“貴方は本当に我々の『GT』を理解できますか?” マクラーレンGTはミッドシップスーパーカーの伝統を打ち破る、大人のためのグランドツーリングカーだった

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年々数を増して激化するスーパースポーツカー市場。そのほとんどがミッドシップレイアウトを採るなか、ひと際、異色を放っているのがマクラーレンGTである。従来の定義を見直してまで造り上げたその狙いとは何か。試乗を通じて、あらためて考えてみたい。

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優雅という回答

マクラーレンにとってGTというモデルは、ある意味でスーパースポーツカー界に対する挑戦だったに違いない。そもそも英国を起源とするGTは、2+2のクーペスタイルに強力なエンジンをフロントに積み、優雅にロングドライブを楽しむグランドツーリングカーのことを示すが、マクラーレンのGTはミッドシップレイアウトを採る2シーター。ゆえに、他にラインナップされる720Sや最新のアルトゥーラなどと同様のスーパースポーツモデルと受け取られてしまっても仕方がない。しかし、マクラーレンは英国の伝統を打ち破るべく、自らの信念のもとにGTを再定義した。

グランドツーリングカーと呼ぶに相応しい上質な仕立てのキャビンスペース。5つ星ホテルのエントランスにも乗り付けられる品の良さがある。

そのキーワードとなるのが”ラグジュアリー”だ。通常、ミッドシップといえば、緊張感を伴うスリリングな一面を持ち、高度なドライビングスキルを要求する”対峙”が醍醐味となるが、マクラーレンGTは日常での”対話”を楽しむことを基本とする唯一無二のミッドシップモデルだ。ドアにはオートクロージャーを装備し、”スッ”と引き込むように閉じ、インテリアもタキシード姿が似合うほど上質な仕上がりであり、上品な振る舞いまでを促す。

ミッドに積まれる4L V型8気筒ツインターボエンジンは、720Sと基本は同一。しかし、リアにラゲッジスペースを設けるために吸排気システムを見直し、サージタンクの高さも抑えることでエンジン上部に容量420Lのスペースを確保。キャディバッグのみならず、185cm程度のスキー板といった長尺物まで積めるようにした。フロントにも150Lの収納スペースが設けられているから、いかに実用性にこだわっているかが伺えるだろう。しかも、シートはサポート性に優れたバケットタイプを採用しているものの、他モデルとは違いロングドライブを考慮してクッションを厚めに設定するなど、従来のGTと同じように使えることを証明してみせた。

すなわち、マクラーレンがここでアピールしているのは、「どうせ快適ではないリアシートなら不要。ならばミッドシップでいいじゃないか!」という潔さである。と同時に「貴方は本当に我々のGTを理解できますか?」という問いも投げかけてくる。それがエンジンとシャシーまわりで見せる巧みなセッティングだ。

路面の状況を先読みして常に快適性を維持するため、乗り味は常にフラット。ミッドシップモデルとしては振動も見事に抑えられている。

まず、低速域での扱いやすさはミッドシップ史上トップクラスの出来。特に街中で多用する微速域での変速は見事で、極力低回転域を維持しつつ、振動を抑えることにも成功している。

これは主に低慣性のターボチャージャーを使用した効果によるものだが、柔軟に対応できるようトルク重視型としたのはGTの本質を示している証。しかも、ノーマルモードでは野蛮にアクセルを踏ませないような効能も併せ持ち、終始ジェントルに徹するよう自然と促されてしまう。かといって遅いというわけでなく、踏ませないという心理的な部分を突いてくる印象だ。

足まわりのセッティングもGTの名に相応しい。応用数学研究によって開発されたソフトウェアの採用により常に路面状況を先読みし、約2ミリ秒という早さで対応するため、車両を常時フラットに保つだけでなく、快適な乗り心地を終始キープし続ける。カーボンモノコックに前後ダブルウイッシュボーンというボディとシャシーの構成は他のマクラーレンと同じながら、わずかな路面のアンジュレーションをも見逃すことなくいなしてみせるのは、このGTのみ。ロングホイールベースと相まって、長距離ドライブへと誘う。

フォト=小林邦寿/K.Kobayashi ルボラン2022年9月号より転載

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野口優
AUTHOR
2022/08/08 12:00

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