している。圧倒的なパワーを持つV12を搭載しながらも駆動方式はFRで、果たしてそれだけの大パワーを後輪だけで受け止め切れるのか? という心配をよそに、動力性能は途方もない数字が並ぶ。0→100km/h加速は実に3.0秒以下、最高速は340km/h以上をマークするのだ。
このV12ユニットは、試乗中はずっとその存在を意識させる。クルージングの状態ならば、サウンドも控えめに豊かなトルクを供給し続けるが、ひと度アクセルを踏み込めば、大排気量とは思えぬほど軽やかに吹け上がり、同時に美しい音色を耳に届けてくれる。
この大パワー&大トルクの前にあっては、物理の法則も関係ないような世界が現れる。アクセルを強く踏み込めば、ワープするような感覚とともに高らかに鳴り響くエキゾーストが奏でる、至高の時間がもたらされるわけだ。
しかし812GTSの真骨頂は、やはりルーフを開けた時だ。走行中でも45km/h以下であれば開閉可能。ボタンを押して約14秒で世界は一変する。クローズドでの812GTSの印象は、812スーパーファストとの共通性を感じたが、ルーフを開けた瞬間から別のクルマになる感覚だ。
それはオープンならではの開放感は当然として、音の環境が全く異なるのだ。クルージング時は控えめに感じていたサウンドも、オープン状態では贅沢なBGMといえるほど心地よく耳に届き、この状態から踏み込むと、後方から盛大な音楽が奏でられるのだ。
しかもオープン状態ではサウンドだけでなく、走りも812スーパーファストとは異なる。その圧倒的なパワーとトルクの前に、クーペボディですら荒れた路面では後輪が空転するほどの甘く危険な香り漂う挙動をみせていたのだが、オープンボディを持つ812GTSではより生々しさが際立つ。試乗したのは冬の朝方だったが、ルーフを開けて冷たい空気を浴びたことで、身が引き締まった感じだ。
だがそれ以上に緊張したのは、リアタイヤをいとも簡単に空転させるパワーが右足にかかっていることだ。アクセルを大きく開けると後輪が力を受け止めつつ、身を捩らせながら猛烈な加速を生むあたりは、812GTS特有の感覚といえるだろう。それ以上踏み込めば、高いギアでもタイヤが空転する。このあたりは812スーパーファスト以上に痛快さな部分だ。
こうした強烈な加速やボディ特有の動きを感じつつ、耳に届くV12サウンドを味わうのは、まさに限られた人だけが味わえる世界。それがフェラーリ812GTSの大いなる魅力なのだろう。