ブラックシリーズとは、AMGがプロデュースするサーキット向けのハイフォーマンスバージョン。これまで2006年に登場したSLK55AMGから2013年のSLS AMGまで計5台が登場してきたが、今回は約7年振りにトップモデルのAMG GTにその名が冠された。試乗の舞台はドイツのラウジッツリンク、ユーロスピードウェイだ。
AMGだからこそ作れる究極のロードカー
ピットロードに現れたGTブラックシリーズは、眩いほどのマグマオレンジに身を包み、随所にブラックのカーボンパーツが散りばめられていた。最も目立つのはリアエンドにそびえ立つ巨大なウィングで、250km/hでのダウンフォースは400kg、325km/hのトップスピードではなんと2倍の800kgを発生し、ボディを路面に押し付ける。
エンジンのベースは標準のGTと同じ4L V8ツインターボだが、ターボチャージャーやスポーツカムシャフト、クランク、エキゾーストシステム、さらにはクーリングなど、ほぼすべてのパーツは専用設計で、その実体まさにレーシングユニットさながら。最高出力は730ps/6700rpm、最大トルクは800Nm/2000-6000rpmを発生させる。この結果、7速DCTを介してのダイナミック性能は0→100km/h加速が3.2秒、最高速度は325km/hと発表される。ちなみに、車両重量は1540kgだ。
ヘルメットのサイズをチェックしている間に、メカニックたちがエアスプリッターやウィングの調整、さらにはミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2Rの温度もチェックしてくれる。まるでレーシングドライバー並みのホスピタリティ? である。
シートは完璧なサポート性を持つフルバケットで、サーキット走行では必須の4点式シートベルトを装備。ちなみに、この仕様は助手席とのオプションで7540ユーロ(約95万円)のエクストラとなる。ただし、ドア内張りをはじめキャビン内のトリム類はすべてアルカンターラで覆われており、スパルタン一辺倒のレーシングマシンとは異なる一面も確認できる。
ペースカーに先導されてコースイン。2周目から徐々にスピードを上げてコーナーに進入するが、スピードメーターを見ると通常の走行時よりも明らかに速い。一瞬躊躇しブレーキングが遅れたにも関わらず、コントローラブルかつ巨大な減速Gを発生させるカーボンセラミックブレーキのおかげで、ニュートラルな姿勢を大きく変えることなくクリア。サスペンションもまさにレーシングマシンのそれで、調整式ダンパーユニットのほか、すべての軸受はピロボールで、ステアリングはヒリヒリするほどシャープながら、路面からのインフォメーションはしっかりと伝わってくる。驚くべきはミシュランのウルトラハイグリップで、コーナー、そしてストレートでも狙った通りのラインを寸分違わず踏んでいける。
入念なセッティングを施してくださったAMGのメカニックには申し訳ない気持ちでいっぱいだが、今回の数周ではブラックシリーズ本来のパフォーマンスの半分すら引き出すことができなかったというのが本音だ。しかし、最新GT3マシンの実力の片鱗に触れることができたのは大きな成果だった。と同時に、これを究極のロードカーに仕立てたAMGの技術力にもあらためて感服した次第だ。
AMG GTブラックシリーズの価格は、ドイツの19%付加価値税込みで33万5240ユーロ(約4200万円)。嬉しいニュースは、このブラックシリーズは限定生産ではなく、カスタマーからのニーズが終了するまで販売が継続されるということ。ただし、日本市場ではホモロゲーションの関係で、やはり限られた販売台数になってしまうかも知れないが……。
【SPECIFICATION】MERCEDES-AMG GT BLACK SERIES/メルセデスAMG GTブラックシリーズ
■ホイールベース=2630mm
■車両重量=1540kg
■エンジン型式/種類=M178LS2/V8DOHC32V+ツインターボ
■内径×行程=83.0×92.0mm
■総排気量=3982cc
■最高出力=730ps(537kW)/6700-6900rpm
■最大トルク=800Nm(81.6kg-m)/2000-6000rpm
■トランスミッション形式=7速DCT
■サスペンション形式=前ダブルウィッシュボーン/コイル、後ダブルウィッシュボーン/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ=前285/35ZR19(10J)、後335 / 30ZR20(12J)