マクラーレンの本気をアナタは乗りこなせるか――? 限定モデル「765LT」は最もレーシングカーに近い過激な1台

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いまこそ再考すべきマクラーレンの本質「制覇への誘い」

ミッドシップ・スーパースポーツのみで市場に挑むマクラーレン。これまで720S、GTと続けてその本質を紐解いてきたが、今回取り上げる765LTは、それらとは一線を画する特別なモデルだ。その高い完成度はマクラーレンの本気を伝える希少な1台。限定車に相応しい、乗り手を選ぶ一台といえるだろう。

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そのアプローチはもはやレーシングマシン

リアウイングとノーズをわずかに延長することで、720Sに対してダウンフォース量は25%増加。フロントの最低地上高も5mm低い。

マクラーレンにとって”LT”という名称は特別な意味をもつ。もとを辿れば、ゴードン・マレーが手掛けたマクラーレンF1のル・マン参戦車両、F1GTRが空力性能向上の策として用いた”ロングテール”に由来するが、現代のマクラーレンが展開する一連のLTとは、端的にいえば軽量&強化仕様。すなわち、よりスポーツ性に特化したスペシャルモデルであることを示す。

実は、筆者にとっても、このLTの名をもつモデルは特別な存在であり、なかでも600LTを初めて試乗した際のインパクトは相当なものだったことを覚えている。

パワフルというよりも先に軽さが際立ち、鋭いエンジンレスポンスだけでなく、ハンドリングもシャープに仕立て上げられていたため、この上ない刺激に溢れていた。その軽やかな動きは、極端にいえばまるで4気筒モデルにも匹敵し、一方でパワーはレーシングマシン級という、病みつきになる仕上がりであった。

今回の試乗車は透過式グラスルーフを備えるスパイダー。クーペとの重量差を+49kgに抑えているのも特筆するべき点だ。

その経験もあるから、今回取り上げる最新の765LTにはかなり期待していたのは当然のこと。パワーも上回るだけにそれなりの覚悟はしていたのだが、走り出し早々からこう思わせた。「コイツは手強いな……」

これまでLTの名を冠するモデルは、650Sをベースにした675LTと、先にも触れた570Sベースの600LTがあったが、この765LTはそのどちらとも違う。いうなれば尋常ではないほどレベルアップしており、単純にドライビングの楽しさが味わえるような類とは到底思えない。ベースの720S比で80kg軽量化されたその内訳も徹底したもので、フロント&サイドウインドーを薄くしたことにはじまり、チタン製のエキゾーストシステムや軽量スプリング、22kgも軽い鍛造アロイホイール、カーボンシェルのフルバケットシート、わずか0.8mmというカーボン製センタートンネルの採用に加え、インテリアの極小パーツまで軽量化を図ったというから、そのこだわりは相当なものだ。しかも望めば、フロントとリアフェンダー、さらにドアパネルをカーボンにすることも可能。そのアプローチはもはやレーシングマシンと同様といえる。

とはいえ、実際の印象は軽さよりもパワーが先立つ。ミッドに積まれるV8ツインターボは、ベース車両よりも45ps&80Nm上回る765ps&800Nmに強化されているが、なによりもまずスロットルレスポンスの鋭さが驚異的。それに合わせて最適化されたトランスミッションも功を奏し、もはや公道で走ることに罪を感じてしまうほどの加速フィールで魅了する。いや、正確には”サーキットへと誘う”と表現するべきだろうか。さらに分かりやすく一連のマクラーレンを公道対サーキット比で例えるなら、720Sが50:50、マクラーレンGTが80:20なら、この765LTは20:80の割合でサーキット向けのスーパースポーツ。いや、むしろ15:85といっても差し支えないとすら思うほど、その仕上がりは最もレーシングマシンに近いロードカーとなる。

アルカンターラやカーボンを多用するほか、あらゆる箇所で軽量化が図られたコクピット。標準ではオーディオは未装着扱いとなる。

だから正直にいうと、公道では手に余る。とてもこのパフォーマンスを余すことなく引き出すことなど不可能。しかし、時折垣間見られる765LTの素性から判断すると、とにかく奥の深い”攻め甲斐のある挙動”を見せるのは事実で、特にハンドリングはまさにサーキット向けのセッティング。電動油圧式というパワーアシストは同じだが、ステアリングのギア比を高速化すると同時にトーションバーも硬いものへと変更。マクラーレン独自の油圧式プロアクティブ・シャシーをもつサスペンションもソフトとハードの両方がアップデートされたことに加え、フロント側のトレッドもワイド化されているため、ベース車両を思わせない、ほぼ別物といえるほどの違いを実感する。

F1テクノロジーをフィードバック、一体型のキャリパー冷却を実現したカーボンセラミックブレーキ。ピレリPゼロ・トロフェオRを履く。

ブレーキ性能も同様。マクラーレン・セナ譲りのカーボンセラミックと、リアスポイラーを兼ねたエアブレーキによる、その制動力とフィーリングは他に例えようがないほど凄まじく、レスポンスに優れたV8ターボとの相乗効果により、自ずとメリハリの効いた走りへと促す。同時に、フロアカーペットをもたないこともあり室内はエンジン音で満たされるが、これがさらなる高揚感を生み、走り慣れてくると次にこう思わせる。「飼い慣らしてみたい……」

そう、”所有する”というよりも”飼う”という感覚だ。忙しい合間を縫ってサーキットに足繫く通い、ラップタイムの短縮に集中したいと本気で思うようになるモデルだろう。単に高級グレードが欲しい、他と差をつけたいという生半可な気持ちで接するとしっぺ返しを食らうどころか、すぐに手放したくなるはず。まさに玄人受けするマクラーレンが、この765LTの本質だ。たとえオープントップのスパイダーであっても難なくサーキットを攻められることも、最後につけ加えておきたい紛れもない事実である。

【Specification】マクラーレン765LT
■全長×全幅×全高=4600×1930×1193mm
■ホイールベース=2670mm
■車両重量=1388kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC+ターボ/3994cc
■最高出力=765ps(563kW)/7500rpm
■最大トルク=800Nm(81.6kg-m)/5500rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/35ZR19:305/30ZR20
■車両本体価格(税込)=49,500,000円
■問い合わせ先=マクラーレン東京☎03-6438-1963 マクラーレン麻布☎03-3446-0555 マクラーレン名古屋☎052-528-5855 マクラーレン大阪☎06-6121-8821 マクラーレン福岡☎092-611-8899

マクラーレン765LT公式サイト

フォト=小林邦寿/K.Kobayashi ルボラン2022年10月号より転載

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

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野口優
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2022/09/14 08:00

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