整流だけでなくエンジンルームの吸排気特性も改善
初代NSXのエクステリアデザインは戦闘機のスタイリングをモチーフにしていた。それは誰の目にも明らかで、好き嫌いはともかく必然性に裏打ちされた説得力を与えていたのは確かだろう。では、一見したところ“デザインのためのデザイン”のカタマリにも思える新型NSXのエクステリアデザインは、いかにしてそこへと辿り着いたのだろうか。
2017年モデルのNSXのエクステリアデザインは、スーパーカーらしいエキゾチックな美しさとハイパフォーマンスを反映しているとはホンダの弁だ。「形態は機能に従う」を旨としてすべての形状を決定しているとのことで、ボディパネルの表面、液体的な形態、エアインテークとアウトレットの位置や形状などは、すべてが流体力学に基づく数千時間にわたるコンピューター解析と風洞実験の結果から導かれているという。エクステリアデザイン・プロジェクトリーダーのミッシェル・クリステンセン氏は「美しいデザインと性能の視覚的表現が新型NSXであり、すべての面、すべての寸法、すべての要素がパフォーマンスを向上させるために設計されています」と語っている。
そうした姿勢を象徴しているのが、特徴的なフローティングCピラーだ。Cピラーを浮かせる細工はこのNSXがはじめてというわけではなく、過去にはフェラーリ599から現行のマクラーレン570S、最新モデルではアストン・マーティンDB11でも、空気抵抗の低減やダウンフォースの発生を目的に採用されているのはご存じだろう。空力目的なのはNSXも同じで、リアのフェンダーやスポイラーに沿って流れる走行風の乱れを整えて空力特性を改善する効果を果たしている。だが、NSXの場合はそれだけにとどまらない。なだらかに傾斜するリアルーフラインから張り出したCピラーは縦置きされたエンジンエアインテークに走行風を流し込む役割も兼ねており、さらには後方の排熱口まわりに負圧を発生させ、エンジンルーム内の熱気を効率的に吸い出して冷却性を高める効果ももたらしている。多くの機能を果たすよう検討され、実に綿密に計算した結果、導き出された形状なのだ。
機能を追求した結果のデザインは、細かい部分にも見られる。たとえば空気抵抗低減のためボディと面一にされたドアハンドルは表面がタッチセンサーになっており、そこに触れるか、もしくは近接センサー内蔵キーを身につけて近づけば外側に張り出す仕組み。また、ワイパーやウォッシャーは最高速域でも確実に動作するよう、290km/hの走行環境を風洞で再現して決定されている。ステーの長いドアミラーも、風切り音や空気抵抗が小さい形状を追求した結果のデザインだ。
そもそも基本的なボディ形状自体、ホンダが高性能車のハンドリングとスタビリティに最適な設定と考える1:3の前後ダウンフォース比になるように設計されているとのこと。見えない力を捕まえる形を具現化したデザイン。それが新型NSXのエクステリアなのだ。
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Text:Hidemitsu HOSHIGA Photo:HONDA NORTH AMERICA
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