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ファイアーバードと言ってもあまりピンとこない方もいらっしゃると思います。日本では明確にトランザムの名前の方が皆さんご存知なのではないでしょうか。ではこのトランザムの歴史から振り返ってまいりましょう。
時は1964年、フォードが発表したマスタング(ムスタング)は若い世代に向けて、コンパクトで、スポーティーで廉価で、4人乗れる、スタイリッシュなモデルとして大人気を博
しました。いわゆるポニーカーの誕生です。(実は、マスタングよりちょっと先にバラクーダがデビューしていますが、ポニーカーの代名詞といえばマスタングですね。)この新しい
成功しているセグメントにゼネラルモータース(GM)も指をくわえて見ているわけにはいきません。1966年9月に1967年モデルとしてシボレーカマロを対抗馬としてリリー
スします。このカマロのために、新しく開発されたのが後輪駆動プラットフォームのF-bodyです。そしてカマロから遅れること約半年、1967年の2月に満を持して発表され
たのが我らがファイアーバードです。ライバルであるフォード社のマスタングがモデルチェンジするタイミングに合わせてファイアーバードのリリースは合わせられたといわれていま
す。このファイアーバードは、プラットフォームをカマロと共有する兄弟車ですが、カマローはシボレーディヴィジョン、ファイアーバードはポンティアックディヴィジョンとな
り、見た目のデザインや搭載エンジンなども異なり、ユーザー層も異なっていたと思われます。もともとシボレーは大衆向けディビジョンとして乗用車からトラックまで幅広くライン
ナップする位置づけに対し、ポンティアックは先進的でスポーティーな立ち位置とされていました。同じGMの一部門ですが、現在日本でもあるようなトヨペット店とネッツ店のよう
な違いよりも、どちらかというとトヨタとレクサスくらいの違いがあったといって過言ではないと思われます。当時のカタログを見てみると面白いんですが、カマロの方はスーツを着
た男性や夫婦でドライブしている写真が使われており、ファイアーバードでは女性が運転している写真が掲載されているんです。このあたりにも明らかな戦略の違いが見て取れます
ね。車両価格は当時カマロがベースグレードで2600ドル程度、ファイアーバードが2700ドル程度なので、現在の価格にしてもそう大きな違いはなかったようですね。(20万
円くらい?)またカマロでは「エキサイティングなニューロードマシーンがシボレーから誕生」という華々しいキャッチコピーが見て取れ、20ページに及んでいるのに対し、ファイ
アーバードはちょっと印刷の品質も悪くページ数も半分程度で、ポンティアックに任せとけ的な感じで淡々と魅力を説明しているというようなものです。画像検索すると見つけられる
と思うのでぜひ見てみてください。そんな1967年モデルの兄弟車ですが、実はこの時点ではまだトランザムは存在しません。トランザムがファイアーバードに誕生するのは196
9年、第一世代の最後の年です。当初はパフォーマンスサスペンションとアピアランス(見た目)のパッケージオプションパッケージとして設定されていました。しかも当時の価格で
約1000ドルです!ベースモデルが2700ドルだったことを考えるととんでもない金額ですが、それにもかかわらずこのトランザムパッケージを装着した車両は700台弱販売さ
れたようです。さあ、そしていよいよ第一世代のファイアーバードは1969年を持って終了し、1970年モデルの第二世代へと進化していきます。ちなみに1970年モデルも通
例ですと前年の9月ころにはリリースされるんですが、初代モデルの生産が終わらなかったことなどにより1970年2月へずれ込みます。第2世代では、初代モデルに設定されてい
たコンバーチブル(オープンモデル)は設定されずクーペのみでスタートしました。ボディーは一回り大きくなりデザインとしては、ロングノーズでファストバックスタイルに近
いデザインになっていますね。この第2世代になり、トランザムはファイアーバードの1グレードとなります。ファイアーバード、エスプリ、フォーミュラ、トランザムといった具合
です。トランザムがトップグレードになるわけです。当然日本に輸入されるのはやはりトランザムが多いわけで、もはや車名がトランザムと理解されてしまうことになってしまったの
でしょう。日本でいえばGTRのような感じでしょうか。当初はスカイラインの中のGTRですが、GTRというだけで伝わるようになり、こちらの場合は最終的にはGTRとして独
立した車両になってしまうことになりましたけど。さて、この第2世代のトランザムは大きく分けて3回マイナーチェンジがあります。まずは74年に5マイルバンパー対策として
ショベルヘッドノーズに変更、テールライトも幅広なデザインに変更されます。このフロントマスクでちょっとスラントしたデザインに変わりかなりイメージが違いますね。その後、
75年にはリアウィンドウがCピラーへ回り込む、ラップアラウンドガラスに変更になります。そして、二度目の大きな変更が77年です。この時にいわゆるイーグルマスクと呼ばれ
るたいへん人気の高いフェイスに変更。ちなみにシェイカーのデザインも変更になっています。その後、79年にビッグマスク、ロボットマスクと称されるデザインに変更され、リア
バンパーやテールレンズのデザインも大きく変わります。そして1981年モデルを最後に第3世代のファイアーバードへとバトンタッチしていくわけです。第3世代のファイアー
バードというとやはり有名なのは「ナイトライダー」のキット(KITT=knight industry two thousand)でしょうか。最後のファイアーバードは、1993年から2002年までの第4
世代となり、その後カマロとともに生産終了が告げられることになります。のちにカマロは復活することになりますが、ファイアーバードにおいては2010年にポンティアックブラ
ンド自体が消滅するという衝撃的な事態を受け二度と復活することはなくなってしまったのです。そんな、ブランドも車両もすでに消滅し、過去の自動車文化遺産となってしまった
ファイアーバード。この鳥のすばらしさを伝えて後世に残していくためにも、今回私たちガレージカレントU.S.ではある一台の車両を入手し皆様にご紹介させていただくことになったのです。
では、今回の個体について詳しくお話させていただきましょう。第2世代で二回目のマイナーチェンジを受けた1978年のファイアーバードです。まずはVIN(シリアル)から読み取れるのは、以下の情報です。
2:ポンティアックW:トランザム 87:2ドアクーペ K:403cuin.V8-4bbl(185hp/3600rpm 320ftlbs/2000rpm) 8:1978年 L:VanNuys工場生産
403エンジンとはポンティアック製ではなくオールズモービルのエンジンです。カリフォルニアの排ガス規制に対応するためのエンジンですが、ポンティアックの400エンジン
(180hp:L78)よりもショートストロークで圧縮比も若干ですが高いエンジンでした。400エンジンにはさらにW72というオプションエンジンがありこちらは200hp
を発生していましたが、最大トルクは2800rpmと比較的高めで発生する仕様になっています。の続いて車両のファイアウォール上部に残されているプレートからは、次のような情報が読み取れます。
一行目 ST 78 2FS87 L 144320 BDY二行目 TR 11N A51W11LW11U PNT三行目 03A B 3 - 011966
1行目からは78年のファイアーバードでバンナイズ工場製(カリフォルニア州)でフィッシャー(ボディーメーカー)のボディナンバーが144320と解読できます。VINの情
報と相違ないですね。続いて二行目は、インテリアトリムコードは11Nでホワイトバイナルのカスタムトリム、バケットシート、エクステリア下部塗装カメオホワイト、上部塗装カ
メオホワイトとなっていて現車とも合致しています。そして三行目では、3月の第一週に生産され、一部黒のトリム、フィッシャーの生産タイムコードが011966ということになります。
そしてさらにさらに、この個体にはビルドシートが残されておりました。通常、リアシートのバックレスト裏に挟まれているのですが、大体なくなってしまっていることが多いです。
このシートの情報を見ていくとVINとボディナンバーが両方記載されていて、先のプレートが間違いなくこの車両のものであると確認をとることができます。また、ステアリングの
カラーやヘッドライナー、カーペットやセンターコンソールの色、仕向け地(港区の日英自動車)、ホイールカラー、(グレー)、ポジトラクション(デフ)、日本向け車両、トラン
ザムであることなどなど様々なことがわかるようになっています。ぜひこの貴重な資料も現車とともにご覧いただきたいと思います。新車当時のオーナーズマニュアルや貴重な日英自動車の保証書なども付属しています。
さあ、車両の情報がわかったところで現車についてもう少し見てきましょう。まずは、ボディーです。上のデータからもわかるようにカメオホワイトのボディーカラーが美しい個体
です。しかし、写真でもわかるように、ところどころに表面の錆び浮きが見えています。これが意味するところは何かと申しますと。。。そう、オリジナルペイントなんです。新車時
に塗装されたものがそのままであるということです。新車から44年にわたり塗り直しがされていないのです。本来、我々、中古車販売業者は少しでも売れやすくするために、傷や塗
装の劣化を修復したうえで店頭に展示するのが定石です。しかし、敢えて子の錆びの見える状態のままで展示するには並々ならぬ意思があるのです。この子は、新車からレストアや改
造などといったことから無縁の状態で生きながらえてきました。いわゆるサバイバー(生き残り)と呼ばれる個体です。塗装を小奇麗に塗りなおしてあげることは、とても簡単なこと
です。といってもしっかり設備と技術のある板金工場で行わないとすぐにまた塗装が劣化してしまうことになるので、ここでいう簡単とは費用をかければどうにでもなるという意味で
す。ですが、日本に、そして本国アメリカに、新車からの状態をキープし続けてきた個体が一体何台存在するでしょうか?たいていのトランザムは、映画の影響でブラックにリペイン
トされていたり、もしくはカスタムでケツ上げ、ラメ塗装な感じになっていたり、オリジナル状態で残されているものは非常に少ないのが現実です。この貴重な自動車文化遺産に対し
て、私はこのありのままの姿を皆様にご覧いただきたいと考え、敢えてこの状態で公開することを選択しました。ですから、ただ「ああ、錆が出てるから駄目だねこれ。」で終わらせ
ないでいただきたいのです。逆に、44年前の塗装でここまで錆びも少なく美しい状態を保ち続けていることに敬意を表し現車をご覧いただきたいのです。インテリアもしかりです。
オリジナルのホワイトのバイナルカスタムトリムにブラックのセンターコンソールとカーペット、これも基本的に新車時のままとなっています。私が確認したところ、入庫時にはリ
アテールウィングにリペイントがあり、インテリアトリムのAピラー部分は化粧直し、右リアのインテリアトリムについてはリプロ品に交換されています。あとは、これ定番ですが、
シェイカーのデカールが”6.6liter”から”T/A6.6”に変えてある。その他デカールは一部貼り換えてある。たったこれだけだったんです。ガレージカレントU.S.に
入庫してから私が手を加えたのはタイヤ交換を除けば5点です。ホイールのセンターキャップに欠品があったため、4輪のキャップを交換しました。元々の残っていたものは保管して
あります。ホイールナットが正規の形状ではなかったため、本来の形状のナットに交換しました。あとは、センターコンソールのアームレストの蓋に亀裂があったため交換しました。
こちらもオリジナルパーツは保管してあります。そして最後に、ルームランプのレンズが欠品していたため(これは経年で割れて砕けてしまうんですね)、リプロ品を組んでいます。
パワーウィンドウスイッチが故障したため別にスイッチが設けてありましたので、デッドストックのパワーウィンドウスイッチを入手してオリジナル配線に戻しました。以上です。そ
のほかは入庫時のままです。ステップの耳もしっかり残っています。大半はジャッキ上げるときにつぶしてしまったり、錆で腐食してボロボロになってしまったりしてしまうことも多
いです。トランクも穴が開く個体も少なくありませんし、フロアにも錆で穴が開くこともあります。特に雨の多い日本で長く生存してきた個体ほど錆や腐食にやられてしまていること
が多いです。ですが、この子は、新車時から日本で生活してきたにもかかわらず、そのような状態からは無縁です。なぜかというと、保管状態とオーナーに恵まれてきたからというし
かないでしょう。国内に入って3オーナーのこの子は、きっと大切に大切に扱われてきたのでしょう。一発始動のヘルシーなオールズモーターは、その迫力の見た目とは裏腹に、シュ
ルシュルと爆音とは無縁のたいへんジェントルなサウンドと、スムーズさを見せつけてくれます。テストドライブして感じたのは、「あれ、このエンジンってこんなに速かったっ
け?」です。正直なところ、6.6リッターもある排気量の割には185hpしかないエンジンです。ですが、約44kgm/2000rpmあるトルクのおかげでスムーズで心地よ
い加速感が味わえるのです。また、走行距離の少なさゆえにミッションもへたっていないというのがあるでしょう。荒く乗られた感じがないんですね。やっぱりこういうクルマは、ホ
イールスピンさせて乗るようなイメージがありますからね。私も「スモーキー アンド ザ バンディット」(邦題:トランザム7000)は大好きですし、あんな走りしたいですよ
ね。ただ、やはりクルマにはそれなりにダメージがありますから、そういう乗り方はされてこなかったんだろうなと感じさせてくれる個体です。また、素晴らしい個体に出会えまし
た。資料によると同年のファイアーバード全体の生産台数は約15万台に対して、オールズエンジン搭載の1978年モデルのトランザム(スペシャルエディションを除く)はわずか
に8969台しか生産されていないようです。このレアな一台を後世に引き継いでいただける方を大募集です。