気分が違う気持ちがいい
散々ゴルフIIのユーズドを販売し、IIでレースに参戦してきたという経験をもとに、鈴木さんは交換すべき部品を用意する。といっても、改めてどこかに注文するというのではなく、部品庫から引っ張り出してくるというだけ。スズキワークスでは、IIの消耗部品といわれるもののほとんどを在庫している。ディーラー並みの、いやIIに関してはディーラー以上のストックを有しているのだ。
(左上)ドライブシャフト・ブーツ、CVジョイント・シールキット。音、破れもなく、問題はなかったが……。(右上)フロントはそうでもないが、リアのハブベアリングは比較的、消耗度合の激しい部品とされる。(下)ドライブトレイン、サスペンション関連の整備をほぼ終えて、仕上げにかかる。ここまでやる必要はないとも思えたが、を長く乗ってもらうためには必要との判断だった。
新たに取り寄せたパーツといえば、ショックアブソーバー、タイヤ、バッテリーぐらい。この一点でも、スズキワークスのIIに対するサービス体制の充実ぶりがうかがえる。
(左上)FFの要のCVジョイントは、高価な部品でもあり、できれば定期的にメンテナンスしたい。(右上)グリースをタップリと注入。熱で消耗すると、シャフトが折損し、本当に走れなくなる。(下)スズキワークスでは、CVジョイント分解も日常的なようで、専用の作業台が存在する。
ATのオイルストレーナーとガスケット。スズキワークスらしいポイントを押さえた部品交換だ。
しかも、その在庫部品のほとんどが純正である。
「IIの純正部品は最近価格設定が変わって高くなってますが、やっぱり純正でしょ。使う側としても安心感がありますしね」
(左)サスペンションやブレーキ関連の部品交換も終わった、いわば完成図。美しい眺めだ。(右)リアはショックアブソーバーのみのようだが、シューなどもちゃんと交換されている。
いわゆる社外品は、使っても純正品質を持つもの、つまり純正部品を作っているメーカーのものをセレクトする、としている。
(左上)リアのバンプラバー。このクルマに付いていたそれは、すでにグズグズになっていた。(右上)フロント・サスのアッパーマウント交換は、リフレッシュにおいては定番中の定番だ。(下)ショックアブソーバーは、コストパフォーマンスに優れたモンローの“リフレックス”をセレクト。
エンジン関連の整備から始まった鈴木さんのリフレッシュ作業は、ドライブトレイン関連、サスペンション関連、ブレーキ関連と進んでいった。部品はすでの手元にあるから、途中で作業が滞るといったことはまったくない。いずれの部品交換作業も、鈴木さんにとっては何度も繰り返してきたことであって、考えずとも手が勝手に動くというレベルのもの。その素早さ、確実さには、やはり驚くべきものがあった。
(左)特にこだわったわけではないが、フロントのローターはロッキード製を選択。(右)フロントのブレーキパッドおよびリアのシューはAte製。純正を作っているメーカーだ。
(左)リアのドラムブレーキのホイールシリンダーも、もちろん交換予定部品となっていた。(右)リアのシューは、普通よほど減っていない限り交換しないが、鈴木さんはあえて交換。
(左)リアドラムの場合、なにしろドラムを外さなければ、メンテナンスは進められない。(右)ブレーキシューやホイールシリンダーを交換し、後はドラムをはめるのみ。
「特別なことはなにもしない」という鈴木さんだが、驚きはドライブシャフトのCVジョイントのメンテナンスまで軽くやってのけたことだ。通常、ここは音でも出していない限り、触るところではない。ブーツに亀裂があって、グリスが漏れ出ているといった場合はまた別だが、問題がなければそのままにしておくところ。が、鈴木さんは、アッという間にCVジョイントを分解、洗浄して、新たにグリスを入れ込んでいった。
(左上)前後のブレーキホースも、ゴルフのリフレッシュにおいては指定部品。(左中央)リアのホースが短いのは、トレーリングアームの上下運動に対応するだけで済むからだ。(左下)フロントはストラットが回転するため、ある程度長さに余裕がなければならないわけだ。(右)ブレーキホースを交換したなら、ブレーキオイルの充填、ラインのエア抜き作業も。通常、ふたりがチームを組んでの作業だが、鈴木さんは自動充填機を使ってひとりで行なう。
「普通は、なにもなければ触らないでしょうね。でも、CVジョイントというのは、FFドライブトレインの要のようなものじゃないですか。ここまで手を入れれば、気分が違うというか、気持ちがい
いじゃないですか」
スズキワークスのリフレッシュで特筆すべきは、サブフレームやサスペンション関連にシャシーブラックを施すことだ。
必要ないといえば必要ないが、きれいになることは確かで、鈴木さんの気持ちが伝わる。
さらに驚いたのは、フロントのサブフレームやサスのロワアーム、リアのトレーリングアームなどに、いわゆるシャシーブラックを施していくことだ。クルマが錆に弱かったその昔はともかく、いまさらシャシーブラックを吹くなんて工場はきわめて少ない。たとえ錆が出ていたとしても、ユーザーのリクエストがない限り、塗らないものだ。ところが、スズキワークスは丹念にスチームをかけて汚れを落とし、十分に乾かした後、シャシーブラックを吹く!
(左)タイヤは横浜のDNA・dBをセレクト。IIはロードノイズが少なくないクルマで、それを少しでも減らそうというわけ。(右)サスを交換、タイヤも新品というこの機会に、ホイールアライメントをチェックする。
スズキワークスでは、タイヤ交換、バランス取り作業も可能な体制を整えている。「なにかと役立ちます」と鈴木さん。
「だからどうなの? ではあるんですが、これも気分の問題ですよ。ボクの自己満足かもしれませんが、こうなってると気持ちがいいじゃないですか」
そういうところなのである、スズキワークスは。
(左上)お客様が決まっているわけではないので、ボディを磨く必要もないのだが、鈴木さんは本誌の撮影のため、セッセとバフ掛け。(右上)エンジンルーム側のワイヤーハーネスは、いずれ布テープでまとめていく予定だ。(下)エンジン調整を入念に行なう鈴木さん。イグニッション関連はコイル以外のすべてを交換しているから、まったく問題なし。
ズキワークスのユニークな点は、サスペンション関連のシャシーブラックがその典型だが、普段は見えないところまで美しく装うこと。ご覧のように、エンジンルームはスチームで徹底的に洗浄されるのである。
リフレッシュ大作戦が完了した’91年式CLi。鈴木さんにとって、ゴルフIIはスズキワークスを育てたクルマであり、愛着はひとしおだ。「このクルマ、ゴルフII好きの方に長く乗ってもらえたら嬉しいですね」という。
リポート:小倉正樹/フォト:谷瀬 弘
取材協力=スズキワークス 052-793-5455 http://www.suzukiworks.co.jp