最後に数あるSUVの中でも“究極”といえるラグジュアリーかつハイパフォーマンスなフラッグシップSUVを取り上げたいと思う。圧倒的な動力性能か? それとも贅沢を極めた室内空間か? あるいは両方か? SUVの極致ともいえる世界をお届けしよう。
各社の技術と贅を極めたラグジュアリーSUV
今回集められた4台のラグジュアリーSUVは、価格もキャラクターも生産国もバラバラ。「こんなので比較テストが成立するのかな?」と訝りながら試乗したところ、思いがけない発見があった。それについては後述するとして、まずは4台のインプレッションを順に記そう。
まず試乗したBMW XMは、内外色に鮮烈な赤を取り入れた「レーベル」と呼ばれるスペシャルモデルだが、改めてそのステアリングを握って、これは「レスポンスのカタマリ」だと感じた。日本語としてはちょっとおかしいけれど、ニュアンスはわかってもらえるはずと信じて話を進めれば、4・4LV8ツインターボエンジンにプラグインハイブリッドシステムを組み合わせたパワートレインは「タイムラグって何?」というくらいの勢いでいつでも素早く反応する。スロットルペダルを踏み込んだ量と、その瞬間に発生される加速Gの間にまったくズレがないという、ちょっとSF的な走りが堪能できる。
それはハンドリングも同様で、ガッチリとして遊びが皆無のステアリング系は切った量とヨーモーメントの量が常に完璧にシンクロしていて、まるでスポーツカーみたいなレスポンスが味わえる。これには、いかにも重心が低そうな車両レイアウトも利いているはずだが、今回乗った個体はこれまでの試乗車に比べると足回りの動き出しがさらにしなやかで快適性が増しているように感じた。おそらく、この辺も低重心設計が利いているのだろう。
いずれにせよ、こうしたシャープなレスポンス、そしてコーナリング性能の高さなどはBMWの伝統的な特色といえるもの。いっぽうで、2019年にドマゴイ・ジューケッツがチーフデザイナーに就任して以降の、やや奇抜ともいえるスタイリングは健在。その意味でいえば、XMはいかにも現在のBMWらしいハイパフォーマンスSUVといえる。
続いてカイエン Eハイブリッドに乗り換えると、そこにはまるで異なる世界が待ち構えていた。ステアリング系自体の剛性や取り付け剛性が際立って高いのはXMと同じ。ただし、こちらはパワステの味付けがやや重めで、どっしりとした印象を与える。低速コーナーでのレスポンスに主眼を置いたXMに比べると、カイエンは高速直進性や超高速コーナーでの安心感やスタビリティを重視したセッティングと説明できる。
乗り心地の印象も、強力なダンパーでボディを支えているあたりがいかにもポルシェ的。しかも、路面からのショックは強靱なボディがすべて受け止めてくれるので、「足が硬い」のに上質な乗り心地が味わえる点もポルシェらしいところ。さらにいえば、これをカイエン Eハイブリッドという、シリーズとしては下から2番目のグレードで実現したところもポルシェならではの設定である。
もうひとつ、最近のポルシェといえば電動化を忘れるわけにはいかない。このカイエンもプラグインハイブリッドシステムを搭載。レスポンスや低速トルクなどの領域では3L・V6を効果的にサポートしてくれるため、動力性能にも不満を覚えなかった。ちなみに0→100km/h加速タイムの4.9秒は4LV8を積むマイバッハと並ぶデータ。最長90kmのEV走行が可能な点も特筆すべきだ。
2017年にデビューした当初の3代目カイエンは、ラグジュアリー色が強くなってやや頼りないと感じる部分があったが、昨年行なわれたマイナーチェンジで一気に骨太なスポーツSUVに回帰した。したがって、個人的にどちらが好みかと聞かれたら、迷うことなく「マイナーチェンジ後の最新モデル」と答えるだろう。
ラグジュアリーSUVの頂点贅を尽くした“おもてなし”
ここからご紹介する2台は、スポーティなXMやカイエンとは趣がガラリと変わり、快適で装備が充実した、本当の意味でのラグジュアリーSUVである。
メルセデス・マイバッハ(以下マイバッハ)が2021年に世に送り出したGLS600 4マチックは、当時、市場に大きな衝撃をもたらした。それまではSクラス・ベースのリムジンしかなかったマイバッハに、室内高に余裕があるSUVが追加されたからだ。しかも、豪華さや装備の充実度はリムジンに匹敵する内容で、その「おもてなし度合い」はすさまじいとしかいいようがない。
たとえば、試乗車のようにオプションのファーストクラス・パッケージを装備すると、リアシートはぜいたくにも2脚のみとなるうえ、それが国際線のビジネスクラスもかくやというくらいのフルフラット状態までリクライニング。しかも後席センターコンソール内には冷蔵庫とともにシャンパングラス2個が固定できる台座まで用意されるのだ。シートに用いられるナッパレザーも、以前試乗した初期型に比べると大幅に質感が高まったように思える。
ステアリングを握った印象もいくぶん進化していた。乗り心地にまとまりが生まれるとともに、パワステのしっかり感が向上しており、クルマの本質的な部分にも手が加わったことをうかがわせた。
ただし、ステアリングは直進付近の感触がややデッドなうえ、コーナリングではブレーキングで前荷重にしないとアンダーステアに陥りがち。そのブレーキペダルにしても、トラベル初期の遊びが大きめなことが気になった。
おそらく、マイバッハはショーファードリブンを主に想定しているのだろう。その範囲でいえば申し分のない完成度といえる。
性格も性能も異なる4台を通して見えてきたもの
残る1台はレンジローバーSV。レンジローバースポーツSVと混同しそうなモデル名だが、後者がダイナミック性能を引き上げたスポーツSUVであるのに対して、前者はあくまでもラグジュアリーSUVとの位置付け。ちなみに“SV”の名は、この世代から「各モデルの特徴をもっとも強調したグレード」に与えられることになった。同じSVでもレンジローバーとレンジローバースポーツでまったく性格が異なるのは、このためだ。
その豪華さはマイバッハに一歩も引けをとらない。もっとも、マイバッハの世界観が「クラシカルでわかりやすいラグジュアリー」だとすれば、レンジローバーSVのほうは「よりモダンで控え目なラグジュアリー」と説明できる。ちなみにレザーはレンジローバーのほうがややソフトなほか、インテリアカラーの微妙な色調は実に繊細で上品。同じ豪華さでも、両ブランドの間にはその考え方やフィロソフィーに大きな隔たりがあるように思えた。
ドライビングフィールもレンジローバーSVのほうがしっかりと作り込まれていて、ドライバーズカーとしての使い方を想定していることをうかがわせる。リアシートがマイバッハほど大きくリクラインしないのも、「クルマは移動するもの」という前提に基づく判断なのだろう。
つまり、4台の比較テストは、スポーティ系とラグジュアリー系という2組のジャンルを同時に取り扱ったものだったのだ。しかも、同じジャンルでもブランドの立ち位置がしっかりと表現されていることが実に興味深かった。
電動化を急ぐ欧州の自動車業界では、エンジンという個性が失われる対策の一環としてブランドの「カラー」を鮮鋭にする動きが強まっている。そうしたなか、今回の比較テストを通じて、ブランドごとのキャラクターがより明確になったとすれば幸いである。
【OTANI’Sパーソナルチョイス】PORSCHE CAYENNE E-HYBRID
走りとは別に嗜好性で捉えると、XMとマイバッハがギラギラ派、カイエンとレンジローバーはシットリ派とも表現できる。ちなみに私の好みは後者。どちらも魅力的だが、扱いやすさも含め、ここではカイエンを選びたい。
【SPECIFICATION】BMW XM LABEL
■車両本体価格(税込)=24,200,000円
■全長×全幅×全高=5110×2005×1755mm
■ホイールベース=3105mm
■車両重量=2730kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/4394cc
■最高出力=585ps(430kw)/6000rpm
■最大トルク=750Nm(76.5kg-m)/1800-5400rpm
■モーター最高出力=197ps(145kW)/6000rpm
■モーター最大トルク=280Nm(28.6kg-m)/1000-5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション=前:Wウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:275/35R23、後:315/30R23
【SPECIFICATION】ポルシェ・カイエン Eハイブリッド
■車両本体価格(税込)=13,950,000円
■全長×全幅×全高=4930×1983×1696mm
■ホイールベース=2895mm
■車両重量=2425kg
■エンジン種類/排気量=V6DOHC24V+ターボ/2995cc
■最高出力=304ps(224kw)/5400-6400rpm
■最大トルク=420Nm(42.8kg-m)/1400-4800rpm
■モーター最高出力=176ps(130kW)
■モーター最大トルク=460Nm(46.9kg-m)
■トランスミッション=8速DCT
■サスペンション=前後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:255/55ZR20、後:295/45R20
問い合わせ先=ポルシェジャパン TEL0120-846-911
【SPECIFICATION】メルセデス・マイバッハGLS600 4マチック
■車両本体価格(税込)=32,200,000円
■全長×全幅×全高=5210×2030×1840mm
■ホイールベース=3135mm
■車両重量=2810kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3982cc
■最高出力=557ps(410kw)/6000-6500rpm
■最大トルク=770Nm(78.5kg-m)/2500-5000rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=前:Wウイッシュボーン、後:4リンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:285/40R23、後:325/35R23
問い合わせ先=メルセデス・ベンツ日本 TEL0120-190-610
【SPECIFICATION】ランドローバー・レンジローバーSV
■車両本体価格(税込)=33,650,000円
■全長×全幅×全高=5258×2005×1870mm
■ホイールベース=3197mm
■車両重量=2750kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/4395cc
■最高出力=615ps(452kw)/5855-7000rpm
■最大トルク=750Nm(76.5kg-m)/1800-5400rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション=前:ダブルウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:285/40R23、後:285/40 R 23
問い合わせ先=ジャガー・ランドローバー・ジャパン TEL0120-18-5568
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