【STUDY 02】現代へアップデートされた英国流高級車の仕立て方を考察。「ブリティッシュ・ラグジャリーの現在地」

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ここに挙げる英国ブランドは、現代に合わせた高級車を作っている。興味深いのは、同じ「英国」「高級車」でも仕立てる流儀やフィロソフィーはまったく異なるという点だ。ここでは英国を代表する4ブランドを集め、それぞれの成り立ちから現在の姿を眺め、ブリティッシュ・ラグジャリーを考察した。

【写真14枚】英国を代表する自動車ブランド4社の「ラグジャリー」 

高級車という概念を作り上げた存在:ROLLS-ROYCE
1906年の創業以来、世界の王侯貴族・VIPが愛用してきた高級車の代名詞。先日発表されたロールス・ロイス史上初のBEVモデルとなるスペクターから、オールエレクトリック・パワートレインと分散型インテリジェンスが統合された新世代、「ロールス・ロイス3.0」へ移行。2030年までに全モデルの電動化を目指している。
かつて、映画『アラビアのロレンス』のモデルとなったイギリスの軍人であり、考古学者でもあるトーマス・エドワード・ロレンスは、欲しいものは何か? と聞かれ、こう答えている。「ロールス・ロイスを1台、それと一生分のタイヤを」。これはロールス・ロイスの卓越したタフネスぶりを端的に示した一言として、今でも語り継がれている名文句である。
そんなロールス・ロイスのもうひとつの顔、それはエレガンスだ。ロールス・ロイスが世界初の高級車として生まれたというよりも、高級車という概念そのものを作り上げた存在であることに異論はない。しかしながら派手で煌びやかとか、木と革で包まれた昔の洋館のような古式ゆかしい姿を想像するのは間違いだ。2代目へとフルモデルチェンジを果たした新型ゴーストを送り出すにあたり、ロールス・ロイスは「ポスト・オピュレンス」というテーマを掲げた。「次なる贅沢」とでも訳すのが適切だろうか?

目の前にあるゴーストは、全長5,545mm、全幅2,000mm、全高1,570mmと、カジュアルとは言い難い威風堂々とした体躯を誇っている。一方で、全長が90mm、全幅が30mm拡大されたボディサイズのおかげで、そのプロポーションは一層伸びやかに纏め上げられているのも事実である。

では「ポスト・オピュレンス」とは何か? それは室内に入ると、より明らかになる。暗い駐車場の中でドアを開けると眩いばかりの白いLED灯が光り、室内は花が咲いたかのように明るく照らされる。間接照明を駆使した重々しい雰囲気とは真逆のアピアランスだ。そして、あえて華美な装飾を控え、シックに洗練されたインテリアは、リアシート前のタッチパネル式ディスプレイなど最新のインフォテイメントシステムを含め、自動車というより、最新のデザイナーズホテルや、美術館のような雰囲気といったら、おわかりいただけるだろうか?

それはドライバーズシートに座っても同じだ。想像以上に見晴らしのいい視界、そしてステアリングは思っている以上に軽くスムーズで運転のしやすさ、取り回しのしやすさに驚く。加えてわずか1,600rpmで850Nmものトルクを発生する6.75Lのエンジンは、アクセルペダルに軽く足をのせるだけで、すべてが事足りるほど、動力性能に余裕があるのはもちろん、スターターを押してもその存在を感じさせないほど黒子に徹する。おかげで、必要以上にアクセルペダルを踏み込まなくて済むぶん、車内は静かでゆとりが生まれ、肉体的、精神的ストレスも少ない。

そういう意味でもゴーストはこのままBEVになっても、まったく違和感を感じない、ステレオタイプな自動車、高級車のイメージから脱却した存在であるといえる。それこそが彼らの提唱する「ポスト・オピュレンス」の真髄ということなのだろう。

◆「ロールス ・ ロイス ・ ゴースト」
全長×全幅×全高=5,545×2,000×1,570mm/ホイールベース=3,295mm/車両重量=2,590kg/エンジン種類/排気量=V12DOHC48V+ツインターボ/6,750cc/最高出力=571ps(420kW)/5,000rpm/最大トルク=850Nm(86.7kg-m)/1,600-4,250rpm/トランスミッション形式=8速AT/サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン/マルチリンク/ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク/タイヤサイズ(F:R)=前255/40R21、後255/40R21/車両本体価格(税込)=37,870,000円
公式ページ https://www.rolls-roycemotorcars.com/ja_JP/home.html

エンジンの贅沢度は素直に気筒数に比例する:ASTON MARTIN

1913年の設立以来、生粋のスポーツカーメーカーとして活動を続け、ハンドメイドの高級スポーツカー作りで世界的名声を確立。現在は2020年に会長に就任したローレンス・ストロールのもとF1参戦とともに、ヴァルキリー、ヴァルハラなどスーパースポーツカーや、DBXなど新たなジャンルにも活動の手を広げている。

高級とは何か。何も高価な素材をふんだんに用いて豪華に仕立てたり、車体を大きくするばかりが高級ではない。意外に思われるかもしれないが、目的地に速く、確実に、快適に到着するスピードもまた、ひとつの高級の素養であるのだ。

ルーフやボンネットにカーボン素材、ドアはアルミ素材を用いたスーパーレッジェーラ(超軽量)仕様。2022年より、モデル名は「DBS スーパーレッジェーラ」から「DBS」に変更。

もちろんそれは人の興奮を駆り立てる本能的な要素もあるのだが、フォドリズモ(未来派)と呼ばれた前衛芸術のモチーフとなるなど、スピードは近代文明の象徴であり、限られた人々にだけ許された特別な世界として、人々の憧れになった。だからこそ、スピードを純粋に表現したスポーツカーは、高級車のひとつの形として技術の発展とともに進化を続けてきたのである。

アストン・マーティン自ら”究極のプロダクションカー”と謳うDBSは、1969年にDB6に代わる旗艦車種として登場し、その後2007年に登場したヴァンキッシュの後継車にも与えられたDBSの名と、往年の名車、DB4やDB5のボディを手がけたイタリアのカロッツェリア、トゥーリング独自の工法”スーパーレッジェーラ”のダブルネームを戴いたDBSスーパーレッジェーラとして登場。2022年モデルからその名をDBSに改めたフラッグシップGTである。

では、DB11をベースとしたDBSのどこが高級なのか? そのひとつが今や絶滅危惧種というべきV型12気筒DOHCツインターボエンジンだ。DB11 V12に比べ最高出力86psアップの725ps、最大トルク200Nmアップの900Nmにまで高められたV12はスターターモーターを押した瞬間に短いクランキングとともに野太い大音量で目覚める。ダウンサイズのサイレントスポーツカーが増える中、まるで時代に逆行するような存在に映るが、モーターとは比較にならない高い技術と膨大なパーツ数、そして手間ひまを必要とするレシプロエンジンの贅沢度は素直に気筒数に比例する。

そしてもうひとつは、かつてのスーパーレッジェーラ(=超軽量)の名の通り、クラムシェルボンネット、ルーフ、トランクリッドなどに惜しげもなくカーボンファイバーを多用し、72kgもの軽量化を実現していることだ。またアンダーフロアのディフューザーなど各所に最先端のエアロダイナミクスを投入することで180kgものダウンフォースを獲得し、0→100km/h加速3・4秒、最高速度340km/hというパフォーマンスと、究極のFRスポーツというべき清々しいまでのハンドリングを手に入れているのである。

しかも、その少々獰猛な迫力あるエクステリアとは裏腹に、軽いスワンドアを開けると、上質なレザーをふんだんに使ったハンドメイドのシートと、黒いマーブル模様のような派手なトリムが目に飛び込んでくる。そこからもスーツの裏地にこだわる英国紳士の粋な遊びゴコロが感じられるようだ。

◆「アストン・マーティンDBS」
全長×全幅×全高=4,712×1,968×1,280mm/ホイールベース=2,805mm/車両重量=1,693kg/エンジン種類/排気量=V12DOHC48V+ツインターボ/5,204cc/最高出力=725ps(533kw)/6,500rpm/最大トルク=900Nm(91.8kg-m)/5,000rpm/トランスミッション=8速AT/サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク/ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク/タイヤサイズ(F:R)=265/35ZR21:305/30ZR21/車両本体価格(税込)=39,400,000円
公式ページ https://www.astonmartin.com/ja/

向き合えば圧倒されるベントレーの凄み:BENTLEY

「良いクルマ、速いクルマ、クラス最高のクルマをつくる」という目標を掲げ、ウォルター・オーウェン・ベントレーが1919年に設立。世界屈指のラグジャリーメーカーとして、2030年までにエンド・トゥ・エンドのカーボンニュートラル達成を目指す事業戦略『Beyond100』のもと、積極的に電動化を進めている。

重厚だが、決して重すぎない大きなドアを開けると、柔らかい照明に照らされた、木と革とクロームメッキの世界が浮かび上がる。もちろん12.3インチの高解像度タッチスクリーン、ヘッドアップディスプレイ、360度トップビューカメラなど、内包される装備の数々は最新のものなのだが、その雰囲気は歴史ある古城や大聖堂のように、どこか懐かしく落ち着いた趣きのあるものだ。

「BENTLEY CONTINENTAL GT MULLINER」。新しいコンチネンタルGTマリナーは、「スピード」のパフォーマンス性と「アズール」のコンフォート性を併せ持った、最上級のコンチネンタルGTという位置づけとなる。

自動車がまだ一部の特別な人たちの物であった時代、自動車はメーカーが製造したシャシーの上に、オーナーの意向に 沿って市井のコーチビルダーが製作したワンオフのボディを架装するのが一般的だった。まだ内燃機関を持った自動車が生まれたばかりの頃、「遠くまで壊れないで走る」コンチネンタルなグランドツーリングは、地続きのヨーロッパにおいて高性能や高級を示す何よりの証であり、その役目を司ったのがコンチネンタルGTであった。

そしてこのコンチネンタルGTマリナーに代表されるように、ベントレーのラインナップやオプションリストの中でよく目にするマ
リナー(Mulliner)も、元は16世紀から続く老舗のコーチビルダーであった。マリナーが初めてベントレーと結びついたのは、ベントレーの創業間もない1923年のこと。英国国際モーターショーに出展された2シーターのベントレー3リッター・スピードモデルを手掛けたのが最初だった。その後、1952年にコンチネンタルGTの祖というべきRタイプ・コンチネンタルの製造に携わった彼らは、1959年にベントレーの子会社として吸収合併され、ビスポーク部門として活動を続けることとなる。

そして2020年、ベントレーはマリナーの体制を変更。バカラルやバトゥールのようなワンオフや、フューオフ・モデルを製作する”コーチビルド”と、4・1/2リッター・ブロワーのようなコンティニュエーション・モデルやレストアを手がける”クラシック”、そしてレギュラーのスペシャルモデルを製造する”コレクション”の3つへ再編成を行なった。

コンチネンタルGTマリナーは、まさにこのコレクションの代表格というべきモデルで、それまでミュルザンヌ用に使われていた生産ラインを使い、1台あたり約40万針のステッチが入ったキルティング、ダイヤモンド・ミルド・テクニカル・フィニッシュのセンターコンソールなど、熟練の職人たちによってフルハンドメイドに近い形で仕上げられる。

たしかにレザーのなめし方、質感、丁寧にニスが塗られ深い輝きを見せるウッドパネルなど、使われている素材のクオリティ、量、仕立て方は、他に比類するものがない一級品だ。それはエクステリアも同様で、手作業で丁寧に塗装した後で、子羊の毛で12時間かけて磨きあげたというボディの塗膜は、光が当たると色の奥から様々な表情を見せてくれるアート作品のようでもある。

それこそが戦後から一貫して聖地クルーでクルマ作りを続け、伝統のクラフトマンシップをしっかりと継承し続けてきた老舗ならではの真骨頂といえる。世に数多ある”高級車”の中から、あえてベントレーを選ぶというのは、つまりはそういうことなのだ。

◆「ベントレー ・ コンチネンタルGTマリナー」
全長×全幅×全高=4,880×1,965×1,405mm/ホイールベース=2,850mm/車両重量=2,200kg/エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3,996cc/最高出力=550ps(405kw)/5,750-6,000rpm/最大トルク=770Nm(78.5kg-m)/2,000-4,500rpm/トランスミッション=8速DCT/サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク/ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク/タイヤサイズ(F:R)=275/35ZR22:315/30ZR22/車両本体価格(税込)=37,100,000円
公式ページ https://www.bentleymotors.jp/

ランドローバーが示すモダンラグジャリーの姿:LAND ROVER

ハードユースの限られた人々の乗り物だったランドローバーに、乗用車と同じ快適性を付帯し民主化するという革命をもたらしたレンジローバー。以来その装備、機能を拡充し、高級SUVの代名詞となった彼らもまた他メーカー同様、新しいグローバル戦略「Reimagine」を掲げ、2030年までのフルEV化を目指している。

高いオフロード性能と高い信頼性をもちながらも、乗り手を選ぶ4WD多目的車だったランドローバーに、乗用車並みの快適性と走行性能を備え、「ラグジャリーカー、エステートカー、パフォーマンスカー、クロスカントリーカーの役割を1台で可能とする」クルマとして1970年に登場したレンジローバー。

「LAND ROVER RANGE ROVER」

現代のSUVの偉大なルーツでありながら、当時としては異質のオフロードモデルが、特別なものとして認識されるようになったのは、先日亡くなったエリザベスⅡ世をはじめとするイギリスのロイヤルファミリーがプライベートカーとして歴代モデルを愛用し、王室御用達認証(ロイヤルワラント)を得ていることも大きいだろう。

その最新作である5代目レンジローバーが登場したのは2021年のこと。ジェリー・マクバガンが施したデザインは、彼の代表作のひとつであるディフェンダーと比べると、先代の面影が強く、保守的で抑制的に見えるかもしれないが、実は先代よりホイールベースが長く、ルーフも低くなっている。

そしてボディ全体にフラッシュサーフェイスが徹底され、インパクト重視のエッジも、これみよがしの装飾も見られない。むしろ、そうしたものを意識的に排除している気配さえ伺える。スパンと切り落としたコーダトロンカ風のテールを囲う黒いラインにテールランプを埋め込み、1枚の面として見せるリアスタイルは、まさにそのハイライトというべき部分だ。

それがレンジローバーが示す、モダンラグジャリーの姿だ。華美な線、面、機能を排除し、本当に必要なものだけを贅沢に残すという、引き算の美学こそ、サステナビリティを要求されるようになったラグジャリーの世界に必要なフィロソフィーだということだろう。

その思想はインテリアにも受け継がれ、ステアリングと大型のタッチパネル以外、ゴテゴテとしたパーツがつかず、水平基調で構成されたシンプルなコクピットは、マッチョやタフネスを強調しがちなオフローダーとしては異質な光景にさえ映る。さらにアクティブ・ロードノイズ・キャンセレーション、ナノイーXテクノロジーを用いた空気清浄システムなどを備えた車内は、静粛かつクリーンで、高級サルーンというよりも、大型クルーザーか、プライベートジェットもかくやといった空気感を醸成している。

では新しいレンジローバーが、ナヨナヨした名ばかりのオフローダーかというと、その逆だ。今回の撮影車、オートバイオグラフィP530には、路面の状況に合わせて減衰を制御するエアサスペンションや48V駆動の電制スタビライザー、さらに後輪操舵も追加されるなど、最新技術がふんだんに備わっている。また、本格的オフローダーに必要な最低地上高、アプローチアングル、ランプオーバーアングルなども備えるうえ、最新のインテリジェント4WDシステムを装備し場所、環境を問わず、レンジローバーの名に恥じない高い走破性を誇るのである。

そうした2面性こそが、イギリスらしいアンダーステイトメントな魅力といえるのかもしれない。

◆「ランドローバー・レンジローバー」(オートバイオグラフィー P530)
全長×全幅×全高=5,065×2,005×1,870mm/ホイールベース=2,995mm/車両重量=2,560kg/エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/4,394cc/最高出力=530ps(390 kW)/5,500-6,000rpm/最大トルク=750Nm(76.5kg-m)/1,850-4,600rpm/トランスミッション形式=8速AT/サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン/マルチリンク/ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク/タイヤサイズ(F:R)=285/45R22:285/45R22/車両本体価格(税込)=22,280,000円
公式ページ https://www.landrover.co.jp/index.html

フォト=岡村昌宏 photo : M.Okamura (CROSSOVER) ル・ボラン2023年1月号より転載

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