近代イタリア車の原初!偉大なるベーシックカー初代フィアット・パンダに乗る

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こちらの1984年式フィアット・パンダ45は、北九州のスペシャルショップ、イデオートサービスが所有する車両(取材時)。まだ7〜8割という仕上げ途中だったが、ご縁あって取材、試乗させて頂くことになった。イタリア車の左ハンドルマニュアルしか買ったことのない筆者が、初乗りとなる45の車内で感じたこととは。

初代パンダで近代イタリア車の原初を知る

取材車は1984年式のフィアット・パンダ45。2気筒じゃないのに2気筒っぽいビート感がある。

「ああ、ないかもしれんね――」

オヤジは北九州のイントネーションでそう答えた。助手席に乗り込んで天井の内張りがないのに気がつき、それを指摘したことに対する返事だ。イタリア人と接したことがある人ならわかるかもしれない。A型的日本人が気にする細かいところを、O型的イタリア人は全く気にしないことを。そればかりか”キミはなぜそんなことを気にするんだい、それよりも目の前のことを楽しもうじゃないか”と顔に書いてあることを。もちろんオヤジは日本人だが、そのマイペースな感じはどこかイタリア人っぽい。

オヤジ=イデオートサービスの井手一英さん、助手席=1984年式フィアット・パンダ45。まだまだ暑い8月のお盆明け、私は北九州にいた。取材時は折しもパンダ40周年を迎えた2020年、初期モデルである126由来の空冷2気筒OHVを積むパンダ30か127由来の水冷4気筒OHVを積むパンダ45に乗りたくて、井手さんがSNSに45の写真をアップしていたのを見て速攻オファー。ふたつ返事で今回の取材がまとまったからだ。

実はこの個体は売り物にする前で、別の個体からパーツも取りつつ仕上げたそうだが、まだ7〜8割程度で、買い手の要望に合わせて仕上げるとのこと。だから例えばリアだけ新品でバンパーの色が違うなど、A型的視点で見ると気になるところがいくつかあったが(蛇足ながら筆者はA型である)、そのあたりは気にする段階ではないということだ。

助手席のまま店を出発。さすがに暑いので、オヤジはリビルトしたというエアコンをオンにしてくれた。オンにしている時は何となく涼しいのでないよりはマシだが、交差点ではストゥールしてしまうのでオフに。途中からそのオンオフの作業は私の担当となり、オヤジは「ナビゲーターやね」と笑う。ちなみにエアコンは対策方法を見つけたが、この日のは間に合わなかったそうだ。

しかし(エアコンオフ時の)加速が想像以上にトルク感があって驚いた。スペック表上では車重が680kgしかないから、45psとはいえ当然かもしれない。いやはやこれは運転席でもきっと楽しいぞと直感した。事実、横のオヤジは何だか楽しそうだ。「やっぱりロッドはいいね」と途中からワイヤー式に変わる前の45のシフトを褒めながら、目的地である門司赤煉瓦プレイスに鼻先を向ける。途中小高い丘を越える登り坂もあったが、そこも文字どおり元気に駆け上がり、45psが充分なスペックであることはすぐにわかった。

置き撮りを終え、今度は運転席に乗り込む。まずは赤煉瓦周辺をゆっくりと走りその様子を撮影。その後オヤジを助手席に乗せて走り出した。第一印象は

「軽い!!!!!!!!」

である。”!”の数はイメージだが、実際に声に出していたと思う。少し踏み込むと結構力があり、2気筒じゃないのに2気筒っぽいビート感もあって頬が緩んだ。この感覚は数ヵ月前に乗ったヌォーバ500ジャルディエラの印象に近いものがあり、気筒数も空冷水冷の違いもあるのに、不思議とその延長線上にあるようだ。

シフトとドライバーの距離感が絶妙で、機関も調子よく、クルマが軽いから軽快に走る走る。オヤジに頼んでエアコンはオフで走らせてもらい、窓を全開にして横の視界に広がる海からの風を受けたら、北九州まで来てよかった! と取材ではあるが、すっかり夏休み気分である。

「楽しい!!!!!!!!」

声を出したかは覚えていないが、”!”の数はその時の気持ちのイメージにあっている。そして元フィアット・ウーノ・ターボやランチア・デルタ16Vのオーナーである筆者は、パンダ45にその原点を見た気がした。

1970年代のヒストリックから1980年代の大量生産ヤングタイマーへと切り替わる時代に生まれた偉大なるベーシックカー。装備や技術はその時代に合わせて進化していくけれど、そういった楽しさは変わらない、まさに近代イタリア車の原初。北九州の”イタリアン”オヤジの横で、ニヤニヤとそんなことを考えていた。

 

エンジンが小さいのがよくわかる光景。スペアタイヤはミシュランMXで、サイズは135R13。

フォト=神村 聖 S.Kamimura カー・マガジン507号より転載

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