大自然の猛威と恵みを目の当たりにする道(長崎県・仁田峠)【絶景ドライブ 日本の峠を旅する】

計り知れない恵みももたらしてくれる火山

島原の住宅街にこんこんと湧き出す浜の川湧水。舌触りに強さを感じるため、地元の人たちは「男水」と呼ぶ。

有史以来、何度も噴火を繰り返してきた雲仙岳だが、人的被害が最も大きかったのは「島原大変肥後迷惑」と言い伝えられる江戸時代の災害である。
今から200年以上前の寛政4年(1792年)、普賢岳の噴火と地震により、島原城の西にそびえる眉山が崩壊し、城下は土砂で埋め尽くされてしまった。さらに崩れ落ちた土砂は海に達すると津波を引き起こし、これが幅20km足らずの島原湾のなかを何度も行ったり来たりした。この「島原大変……」はその名の通り島原半島だけでなく、対岸の熊本や天草諸島にも甚大な被害をもたらし、記録によると亡くなった人の数は1万5000人にも達したという。

昭和39年(1964年)に復元された島原城。天守閣の中は島原の乱に関する博物館になっている(入館料540円)。

「平成の噴火が始まったばかりの頃は、雲仙観光の目玉がまたひとつ増えたと、喜ぶ観光業者さえ多かったとですよ」
こんな打ち明け話を聞かせてくれたのは島原市役所に勤める人だった。ところが周知の通り、普賢岳の噴火活動は予想を超えた規模になり、翌1991年には報道陣も巻き込んだ大火砕流により47名の死者・行方不明者を出すことになる。そして、5年にもおよぶ噴火で道路や鉄道は埋め尽くされ、2600棟あまりの建物も被害を受けた。もちろん観光業界も大打撃を受け、島原半島を訪れる観光客の数は、いまだに噴火前のレベルに戻っていないという。

武家屋敷の水路を流れる清冽な湧水。水源は近くの熊野神社にあり、かつては飲料水として用いられていた。

「とはいえ、地元で雲仙の山を恨むような人はあまりおらんでしょう」とその人は言う。誰もが火山のもたらす恵みもまた、計り知れないほど大きいことを知り尽くしているからである。
南島原駅近くの景勝地、小さな島々が点在する九十九島は「島原大変……」の時に眉山から転げ落ちた巨岩の残骸である。島原の町を潤す豊かな湧水群も、このとき生まれたもの。雲仙の名湯をはじめとする半島各地の温泉地も、もちろん火山活動の副産物にほかならない。

第二展望台の近くまで登ると視界は大きく開け、眼下には美しい島原湾が広がる。

さらに言えば、平成の噴火による被害から島原の中心地を守ったのは、何を隠そう「島原大変……」の原因となった眉山である。この山が堤防の役割を果たして火砕流や土石流の流れを変えてくれたおかげで、島原市街は火砕流や土石流の直撃をまぬがれることができたのだという。
むしろ、今回の旅で不気味に感じたのは、火山活動を続ける雲仙岳より諫早湾の方だった。雲仙の山なみをバックに、まるで海の上を駈け抜けるような全長8kmの堤防道路は、実に気持ちのいい道である。しかし、堤防の内と外とでは海の色があまりにも違っていた。しかも、異変が起きつつあるのは、一見きれいに見える堤防の外の有明海だという。

仁田峠のある第一展望台からは、妙見山頂(標高1333m)の間近までロープウェイが運行中。運賃は往復1, 260円。

掲載データなどは2016年7月末時点のものです。実際におでかけの際は、事前に最新の情報をご確認ください。

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2019/04/26 08:00

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