スポーツカーと銘打たなくてもスポーツカー
ちょうど1年前の2022年3月、ホンダの軽自動車S660が生産終了となった。EV化の波は軽自動車にも押し寄せており、これへの対処が難しいところからの決断であるとも伝えられている。S660は軽でありながら、ミッドシップ・レイアウトを採用した2シーター・スポーツカーであった。2015年に発売されたS660は、それより約20年前に生産終了したある車種の後継車と言われている。その「ある車種」とは、ビートである。
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S660同様に、軽自動車にしてオープン2シーター、そしてミッドシップであるビートは、1991年5月に発売された。どう見てもスポーツカーだが、ホンダはスポーツカーであるとは謳わなかった。同社にとってNSXに続く2車種目のミッドシップ2シーターとなる。しかし、そうしたこととは関係なく、ユーザーにとってビートは、全く初めてとなるような種類のモデルであった。何より、フルオープン専用設計となるモノコックボディのミッドシップ・レイアウト車というのも、量産スポーツカーとしては世界初と言われたほどだ。
当時の軽自動車規格にぴったりと収まるようにデザインされたボディはとてもまとまりのよいもので、ホンダのデザイナーは当時、「ジェリービーンズをモチーフとした」とも「オートバイの感覚を取り入れた」とも語っている。しかし一方、このデザインはピニンファリーナが手掛けたものとも言われており、確かに頷けるものがある。ピニンファリーナがフェラーリ・テスタロッサをベースに手掛けたショーカーのミトスなどと、共通性が高いからだ。
このボディは非常に剛性高く設計されており、フロントフードは上面全体がガバッと逆アリゲーター式に開くようになっていた。フロントにはスペアタイヤなどが収まり、またオーバーハングの短さからリアのトランク・スペースもごくわずかなもので、荷物の収納スペースはほぼない。
車体中央にレイアウトされたエンジンは、軽トラック/バンのアクティのそれを利用したもの。アクティがミッドシップであることから、エンジンやミッションの配置を利用した……と言われているのはその通りなのだが、実際にはスポーツカーとして成立させるべく、その大半は新設計されているという。
エンジンはアクティと同じE07A型だが、やはりその内容は大きく異なるとのこと。水冷直列3気筒OHC 12バルブ、排気量は656ccで、最高出力64ps。吹け上がりを重視して3連スロットル(1気筒ずつ独立)を採用、これをふたつの燃料噴射制御マップ切り替え方式でコントロールするというシステムが導入されていた。これはMTRECと呼ばれるもので、当時のF1の技術の応用である。
変速機は5速マニュアルのみの組み合わせで、NSXと同じく40mmというショートストロークを採用、軽快な操作感を実現していた。サスペンションは前後ともストラット式だが、リアは新開発のデュアルリンクストラット。これはロアアームとラジアスアームを分離し、ロアアームの後ろにコントロールアームを水平に配置したもので、これにより安定性を高めたという。ブレーキは4輪ディスクで、これは軽自動車としては初めてのものであった。ビートは特別仕様車の発売も重ねつつ、1996年まで販売された。
細部に手を加えるとさらに輝きを増す好キット
歴史に残る名車と言っても過言ではないビートだが、プラモデル化はアオシマ製の1/24スケール・キットがほぼ唯一のものである(他には食玩の組み立てモデルとなった例があった)。アオシマのキットは、同スケールでは標準的な内容を持つプロポーションモデルであり、エンジンの再現などはないが、シャシー裏面などはリアリティに溢れた表現がなされている。ボディも、フロント周りに少々丸みが足らないようにも思われるが、そのプロポーションはなかなかのものであり、総じて、高い評価を与えることができる製品である。
という訳で、特に手を加えて作らなければいけないキットではないが、作例ではまず、リアキャリアを追加してみた。実車では、荷物の収納スペースが小さいのを補うために用意されていた純正オプションで、それだけに装着していた個体も少なくなかったはずだが、残念ながらアオシマはこれをパーツ化していない。作例では、固定にマグネットを使うことで、完成後も着脱を可能としている。
また、オープンカーであるだけに完成後も室内がよく見えるのだが、残念ながらこのキットはインテリアがバスタブ式であり、ドア内張りがほぼノッペラボウである。アオシマのカーモデルはバスタブ式インテリアを採用することが極めて少なく、同時期にリリースされたスズキ・カプチーノでもドア内張りは別パーツであっただけに、これは残念なところ。作例ではここにも手を加えている。これらの改修加工については、制作中の画像をよくご覧いただきたい。