生粋のフェラーリ産V12自然吸気ユニット搭載の、日常から使える“4ドアGT”はこれが最初で最後かも!?「フェラーリ プロサングエ」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

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生産数も限られた非常に価値の高いモデル

先入観というものは時に大きな誤解を招く……。デビュー前から噂されていたフェラーリ初の4ドアモデルが公開されてからというもの、何かと巷では“フェラーリのSUV”として認識されてしまった「プロサングエ」。確かに一見するとSUVに見えるし、そう見られても仕方がないとは思う。

というのも、昨今SUVの主流といえばクロスオーバー。日本を代表する、あの“王冠”の名をもつモデルでさえ、サルーンからクロスオーバーを派生させるほど、今や定番のスタイルになったと言ってもいい。ましてや、スポーツカー1本で勝負してきたシュツットガルトのブランドがSUVをラインナップすることで立て直しが図れたのだから、“あ〜、フェラーリも遂にそっちに行ったのか……”と受け止められてしまうのだろう。

抑揚あるボディラインは車高の高いスポーツカー然としたもの。エレガントかつスポーティなルックスを実現している。

しかし、フェラーリは、プロサングエに対してSUVなどとひと言も発していない。唯一、触れているのは、“クロスオーバーやSUVのような典型的な現代のGTモデルとはまったく異なるレイアウトと革新的なプロポーションを採用した”とだけ強調するのみ。おそらく、実車を見ずに、その印象だけを取り上げれば、SUVに映るのは否めないが、眼の前にすれば誰もがプロサングエをSUVとは思わないはずだ。

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ボンネットはさすがに12気筒を収めるだけあってロングノーズ、リアフェンダー周りはボリューミーかつマッチョ! 全高も1600mmに迫る高さで、ホイールベースに至っては3mを超えているから数字だけ見ればSUVのようだが、これほどグラマラスで凝ったデザインをもつSUVなどありえない。実に逞しいエクステリアで見れば見るほど奥深いデザインだと気づくほど。筆者もはじめて目にした際、思わず“デカっ”と口にしてしまったが、それでも惹かれるものがあるのは確かだ。

フロントミッドに搭載されるされるV12ユニットは最高出力725ps、最大トルク716Nmを発生。低回転域で扱いやすい一方、8250rpmもの高回転まで回るのはさすがフェラーリのエンジンだ。

このプロサングエで最大の特徴となるのは、言うまでもなく、V12“自然吸気”エンジンを搭載していること。812コンペティツィオーネ譲りであると同時に、その起源はプレミアムモデルのエンツォ フェラーリまで遡るF140系である。そのエンツォは例外として、これまで多くのフロントエンジン車に搭載され、2+2のGTC4ルッソにも積まれていたが、今回、プロサングエで決定的に違うのは出力特性である。バルブタイミングを改善し、吸排気系も直した効果は極めて大きく、全域に渡ってトルクフルで扱いやすさが際立つ。このF140系のV12エンジンでここまで巧みに調教された印象をもつユニットは他にはないかもしれない。

最新のインフォテイメント系が与えられたコクピット。フロントシートはホールド性と掛け心地も良好で、リアシートは左右独立式となっている。

パワー&トルク値は、725ps&716Nm。参考までに記すと、GTC4ルッソが690ps&700Nmであることから正常進化を辿っていると思われるかもしれないが、そのフィーリングは比べものにならないほどウルトラスムーズ! 完全バランスを誇るV12エンジンらしいと言えばそれまでだが、これまで特異としていたフェラーリならではの高揚感を意図的に抑えることで、ゴー&ストップが多い都市部の移動が精神的な面で楽になった。それでもフリクションロスが少なく、クランクシャフトの軽さを思わせるほどレスポンスに優れているのが分かるから、何とも不思議な仕上がりを実現している。

前後重量配分は49:51%とややリア寄り。その走りはまさに4ドアGTだ。

以前は低回転域で走行していると、いても立ってもいられないくらい上まで回したくなっていたが、プロサングエの場合はそうはならない。あくまでも個人の印象だが、これには大賛成。らしくないと思われるフェラリスタの気持ちも理解できるが、今の時代ならこれが正解。4ドアというコンセプトであれば、尚さらである。とはいえ、ちょっと穿った見方をすれば、このセッティングはBEV化に向けたフェラーリの狙いも見え隠れする。しかし、過剰な演出を避けたことは確かである。

そういった点では、ゲインが抑えられたハンドリングも同様。フェラーリらしいクイックさは影を潜め、後輪操舵システムとともに街中でのドライブはもちろん、駐車する際も車格からは想像できないほどスムーズに行える。これは、一度慣れてしまうと、3mを超えるホイールベースがあるとは思えないほどの出来栄え。体感的には、ひと回りほど小さく感じられるのは本当にありがたく、V12を躊躇することなく街乗りでも使いたくなるほどだ。

プロサングエはフェラーリ初の4ドアモデルとはいえ、事実上、2+2のGTC4ルッソの後継車。コンセプト的にはドアが追加されただけのように映るが、ハーシュネスなど快適性の面での向上には目を見張るものがある。それに、いわゆるラグジュアリー感も桁違い。高級感が増し、スポーツカーブランドが手掛けたモデルにしては、ずいぶんと凝った造りで、ダッシュボード周りなどは、正直GTC4ルッソとは比べ物にならないほどそのデザイン性と質感が高いのも特筆すべき点だ。

リアウインドウが傾斜していることもあり、ラゲッジスペースは必要最低限の容量。分割可倒式のリアシートを倒せば、長尺物を積むことが可能だ。

そして、もっともGTC4ルッソの後継車だと思わせるのは、4WDシステムにほかならない。7速から8速DCTへとアップデートされてはいるものの、4RMと呼ばれた4WDシステムは4RM-Sと名称を変えてはいるが、その内容は制御システムを変更している程度で基本は同じ、4WDとして機能するのは相変わらず1〜4速まで、だ。今や大パワー&極太トルクのスポーツモデルであれば、フルタイム4WDが常識。しかし、敢えて新たに開発しなかったのは、ピュアスポーツの精神を貫いているように見せかけて、実は自然吸気式のV12エンジンを搭載するモデルを、これで最後にしたいからだと筆者は見ている。

タイヤはフロント255/35R22、リア315/30R23サイズのミシュランパイロットスポーツ4Sが装着される。

そもそもプロサングエは限定車とまで言い切らないまでも生産数が限られることが明らかにされている。即ち、次世代は完全なるBEVか、あるいはハイブリッド化されるのは間違いない。事実、フェラーリはBEVやPHVの製造にも対応した「eビルディング」と名付けた新たなファクトリーを新設、今年の6月から稼働を開始した。そうした背景を重ねて考えれば、このF140ユニット&4RM-Sを組み合わせたパワートレインを使い切るつもりなのだろう。そう思うと、このプロサングエの価値は非常に高いと思えてくる。

試乗を含めたレポートはすでに本サイトに掲載しているので、もしプロサングエが気になる方がいるなら、それと併せて検討してほしい。生粋のフェラーリ産、純度100%の内燃式V12自然吸気エンジンを搭載した、日常から使える“4ドアGT”はこれが最初で最後の可能性大なのだから……。

【SPECIFICATION】フェラーリ プロサングエ
■車両本体価格(税込)=47,660,000円
■全長×全幅×全高=4793×2028×1589mm
■ホイールベース=3018mm
■トレッド=前1737、後1720mm
■車両重量=2033kg
■エンジン型式/種類=F14IA/V12DOHC48V
■内径×工程=94.0×78.0mm
■圧縮比=13.6
■総排気量=6496cc
■最高出力=725ps(533kW)/7750rpm
■最大トルク=716Nm(73.0kg-m)/6250rpm
■燃料タンク容量=100L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=前後:Wウイッシュボーン/コイル
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ=前:255/35R22、後:315/30R23

フォト:篠原晃一/KShinohara

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

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野口優
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2024/08/09 18:00

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