合い言葉は「Hey,メルセデス」
「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)」こそ、新型メルセデス・ベンツAクラスの最大の目玉。そう断言してしまおう。AIを活用したこの新しいユーザーインターフェイスは、車内での人とクルマの付き合い方を変えていく。そんなパワーを持っている。
外観は、すでにメルセデス・ベンツ各車が採用する大型TFTディスプレイを2枚連結させたワイドスクリーンコクピットを踏襲するが、3D表示を多用したグラフィックスは更に美しく、そして見やすくなっている。よく使う機能、アプリを手前に置いておけるなど、表示内容のカスタマイズを幅広く行なうことができるのも嬉しい。
特に目を見張ったのはVR(拡張現実)を活用したナビゲーションだ。フロントカメラで撮影した車両前方の映像に、矢印や交差点名などのナビゲーション情報を重ねて表示することで、曲がるポイントなどの確認が容易になる機能は、純粋に見た目のインパクト、言ってみれば“未来感”の演出ぶりも凄まじい。
操作系は、まずセンター側のディスプレイをタッチスクリーン化。更に、センターアームレストには触感フィードバック機能付きのタッチパッドコントローラー、そしてステアリングホイールのスポーク左右に、親指で操作するタッチスイッチが組み合わされる。
タッチスクリーンの採用による操作環境の変化に合わせて、各メニューの階層構造は見直されており、タッチパッドなどを使った操作には、これまでのロジックに慣れているほど頭の切り替えに時間がかかるのは事実。しかしながらタッチスクリーンならば、使い慣れたスマートフォンのようにスワイプ、ピンチなどが使え、地図の拡大や縮小、向き変えなども指先ひとつで済むのを一度味わったら「これは、もう戻れないかも」と思えた。
いや、MBUXにはもっと簡単な操作方法が備わっている。それは「Hey,Mercedes」と声をかけるだけで起動するボイスコントロールである。
その特徴は、AIの活用によって人間の自然な発話を理解することだ。つまりクルマに合わせた特殊なコマンドを唱えなくても、人間にそうするのと同じように話しかけることができる。
たとえば「明日はサングラスが必要?」と聞けば、MBUXはユーザーの知りたいことは何かと類推する。そして質問の意味は「明日は晴れますか?」ということだと理解して、明日の天気を報せてくれるといった具合。必ずしも「明日の天気は?」と聞く必要は無い。今回の試乗でペアを組んだ今井優杏さんに実践してもらった動画の通り、室内が少し寒いなと感じたら「エアコンの温度を上げて」ではなく「寒いよ」と言えば良い。『エアコンの温度を**度に設定します』というメッセージとともに、温度設定を変更してくれる。
解析は車載コンピューターとサーバーのデータの両方を用いるハイブリッド式。しかしながらネット接続されていない状態でも十分に使えるものとされているのは、車載専用システムならではだ。
要するに、これはAmazon AlexaやGoogle Assistantの車載版。辞書に当たる部分は常にアップデートされ、新しい地名や道路名、更には言い回しや俗語なども覚えていくという。対応言語は23にも上り、当然そこには日本語も含まれる。今回は英語版しか用意されていなかったので、呼びかけの「Hey,Mercedes」すら、かなり流暢に話さないと反応してくれなかったが、改善されていることを願いたい。念のため、話さなくてもステアリングスイッチで起動は可能だ。
それにしてもワクワクさせられるのは、革新的な新機能それ自体もさることながら、それをAクラスというエントリーモデルにまず搭載する、メルセデス・ベンツというブランドのアグレッシヴさである。若いユーザーに、まず提供してそうした姿勢をアピールする。あるいは機能を洗練させていくというやり方は、絶対に正解。素晴らしい進化を果たして、いよいよ“メルセデスらしく”なってきたAクラス自体との両輪で、このMBUXがブランドの勢いを更に加速させる存在になることは間違いないだろう。
コンテンツ提供:Sustaina サステナ