世界的な電動化シフトが進む中、群雄割拠と言えるのがコンパクトクラスのBEVクロスオーバーだ。ここでは北欧の老舗ブランドと、新進気鋭のメーカーが贈りこむ、世界戦略BEVに注目してみよう。
両社の世界戦略を担うコンパクトBEVの実力は?
BEVの商品性を検討する上で、搭載するバッテリー容量は決定的なウエイトを占めることになる。積むほどに航続距離だけではなく、車長も車幅も伸び、その重量増に対処すべくモーターのパワーを上げて動力性能を高めるも、二次曲線的に増える原価を新たな付加価値で帳尻合わせればまた車重は増え……という負のスパイラルを回避する、その分水嶺と考えられるのが、やはりCセグメント前後級の車格ということになるのだろう。
ATTO 3はBEVの販売台数でテスラと拮抗するBYDの、世界戦略モデルの第1弾として2022年に登場した。主要市場では欧州やインド、アジアパシフィックなど米国を除くほぼ全ての地域で展開、ちなみに中国市場では元「プラス」という名で販売されている。
その3サイズは4455×1875×1615mm。車格的にはEQAに近い。内燃機のモデルになぞらえればカローラクロス辺りと肩を並べるが、それより100mm以上長いホイールベースが作り出すプロポーションに、BEVの特質がみてとれる。それもあってか、後席の居住性も整っている。
その前後軸間に積まれるのはBYDが得意とするLFP=リン酸鉄リチウムイオン電池を縦長形状化して並べたブレードバッテリーだ。その容量は58.56kWh。エネルギー密度の低さがLFPの弱点とされるが、それでも航続可能距離はWLTCモードで470kmと充分なところが確保されている。駆動モーターは前軸側に配され、最高速は160km/h、0→100km/h加速は7・3秒と、デイリーカーとしては充分なものだ。
ボルボのEX30もまた、彼らの世界戦略を担うBEV専用モデルの第一弾となる。こちらは北米にも導入される予定だが、先日来の関税措置に巻き込まれるかたちで、その時期は来年以降に延長された。もっとも、ボルボは先鋭的なBEVシフトのプランに則って欧米にもBEVの生産拠点を構築しており、関税は致命的リスクにはあたらないだろう。日本仕様は提携先のジーリーと共同で作られたボルボの中国工場で生産されている。
EX30の車台はサスティナブル・エクスペリエンス・アーキテクチャー=SEAと呼ばれるもの。これはBEV専用としてジーリーがジーカーやスマートといったグループ内のブランドで共有する前提で設計、車格や用途に応じた柔軟性を織り込んだものとなっている。ちなみにロータスがエメヤやエレトレに採用する車台も、SEAをベースとしたものだ。
EX30の3サイズは4235×1835×1550mm。今日日のサイズ感でいえばBセグメント級SUVの側に近いが、搭載するリチウムイオンバッテリーの容量は69kWhと床面積あたりの密度はかなり高い。グレード名のエクステンデッドレンジはそれを称してのもので、航続可能距離はWLTCモードで560kmとBEVとしては充分なものとなっている。
EX30のモーターは後軸に搭載され、その出力は272ps/343Nm。0→100km/h加速は5.3秒と一線級のスポーツカー並みだが、日本では未発売の前後ツインモーター仕様は3.6秒とスーパースポーツ級の瞬発力を有している。最高速はボルボのお約束に則り180km/hだ。
インテリアにも両社の哲学が色濃く反映されている
安全や快適系の装備類は共にフルスペックに近いが、そのデザインや設えは大きく異なっている。ATTO 3はPC並みのインフォテインメントディスプレイを持つ一方で、主要操作系を物理スイッチに委ねるなど、戸惑わなさに留意する一方で、パーツの意匠やギミック的演出にもこだわるなど見た目には賑やかで、かつその質感も驚くほど高い。静的にみれば、もはや中国製というネガは無に等しい、そんな説得力がある。
EX30はATTO 3とは反対に、シンプル&ミニマルを徹底的に突き詰めている。操作ものの大半はインフォテインメントディスプレイ内に収めるのみならず、ドアインナーのハーネス類の排除を狙ってウインドウ開閉スイッチは車内側に、スピーカーはサウンドバー的な発想でダッシュボードに内包するほどのこだわりようだ。内装素材もレザーフリー&リサイクルマテリアルを多用するなどサスティナブルにまつわるポリシーは一貫している。が、使い勝手的には我慢を強いられる面も少なくない。後席の居住性も鑑みれば、ファミリー層というよりも若い層を狙ってのプランニングなのだろう。
ATTO 3のみならず、BYDの各モデルは実用的な速度域での乗り心地重視の方向で味付けされている。街中ではその恩恵あらかたで、路面アタリの丸さや凹凸を超える際の鷹揚な身のこなしなど、持ち前の低重心も相まってそのライドフィールは車格を忘れさせるほどだ。が、高速・高負荷域はバウンドの動きが大きめに現れる。コーナリングも良路と悪路とでのフィーリング差が大きい。
その点、EX30は乗り心地をリーズナブルに纏めながら高速域での身のこなしにも危うさはない。こんなに速くなくてもいいのではと思うほどの力感ながら、コーナリングのマナーも破綻なく整えている。BEVは初手から最大トルクが立ち上がる特性もあって、前輪駆動ではパワーの伝え方に神経を使う。ATTO 3もその点はかなり慎重に味付けしているが、EX30は後輪駆動ゆえ、その心配もない。トヨタやホンダも然りで、BEV専用プラットフォームが後輪駆動前提になるのもむべなるかなという感じだ。ちなみにBYDも車格的にパッケージの合理性や重量配分の適正化が担保できるDセグメント級のシールは、後輪駆動アーキテクチャーとなっている。
ATTO 3は世界戦略車として見ても乗っても走っても、そしてお財布を開くにしてもアフォーダブルに纏められているという印象だ。一方でEX30はBEVシフトを変革の契機に、前衛的なまでに合理性を突き詰めていこうという姿勢がみてとれる。同種のパワートレインながら、その個性は両極ともいえるだろう。
各社の世界戦略を担う2台だが、その個性はまさに両極だ
VOLVO EX30/軽やかで洗練された乗り心地と素直なハンドリング
現在日本でラインナップされているEX30はシングルモーターのみで最高出力200kW(272ps)、最大トルク343Nm。そう遠くないうちに315kW(428ps)、543Nmのツインモーターも導入される予定だが、現状ではパフォーマンスが低いほうしか乗れていないのだ。それでも車重が1790kgとそれほど重くないから、じつに軽快な加速をみせる。RWD(後輪駆動)だから発進時にアクセルを深く踏み込めばグイッと背中を押される感覚で気持ちいい。乗り心地は上品で洗練されていて快適志向が強く感じられるが、ハンドリングも素直で一体感が高い。ことさらにスポーティさを強調してはいないのだが、サラリと速く走れてしまうのがボルボらしい。
【SPECIFICATION】VOLVO EX30 ULTRA SINGLE MOTOR EXTENDED RANGE
■車両本体価格(税込)=5,590,000円
■全長×全幅×全高=4235×1835×1550mm
■ホイールベース=2650mm
■車両重量=1790kg
■総電力量=69kWh
■一充電航続可能距離(WLTC)=560km
■モーター最高出力=272ps(200kW)/6500-8000rpm
■モーター最大トルク=343Nm(35.0kg-m)/5345rpm
■サスペンション=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:ディスク
■タイヤサイズ=前後:245/45R19
問い合わせ先=ボルボ・カー・ジャパン TEL0120-922-662
BYD ATTO 3/プラットフォームやパッケージングの完成度は見事
噂は本当だった。試乗したジャーナリストが皆、口を揃えるように「結構イイんだよ」と聞いてから気になってはいたが、なかなか試す機会に恵まれず、今回ようやく初試乗となった筆者。確かに良い。独自に開発した専用プラットフォームの完成度は高いし、パッケージングも見事。テスラと同様、BEVに自動車メーカーが培ったノウハウなど必要なし、中国4000年の歴史も関係ない! ということをまざまざ見せつけられる仕上がりだ。物理スイッチの操作性もなかなか良好で、センターディスプレイの表示内容も分かりやすく、設定の変更などでほぼ戸惑うこともないから文句なし。しかし、特に惹かれるものもないというのが本音。
【SPECIFICATION】BYD ATTO 3
■車両本体価格(税込)=4,500,000円
■全長×全幅×全高=4455×1875×1615mm
■ホイールベース=2720mm
■車両重量=1750kg
■総電力量=58.56kWh
■一充電航続可能距離(WLTC)=470km
■モーター最高出力=204ps(150kW)/5000-8000rpm
■モーター最大トルク=310Nm(31.6kg-m)/0-4433rpm
■サスペンション=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前:Vディスク、後:ディスク
■タイヤサイズ=前後:235/50R18
問い合わせ先=BYD Auto Japan TEL0120-807-551
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