【国産旧車再発見】シリーズ最強のパワーユニットを秘めた淑女、国産初の200km/hオーバーカー『ダットサン・フェアレディ2000』

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戦後日本に生まれた初めてのスポーツカーがダットサンDC-3。この流れを汲むオープンモデルとしてダットサン・フェアレディは生まれた。1500、1600と成長し最終的に2000まで排気量を拡大している。それは好調な対米輸出と国内レースにおいて求められた、最高時速200キロオーバーという実力を現実のものとするためだった。

ロードスターの伝統的スタイルはフレーム別体式ボディながら時速200キロの壁を超えていく

国産車初と言えるスポーツカーが、1952年に日産から発売された『ダットサン・スポーツDC-3』だ。スポーツカーを名乗るが、中身は戦前型ダットサンにオープンボディを架装したもの。性能ウンヌンより、この時代に発売された意義こそ大きい。当時から日産が北米輸出を目論んでいた証であるからだ。

当時の川又克二社長がアメリカでミュージカルを観劇したことから命名されたと伝えられるフェアレディは、DC-3の生産終了から5年後の1959年に始まる。当時の表記はフェアレデーで正式車名でもある。この時には戦後型シャシーに発展し、スタイルも流線型へと大きく変貌を遂げた。続くフェアレデー1200を合わせても250台に満たない数が生産されただけで、そのほとんどがアメリカへ輸出された。1958年に北米日産が設立されたことと歩調を合わせたもので、イメージリーダーとしての役割を演じている。

だがこの初代フェアレデー、乗ればわかるがとてもスポーツカーを名乗れる実力は備えていない。スポーツカーの形をしたエントリーカーとでも言えばいいだろうか。もちろんそれは日産も重々承知のうえだろう。だからこそ、1962年に発売されたフェアレディ1500を、象徴的ではない初めてのスポーツカーと呼びたい。SP310という型式からわかるように、310ブルーバードがベースにされている。ようやくフロントが独立懸架になり、フェアレデーがオープン4シーターだったことに対し、SP310では狭くなったリアに横向きのシートが備わる3シーターになった点も特筆できる。ホイールベース自体はブルーバードと変わらないのだが、ようやくスポーツカー特有の設計ができるようになったということだ。

輸出向けはダットサン・ロードスターを名乗り、型式もSP310からSPL310となる。このSP310は国内レースで活躍すると同時に、本格的に北米での販路を広げた。両者から「よりパワーを」という声が上がるのは必須であり、1965年には排気量を引き上げたフェアレディ1600を発売。さらに1967年になると、エンジンをSOHCに変更したフェアレディ2000が登場する。

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フェアレディ2000は型式名のSR311と呼ばれることが多いが、それは従来のSP型フェアレディと同一視してほしくないというオーナーたちの心の声がそうさせたのだろう。何しろSR311は、1500や1600とは次元の違う走りを披露する。国産車で初めて最高速200km/hの壁を突破し、0-400m加速を長い間日本一だったことからも明らか。セドリック用だったH型2リッターOHVエンジンをOHC化したU20 型エンジンには、当時も今も市販車用としては最大口径となるキャブレター、ソレックス44PHHを採用。ストックの状態で145psを発生し、ポルシェタイプの5速トランスミッションと組み合わされた。

SR311は国内レースで大活躍。初代ZであるS30がデビューしてからも旧型のSR311が勝利してしまうことさえあった。その走りは当然アメリカでも支持を集め、今なおファンが少なくない。ところが、この性能が仇となることもある。1970年代を通して国産最速の座を狙えるクルマであったため、中古車でしか買えない時代になると盛んにモディファイされることとなるのだ。

その方向性は言うに及ばず、レーシングカーもどきの低い車高、扱いにくいほどカリカリにチューンしたエンジン、時にはワイドタイヤを収めるためオーバーフェンダーを装着していることも珍しくなかった。おそらく、そんな時代が1990年代まで続いたのではないだろうか。否定するつもりではないが、筆者が初めて接したSR311が、まさにこのような仕様だった。「乗ってみ」と言われて走らせたのだが、「スゴイですね」と返した感想のうちには「こんなハードな足では乗れたもんじゃない」というセリフが隠されていた。サスペンションはまったく動いてくれる気配がなく、ワイドタイヤを履いたために路面の轍を正直すぎるほどに拾う。しかもノンパワーのステアリングは小径にされているものだから、普通の腕力では曲げることすら難しい。まさに”男の乗り物”だった。

それ以来SR311と聞くと、どうも苦手意識が働いてしまう。素性はとても良いスポーツカーだと思うのだが、いかんせん乗り手がハード過ぎて現存している多くの個体に”乗りたい”と思えないのだ。ところが今回、初めて接したフルノーマルのSR311で、今までの苦手意識は完全に払拭された。おそらく新車当時は実にいい味わいを持ったスポーツカーだったのだと、再認識させてくれるほどの乗り味を備えていたのだ。

淑女らしい純白のボディに国産最強だったパワーユニットを秘める

確かに初期のローウインドースタイルは低く精悍だが、ドライバーの頭が飛び出てしまう。撮影した1969年式の最終型はハイウインドーで三角窓がないタイプ。最終型ではフェンダーミラーの取り付け位置が後退している。

今回の取材車を選ぶにあたり、筆者が懇意にしてもらっている内装業者、須藤自動車工業さんに相談した。「フルノーマルのSRなんてありますか」と。というのも、須藤自動車工業さんは40年ほど前からSRと縁が深く、社長自身SP310をフルレストアしたほどの趣味人。相談するには最適と思った。すると、少ないながらフルノーマルが存在した。それが今回の車両というわけだ。

オーナーはSP/SRフェアレディの所有者としては若い40代後半。だからだろうか、改造された個体ではなくフルノーマルであることを尊重。初めはレストア済みの車両を手に入れたが、前述のような改造が施されていた。そこで未整備のままナンバーが切れた状態の現車と交換。エンジンのオーバーホールを手始めに、新車当時の性能と装備を再現することに情熱を傾けてきた。

オリジナルへのこだわりは徹底しており、エンジンはノーマルスペックによるオーバーホール、キャブレターには純正エアクリーナーケースまで備える。サスペンションも純正のコイルとリーフを使い、下がっていた車高を高く直している。もちろんホイールは純正スチールで、バイアスが選べないためラジアルでも純正とハイトが同じになるタイヤサイズを選んでいるのだ。

そのためだろう、アイドリングは600r.p.m.ほどで安定し、純正のメガフォンマフラーが奏でる音色に耳障りなところがひとつもない。タイヤサイズが適正なため、ステアリングに重さを感じない。停止状態でも操舵可能で、走り出せばいたって自然なフィールだ。

走り出しも呆気ない。軽いクラッチはコツなど必要なく、スルッと繋がる。ハイチューンユニットながら、4速2000r.p.m.でも使えるフレキシブルさを備えている。だが、一旦スロットルペダルを踏む力を強めれば、国産最強だった片鱗がうかがえる。豪快なダッシュを披露してくれ、加速中の直進性も良好。サスペンションに尖ったところはなく、しっかりストロークするからコーナーでのロール感も自然なのだ。ボディ剛性を引き上げ大径タイヤを履いた現代の高性能車の方が、よほど辛い乗り心地と言っていい。これなら普段乗りから高速走行まで楽しめるだろう。

ちなみにフルレストアされたSP310、フェアレディ1500にも乗った経験がある。こちらはさらにマイルドで、エンジンにパワーがないから無理して走らせようと思わせない。すると自然、オープンで快適な速度域に落ちつく。とても優雅でリラックスした気分になれるのだ。今回のSR311にもSPと共通する部分があった。もちろん足まわりは相応に固められているし、エンジンのパワーは別物。だが、流しても楽しいことは新発見だった。

【Specification】ダットサン・フェアレディ2000
●全長×全幅×前高=3910×1495×1325mm
●ホイールベース=2280mm
●トレッド(F&R)=1275/1200mm
●車両重量=930kg
●エンジン形式=水冷直列4気筒SOHC
●総排気量=1982cc
●圧縮比=9.5:1
●最高出力=145ps/6000r.p.m.
●最大トルク=18.0kg-m/4800r.p.m.
●変速機=5速MT
●懸架装置(F:R)=ダブルウイッシュボーン:リジット・リーフ
●制動装置(F:R)=ディスク:ドラム
●タイヤ(F&R)=5.60S-14-4PR
●新車当時価格=91万円

Text:増田 満 PHOTO:内藤敬仁 カー・マガジン486号より転載

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2023/03/31 11:30

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