【ヤングタイマー試乗】フィアットX1/9はイタリアの神ミッドシップマシン!

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フィアットがちょうど50年前となる1972年にデビューさせた小型ミッドシップスポーツカー、X1/9。開発コードをそのまま車名に採用したこのモデルに対し、果たして皆さんは、どんなイメージをお持ちだろうか? 左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない筆者の偽らざるイメージは、超絶カッコイイけど……超絶壊れる、というものだった。

周囲で所有していた、あるいは噂で聞いたX1/9はトラブルが多く、そのせいか素晴らしい個体に出会う機会がなく、この仕事を初めて四半世紀になるが、今の今まで取材(試乗)する機会に恵まれなかったのだ。

ガンディーニがデザインした永遠の名作

話を続ける前に、簡単にモデルプロフィールを振り返っておこう。

1969年のコンセントモデル『ラナバウト・バルケッタ』に端を発する、ベルトーネ在籍時代のマルチェロ・ガンディーニがデザインしたスタイルは、同時期に登場したランボルギーニ・カウンタックやランチア・ストラトスと並ぶ、永遠の名作と呼んで差し支えないだろう。

当時X1/9が画期的だったのは、量産メーカーであるフィアットが量産車のコンポーネンツを活かして作ったことで、後にトヨタMR2というフォロワーを生んだことはよくご存知かと思う。

デビュー時は128スポルト・クーペと同じ1290㏄の直4SOHC(75HP)を搭載し、1978年末、リトモ用の1498㏄(85HP、北米&日本仕様は66HP)へ変更、トランスミッションも5速化された。北米仕様を中心にインジェクションも存在する。1982年にはベルトーネ・ブランドとなり、1989年まで生産された。

ワンオーナーのノンレスア&ノン鈑金という奇跡の1台

取材車は1982年式で、フィアット・ブランドのキャブレターモデル。日本へは東邦モータースが輸入した車両で、いかにもキレイでとにかく見た目がシャキっとしているので、フルレストアを受けたのかと思いきや、何と走行距離わずか1万3200km、ワンオーナーのノンレストア&ノン鈑金という奇跡の1台だった。

取材の経緯としては、筆者がよく取材などで出入りをしている横浜のイタフラ専門店『エスパート』に入庫しているのを見かけ、こんなコンディションのいいX1/9には二度と出会えないと思い、取材を申し込んだのが約2年前。

新車で購入した最初のオーナーは車庫保管で、しかも長く乗らない時は足まわりのヘタリを抑えるためタイヤを外してウマに載せていたほどだった。そのため当初は最低限の整備で済ませる予定だったが、エスパートの鶴岡省一郎さんは元エンジニアで、これだけの個体を見て、「次の方にはとっておくのではなく乗ってもらいたい」と思いエンジニア魂に火がついたのか、手を付け始めたらいろいろと気になってきて、他の作業と同時進行していたら約2年かかってしまったそうだ。

内外装は元々キレイなので特に手を付けず、例えば燃料タンク内の錆を落として樹脂のコーティングをしたり、今の暑さに耐えられるようにラジエーターのファンをシングルからツインに変更したりと、乗るための整備をしっかり行った。実はベルトーネ・ブランド時代に新車を販売&整備した経験もあり、「昔お世話になったクルマなのでちゃんとした形で遺してあげたい」という思いもあったそう。「これは新車の時よりコンディションがいいかもしれません」と笑顔を浮かべる。

ちなみに当時扱っていた新車はヘッドライトを開けたら水が溜まって金魚鉢みたいになっていたり、登録で陸自に行く途中に止まったり、エピソードには事欠かなかった様子。しかも車両の価格が高くないので、購入するユーザーも整備にそれほどお金をかけないため、コンディションのよくない中古車が多々流通したのではないか、というのが鶴岡さんの見立てだ。しかし整備性は悪くなく、北米でも販売していたのでパーツも意外とあるそう。

乗り出すまでの話が長くなってきたが、最後のもうひとつだけ。撮影でジャッキアップしてリアの下回りを見た時、思わず私は「ダブルウィッシュボーンでしたっけ?」と聞いてしまった。ご存知のようにX1/9は前後マクファーソンストラットで、(事前に資料も見ていたのに)長いアームを見て咄嗟に口走ってしまったのだ。鶴岡さんも「ジャッキアップしてここまで伸びるクルマってないですよね。サスペンションの伸び側をしっかりと確保しているということです」。

反時計回転するレブカウンターで気分が高まる

編集部A君に任せた撮影も大まか終えて、いよいよ試乗の時間がやってきた。天気もよかったのでルーフは外してフロントのラゲッジスペースに入れてもらった。コックピットに滑り込むと、このサイズだからタイトではあるが、ルーフレスであることもあり狭さは感じない。エンジンをかけると1500ccから採用されたという反時計回転するレブカウンターが目に入ってきて、気分が高まる。

1980年代のヤングタイマーカー、特にイタリア車はこの時代から多用されたプラスチックの耐久性の問題で室内があまりシャキッとしていなことが多いのだが、このX1/9はその状態もよく、しかもラジカセもちゃんと作動するというから驚きだ。生憎カセットは持っていなかったが、せっかくなのでFMラジオをかけながら走り始めた。

腕が伸ばし気味となるザ・イタリアンポジションがいかにもイタリア車のX1/9は、車重980kg&排気量1500ccという数字からも想像できるように、トルクがあっていかにも走りやすいというのが第一印象だ。

セッティングがいいのだろう、アクセルのツキも含めてキャブレターの気難しさはゼロで、言われなかったらインジェクションと思うかもしれない。上までちゃんと回る楽しくていいエンジンであるのは間違いないが、アルファロメオやマセラティほど官能的ではなく、いかにも丈夫そうで安心感を覚えたのは、量産車ブランドであるフィアットに今も昔も共通する”らしい”部分と言えよう。

こんな奇跡があっていいのか!

少しカーブが多いセクションでは、ミッドシップらしく後ろにちゃんと荷重がかかっていて、例のストロークの長いリアサスペンションがイメージさせるとおり、リアの懐が深く、余裕を感じることができた。ちゃんと整備された個体自体の素晴らしさと、元々X1/9が持つポテンシャルが合わさり、これが本来のX1/9か! と膝を打つこと多数。ガンディーニのスタイルも天才なら、このパッケージも天才! と思わず叫びたくなった(助手席にA君がいたので自粛)。こんなフルオリジナルコンディションのX1/9に乗ることができるなんて、こんな奇跡があっていいのか! とも。

試乗後、X1/9を知り尽くしている鶴岡さんがドライブする横にも乗せて頂きつつ、その印象も伺った。

「ゼロカウンターでドリフトができる、ミッドシップのお手本のようなクルマです。回頭性が素晴らしいですよね。滑り出しがよくわかりますし、そこから一気に(滑って)いかないんです。少しカウンターをあてて、アクセルを踏むだけ。飛ばす努力がいらないクルマなんです。ジオメトリーの変わり方など、よく考えて作ってますよね。ミッドシップをここまで仕上げたのって、X1/9だけじゃないかと思うんです。プアマンズ・フェラーリなんて言いますけど、下りなら328に負けないと思いますよ(笑)」

日本人のメンタリティにあう

下りなら負けない……。何と浪漫に溢れた言葉か。ロータス・ヨーロッパで並みいる敵に挑んだ漫画『サーキットの狼』の主人公、風吹裕矢が人気を博したように、実に日本人のメンタリティにあう話だ。あと、最後にもうひとつだけ書いておきたいことがある。それはこれも鶴岡さんが教えてくれたことだ。

「このクルマ、ウェッジシェイプって言いますけど、ひとつもただの直線がないんですよ」

……はっとした。X1/9を超絶カッコイイと思ったのは、これもイタリアらしく、流麗なフォルムを兼ね備えていたからだった。

クルマの存在、この個体の存在、それに乗れたこと、何から何まで奇跡の連続だった。今結論として、フィアットX1/9を神ミッドシップマシンと書くことを私は躊躇しない。

取材協力=エスパート

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平井大介
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