洋の東西で考えることは一緒のようで違った !? 東京オートサロンのハチロク同様にレトロモビルでルノーが旧車のEVコンバート・キットを発売!【フレンチ閑々】

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キャトルLと初代サンク&トゥインゴの3台のEVコンバージョンを披露

チューニングカーかヒストリックカーかという違いこそあれど、年初の定例インドア・ミーティングで、好事家やエンスージャストたちの賀詞交歓の場となっている点でも、フランスで年に一度開催されているレトロモビルは東京オートサロンは近いものがある。

2023年の東京版ではご存知、トヨタ自動車社長から勇退する豊田章男氏がEVと水素燃料車にコンバートした旧ハチロクのレビンとトレノを披露した。対してフランスはパリ版では、ルノーが「4(キャトル)L」と「初代5(サンク)」と「初代トゥインゴ」の3台の、EVコンバージョンを発表。しかも各車種のEVコンバージョン・キットが同時に発売となったのだ。市場として実需マッチが、早くも具体的な商品で実現された分、フランスの方が少しリードといったところか。

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このサービスをルノーは「R-FIT(アール・フィット)」と銘打って、ひとまずはフランス国内向けのサービスとして、ルノー自身がアイコニックな3車種と位置づける4と5とトゥインゴ、つまり懐かしの大衆車用に展開する。キットの価格は8900ユーロ~という設定で、装着作業込みなら1万1900ユーロ~という価格設定だが、地方や自治体によっては6000ユーロほど補助金が用意されている。

キットの物理的な概要としてはまず、エンジンと燃料タンクを抜き取って、駆動用バッテリーとモーターに置き換えること。続いて気になるのは法規面で、こうした改造を加えた車両が公道を走るための型式認証を得てナンバーが付けられるかという話だが、フランスでは2019年より認められ、むしろ欧州他国では以前から可能だった。旧市街の中心部などでエミッション規制を敷いている欧州では、EV化は倫理的・経済的な云々より実用上の問題という人が少なからずいたのだ。

ひとまずフランスの認証ルールのポイントは、電磁波による攪乱が制御系統に影響を及ぼさないよう対策が講じられていること、電源カット装置による感電防止策が充電口付近に施されていること、システム電圧は48~110Vに制限すること、の3点だ。そもそもEVコンバート以前にベース車両は、ボディやシャシーの基本的な機能、いわばステアリングやブレーキといった機械的な部分での支障がないよう、車検の有効期間内であることが必須。またコンバート作業を担当するのはR-FITの研修を受けた認証ガレージに限られ、納車時には新しい車検証とともにR-FIT独自の認証書類がオーナーに引き渡されるという。

気になる性能面だが、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの容量は10.7kWh、航続距離は80~90kmを謳っており、2年間の保証が付いている。フランスの家庭用コンセントは220Vだが、最大32Aに留まる単相ACから最大80A強まで対応する3相ACへの切り替えはわりと容易で、後者をオプションで選ぶと3時間半で満充電できるとか。またモーター出力は14.5Kw(=約19.7ps)と、4や5やトゥインゴの最初期モデルより一層、非力に見えるかもしれないが、ピークパワーは48kW(65ps強)あるそうで、元より軽量コンパクトなボディと電気のトルクの組み合わせだから、鈍重でホゾを噛む、なんてことはなさそうだ。そもそもフランスの市街は30~50km/h制限がほとんどだし、郊外路は中央分離帯のない対面道路なら8km/h制限となる。コミューター+α程度の動力性能と航続距離があれば、十分なのだ。

豊田章男氏は「クルマ好きを誰一人、置いてきぼりにしない」と言ったが、洋の東西でほとんど同時にEVコンバートをトヨタとルノーが考え、商品化しているところはなかなかに興味深い現象といえる。確かに一昨年はルノー4の60周年、昨年はルノー5の50周年、そして今年はトゥインゴの30周年という、ちょうど節目が来ているという事情はある。それでも一緒に並べた「ルノー5 3E」のような最新のコンセプトでもってEV移行をゴリ押しするのでなく、せめて外観チェンジを強いない選択肢を旧車好きに示したことは、やはり意味のあることなのだ。

ちなみにルノーと組んで、「R-FIT」ことレトロフィットEVキットを開発&販売サービス化したのはマルセイユの南、カシにあってフレンチ旧車好きには名高い、MCCオートモーティブ。MCCとはメアリ・クラブ・カシの略で、新車のシトロエン2CVやメアリをシトロエンの工場から譲られた工作機械で変わらず造り続けている…というか、登録上で存在する旧車に新品パーツを「レトロフィット」してくれるガレージだ。シトロエンのヒストリック関連で名高い同社が、ルノーと組んでEVコンバージョンのサービスを展開すること自体、時代なのかもしれない。
ところで法規上の補足だが、フランスで登録初年から30年超で望めば取得できたはずのヒストリックカー・ナンバーは、EVコンバートとは両立しない。EVコンバート車の車検有効期間は、新車から2回目以降の車両と同様、2年となる。いまだヒストリックカー・ナンバーすら実現していない日本から見ると、規制ルールが民間からのボトムアップや実情(と実状)を遅まきながらでも反映して次に進める分、フランスの進歩主義は捨てたものじゃないと思わされる。

この記事を書いた人

南陽一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。

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