昨日?そんな昔のことはもう忘れた…捨て去った過去と断ちきれない想い出!【アメリカンカープラモ・クロニクル】第25回

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1967年、ニュー・ポートレート・オブ・マイ・パスト

1967年を迎えるにあたって、amtはある大きな危機を回避するための対策に追われていた。これまでに開発してきたアニュアルキット金型の「始末」である。

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提携する自動車メーカーからの許諾を受け、毎年最新鋭のモデルを実車と同時期に模型化し販売するアニュアルキット・ビジネスは、耐用年数のきわめて長い金型という資産の開発と運用が不可分だ。金型は同じものを大量に作り出すことができる反面、ひとつひとつにかかるコストは甚大で、一度かたちになってしまった金型は運用上の小回りがきかない。

金型に彫られたものの状況が刻々と変化するアニュアルキット・ビジネスでは、実車のモデルチェンジによって金型がまったく用をなさなくなるという事態がこれまでもたびたび発生した。実車にしてみればたかがシートメタルの差し替え程度のことでも、模型にしてみれば旧金型の修正ではすまないことがままある。フォードがたった3年のあいだに1年刻みの大きなモデルチェンジを繰り返し、最後はブランドそのものが絶えたエドセルがそのわかりやすい例だろう。

1967年、このモデルチェンジの波がかなりまとまって押し寄せた。加えてamtには、1958年のアメリカンカープラモ展開開始以来、用を失って倉庫にしまい込まれたままとなった旧モデルの金型が堆積していた。古い金型製品であっても、そのまま再販すればよいという時勢ではない。模型メーカーと自動車メーカーはライセンスを介して緊密に結びついており、ライセンシーが年式落ちモデルをふたたび生産し販売することはライセンサーの望むところではなかった。少なくともここには「方便」が必要だったのだ。

忘れえずして忘却を誓う心の悲しさよ
かくしてamtの’58エドセル・ペーサー、’63ポンティアック・テンペスト、’65シボレー・シェビーII/ノヴァ、’65シボレー・シェベル・マリブSS、’65オールズモビル・F-85カットラス、’65フォード・ファルコン、’66プリマス・バラクーダ、そして’66フォード・マスタングGT(ファストバック)といったアニュアル金型が不可逆的な改造によって、ホイールベースを大胆に変更した当時流行のファニーカー・スタイルへと永久に姿を変えた。

金型改造の程度はごく軽いものから、オールズモビル・カットラスのように原型がなんだったかもわからないほどの「整形手術」を施されたものもあった。かつてamtが親交厚いフォードの一大事に報いた仕事であったはずのエドセルにいたっては「アンリアル(荒唐無稽)」がテーマだと称して、ファニーカーとは名ばかりの破茶滅茶な姿となり、縦長レイアウトの奇抜なボックスにランチバッグを模した茶色い紙袋に放り込まれて市場に流された。

これらのキットのボックスアート天面には商品名を含め文字が一切なく、のちに「ポートレート・スタイル・ボックス」と美称で呼ばれるようになるが、これは自動車メーカーにもNHRAのような公式ドラッグレースの協会団体にもライセンスの根拠がないことを暗に示す、見た目の印象どおりの所在なき仕様であった。

これら改造を受けたキット群は「ホイールベースを変える」という初期ファニーカーのスタイルこそ踏襲はしていたものの、実在のファニーカーに範を取った再現はほぼ皆無で、架空の疑似ファニーカーと呼んで差し支えないものだった。

加えて当時はファニーカーというカテゴリーが爆発的な速度で進化を遂げていたまさに真っ只中の時期であり、NHRAの主催するドラッグレーシング競技の公式エリミネーター・クラスとなったのが1966年(ワールドファイナル)、車両自体も革命的発明ともいえるロッギ・シャシーをそなえた先鋭的なマシンが覇を競い合っており、amtキットの付け焼き刃のような仕様は、それなりのリサーチの跡がみられたとはいえ、小売店に新商品としてならぶ頃にはすっかり時代遅れのスタイルになり下がっていた。

実車をいち早く正確に模すところに魅力のあったアメリカンカープラモのトップブランドamtが、その台所事情から現実にすっかり水を開けられるという、これは断固たる凋落の兆しだった。

トロフィー・シリーズの終焉
本連載第23回の結びに述べたとおり、アニュアルキット・ビジネスの1967年ははっきりと需要が落ち込んだ年だった。前年にアイテム数のピークを記録したamtは、統一のとれたデザインのボックスアート(1967年のものはチェッカード・ボックスと呼ばれる)を継承しながら、がくんとそのラインナップを減らした。

兆候はしかるべく内実をともなうもので、この頃amtでは社長の交代劇があった。新社長に就任したトム・ギャノンは典型的なビジネスマン・タイプの辣腕で、ずっとのちにマテル傘下となるモノグラムにおいても社長を務めて同社の業績回復に采配をふるった人物だった。

彼の号令一下、長らくamtの「もうひとつのドル箱」を任じてきたトロフィー・シリーズが1967年をもってひっそりと終了した。栄光のシリーズ最終作となったのは、ギャッサー・スタイルの’37シボレー・クーペ・ストーブボルトで、アニュアルキットよりも凝った内容を誇った同シリーズの掉尾を飾るにふさわしい秀作だった。

前年の1966年、’66ビュイック・スカイラークGSをもってひっそり終了したクラフツマン・シリーズ(エンジンの付属しない年少者向けカーブサイドキット)とあわせて、amtからは特別なテーマをもった「シリーズもの」が一時潰え、同時にトロフィー/クラフツマンに固有だった価格帯の区分がなくなり、amtのカープラモは最低価格帯を一律1ドル70とする値上げに踏み切った。

以降amtは守旧的にアニュアルキット・ビジネスを維持しつつ、新しいドル箱を模索する展開が1969年頃まで続くことになる。

復刻はけっしてただの懐古ではない
1967年当時の事情に照らしてアメリカンカープラモを振り返るとき、この年のamtの果敢な取り組みは、1958年から1966年までに自動車メーカーと緊密に連携することで得た成果を巧みに反映させてきたキットを数多く台無しにしてしまったということもできる。

空前の大人気を誇った初期フォード・マスタングのアウトフィットを非常によく写したふたつのキット――ハードトップとファストバック――はともに、ソニー&シェールのバリス・カスタム(ハードトップ)と疑似ファニーカー(ファストバック)といういずれも一時しのぎとも思えるキットに化けてしまって、二度とショールームストックの姿を二度と取り戻せなくなってしまったわけだが、冷静に考えればこの頃のアメリカンカープラモはことごとくトピカルな(日本語にすれば「いま、巷で話題の」)性格の商品だった。

唯一トロフィー・シリーズにはレガシーやヘリテージといった過去の継承すべき存在を模型化する意図が含まれているように思えるが、本当は「いま、巷で話題の」ホットロッド・キットだったのであって、こうしたシーンの趨勢がNHRA主催の新しいスタイルのドラッグレースへとうつり変われば、アメリカンカープラモにも当然そうした対応が求められるといった流れはしごく当然のことであった。

当時はあらゆる文化が「いま現在に対してもっとも肯定的」だったわけだ。いまアメリカンカープラモを愛好するわれわれが甘い憧れとともに想起するこのピリオドは、じつのところ停滞した現状にうんざりする気持ちが向かう先、激しく流動的だったかつての「いま」の残影なのだろう。

いまのわれわれにアメリカンカープラモの新製品を供給してくれているラウンド2やメビウスモデル、レベルといった模型メーカーはこうした時代の喪失物にとても自覚的で、取り戻せなくなってしまったキットや未解決のテーマを、新規金型によって甦らせる作業に余念がない。

ラウンド2による’66フォード・マスタング・ファストバックの復活は、アメリカでも決して小さくない話題となった。ラウンド2を率いるトーマス・ロウはこうした動きをただ懐古的なものではなく、同時代性(その当時を生きて経験したかどうか)を超えて愉しめるものを提供するものだと日頃から語っている。「いま」と「むかし」を揺るぎない「普遍」で結ぼうとする、いかにも模型人らしい熱っぽさが彼の言葉にはある。

photo:秦 正史、畔蒜幸雄

この記事を書いた人

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1972年生まれ。日曜著述家、Twitterベースのホビー番組「バントウスペース」ホスト。造語「アメリカンカープラモ」の言い出しっぺにして、その探求がライフワーク。

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