最初のエンジンはわずか1馬力にも満たなかった
2016年1月29日、クルマは130回目の誕生日を迎える。カール・ベンツ氏が世界ではじめて「ガソリンを燃料とする自動車」の特許を取得してから、まもなく満130年にもなるわけだ。
1886年は、のちにベンツ氏と合流するゴットリープ・ダイムラー氏(とヴィルヘルム・マイバッハ氏)が「ダイムラー・モトールキャリッジ」を独自に完成させたこともあり、現在の「メルセデス・ベンツ」へとつながる歴史の最初の1ページが記された年としても知られている。
いまや600ps超のV12エンジンまでを擁するメルセデスだが、ベンツ氏が製作した「ベンツ・パテント・モトールヴァーゲン」が積んでいたのはわずか0.75psにすぎない排気量954ccの1気筒エンジンで、最高速はたったの16km/hだった。おまけに未知のものだっただけに当初は販売も振るわなかったようで、ベンツ氏の妻が有効性や信頼性を宣伝するため、夫に内緒で3号車に乗り込みマンハイムとプフォルツハイムを往復する200kmほどの道のりを完走してみせたのは有名な話だ。
そのときのコースは「ベルタ・ベンツ・メモリアルルート」と呼ばれ、ドイツ観光街道のひとつになっているのだが、最近、メルセデスが自動運転技術を公道で実証すべく走らせたのも実はこのルートだった。過去130年間でさまざまな技術革新を経てクルマが飛躍的な進化を遂げたのは確かだが、エンジンを動力源として人の判断で運行するというクルマの本質は何も変わっていない。その意味では操縦が人の手を離れる自動運転は130年目にしてようやく到達できた新たな「クルマの誕生」であり、だからこそ、その有効性や信頼性のデモンストレーションにメモリアルルートの走破が選ばれたのだろう。次にメルセデスがメモリアルルートに挑むとき、クルマはいったいどのような進化を遂げているのだろうか。その時が、130年といわずもっと早くにやってくることを期待したい。
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