そのまま乗って帰りたい!初代6シリーズは美しさと実用性を兼ね備えた理想的なクーペだった

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クーペには美しさが欠かせない。そして実用性も兼ね備えていてほしい。そんなふうに考えると、BMWの歴代4座クーペは理想的な存在のように思える。ヤングタイマーは個性的であったり、味わい深いだけではなくて、少しやせ我慢をすれば日常の足となるクルマであってほしいのだけれど、E24 BMW635CSiは、そのまま乗って帰りたくなるほど魅力が鮮やかだった。

受け継ぎゆくもの、積み重ねたこだわり

上の写真をじっくりご覧になっていただければ、コンディションの素晴らしさをわかってもらえるのではないかと思う。モデル最終年となるBMW635CSi、正規ディーラー車。とはいえ30年以上前のクルマである。そここに年月を感じさせる跡を探せるだろうと思ったら、ダッシュボードやトリムにはヤレが見られず、バッファローレザーのシートは使用感を漂わせるものの革に張りがある。艶やかなダイヤモンドブラックのボディペイントの上に、2色のサイドストライプがくっきりと貫くのを目にしたときにも程度の良さに息をのんだが、内外にわたってこれほどオリジナルの状態を爽やかに保った635CSiには、そうそう出逢えるものではない。3万8000kmあまりを刻んだ積算計の数字だって、これなら納得がいく。

87年に一部改良を実施した最終型は、”アイアンバンパー”からより分厚いラバーモールを配した前後バンパーに変更。高性能モデルに位置づけられる635CSiはトランクスポイラーを標準装備するほか、カラーと幅が異なる2本のサイドストライプがあしらわれる。写真では分かりにくいが、前後ともオーバーフェンダー仕様で別体パネルが被せてある。

ここに紹介するBMW635CSiは、E24というモデルコードで呼ばれる”初代”6シリーズだ。76年3月9日にデビューし、89年に生産を終えた。実質的な後継モデルの8シリーズが99年にフェードアウトすると、6シリーズの血筋は一端途絶えるが、2003年にE63/E64が2代目として再びその名を冠した。

そして2011年発表の現行モデルが第3世代となるのだけれど、BMWラグジュアリークーペの血筋はE24が起点になっているわけではない。戦前には高性能かつエレガントなフォルムで魅了した327があったし、戦後も503を経て、ベルトーネが手がけた流麗なボディを架装した3200CS(62年)、アバンギャルドなフロントマスクが目を引いた2000CS(65年)と、歴史に残るモデルが続いた。そして2800CS(68年)、3.0CS(71年)の後を受けて登場したのが、このE24 6シリーズなのである。3や5に続いてより区別がつきやすいネーミングを掲げたわけだが、そんな変遷を俯瞰していると、2000CS~3.0CSまでのデザインテーマに一本筋が通っていて、E24もそれに倣っていることがすぐにわかる。

6のほか、3、5、7の4つのシリーズの初代は、いずれも70年から74年までBMWに在籍したポール・ブラックがデザインしたが、ノーズもテールエンドもすらりと伸びやか。そして後席の居住性を考慮したゆとりあるキャビンと広いグラスエリア、この時期のほかのBMWにもあてはまるCピラーの造形、そして逆スラントノーズ……。それらは2000CSの時点で(すでに3200CSで、と言えなくもないが)、身にまとっていたものだ。E24は一新されたとはいえ、この文法に則り、正しくBMWクーペのDNAを継承し、発展させたモデルとして世に出たのである。

血脈を感じさせるのはエクステリアデザインだけではない。じつは足まわりとエンジンというふたつの重要なメカニズムについても、基本的には前モデルから譲り受けている。サスペンションは、61年に世に出た”ノイエクラッセ”のために開発され、以降世界中の自動車メーカーに計り知れない影響を与えたレイアウト。つまり、フロント:マクファーソンストラット+ロワーウィッシュボーン、リア:セミトレーリングアームの全輪独立懸架。そしてエンジンは新開発されたものの、先代にあたる3.0CSに搭載されていた”ビッグシックス(M90)”のブロックを用いたM30直列6気筒SOHC。こんなふうにE24は、熟成を重ねてきたものを柱に据えながら、新たな魅力を提示したのである。

このような成り立ちを持つ初代6シリーズが、発売当初から高い完成度を湛えていたことは想像に難くないが、それが14年近くにわたって生産されたということにも驚かされる。そういえば、高性能かつプレステージ性の高い4シーターというカテゴリーのなかで、当時のライバルといえば、メルセデスSLC(C107)やポルシェ928といったところだけれど、どちらも息の長いモデルである。SLCが71~81年、928は77~95年(!)。台所事情もあったのだろうが、いち早く新しい道を切り拓き、それだけでは満足せずに、じっくりと磨きあげてゆく。そういったクルマづくりに対する真摯な姿勢は、3モデルに共通するものなのだと思う。

たゆまぬ変遷、変わらぬ魅力

最終型の635CSiに搭載されるのは3430ccの排気量を与えられたM30B35ユニット。DMEⅢが組み合わされ、日本仕様は211ps、31.1kg-mを発揮する。前後長のあるストレートシックスを難なく収めるエンジンルームには比較的ゆとりがある。ちなみに78年に登場した635CSiは、3453ccのM90ユニット(218HP)を積む別物だ。

さて、この長い初代6シリーズの変遷を、ポイントを押さえつつ振り返ってみることにしよう。まず大きくわけると、81年モデルまでの第1世代と、82~89年の第2世代に区分することができるが、さらに87年にも大きな改良が加えられている。

76年のデビュー時に用意されたのは、630CS(2985cc、キャブ仕様、185HP)と633CS(i 3210cc、Lジェトロニック、200HP)の2グレードで、ギアボックスは4速M/Tと3速A/Tが用意された。633CSi M/Tモデルのメーカー公称性能は、0-400m加速 15.8秒、0-1000m加速29.0秒、0-100km/h加速8.5秒、最高速215km/hとなかなかの俊足。日本市場へは、77年から633CSiA(AはA/Tを表す)が正規輸入されている。

さらなる高性能モデルの635CSiが登場するのは78年のことだが、じつはこのモデルは新しいM30系エンジンではなく、以前のM90の排気量を拡大し、218HPを発揮するパワーユニットを搭載していた。当初からレーシングユースを想定しておりETCなどで活躍する競技車両のベースとなる。その流れをたどれば83年デビューのM635C Si、そしてM6へとDNAが受け継がれている。

なんだかややこしい話だが、この記事で紹介している635CSiは、85年に633CSiと切り替わるかたちで登場したM30系の3.5リッター・エンジンを採用したモデル。尖ったモデルというよりは、よりゆとりを感じさせるフラッグシップという位置づけになる。

話を時系列に戻そう。79年に628CSiが630CSに取って代わり、80年にサスペンションに小改良が施されたあと、82年にマイナーチェンジが行われ、ここで6シリーズは第2世代へと進化する。外観上の識別点はリアバンパーで、フロントと同じようにフェンダーアーチまで回り込む形状になり、これは”アイアンバンパー”と呼ばれる。一方、メカニズムではダブルジョイント・ロアアームを用いたE28 5シリーズのフロントサスペンションが与えられたことがトピック。さらにM30ユニットはエンジン制御にDMEが採用されている。

その後、前述のようなモデルの入れ替わりがあったが、シリーズ全体としてさらなる進化を遂げたのは87年のこととなる。いわゆる最終モデルで、89年式の取材車両もこれにあたる。外観を眺めてすぐにわかるには、バンパーの違い。アイアンバンパーとは異なり、ボディ同色にペイントされぶ厚いラバーモールがあしらわれる。もちろん形状も異なり、スポイラーのデザインも一新された。このほかエンジンはDMEⅢを採用し、635CSiはキャタライザー装着車で211ps(日本仕様もこれにあたる)、未装着車は218psを発揮する。

こうして少しずつ改良を積み重ね、熟成されたファイナルエディションのBMW635CSiを、みなさんに目にしていただいているわけである。わずかにステアリングを握る機会があったが、内外装の程度同様、その走りにも澱みがなく爽快そのもの。低回転域からスムーズで、3000r.p.m.あたりから力強さを増すストレートシックスの洗練されたレブフィール、そして心地よい乗り味を堪能していたら、うっかりこのクルマの年式を忘れてしまいそうだ。「気負いなく生活をともにできるかも……」なんて、本気で思ってしまいそうなほど、635CSiはスッと心に寄り添ってきた。長い年月をかけて身につけた完成度とグッドコンディション。きっとこのふたつがとけ合っていたから、そんな幸せなひとときを過ごせたのに違いない。

<SPECIFICATION>
1989 BMW 635CSi

  • ●全長×全幅×全高:4815×1740×1365mm
  • ●トレッド(F/R):1430/1450mm
  • ●ホイールベース:2630mm
  • ●車両重量:1580kg
  • ●エンジン形式:水冷直列6気筒SOHC
  • ●総排気量:3430cc
  • ●ボア×ストローク:92.0×86.0mm
  • ●最高出力:210ps/5700r.p.m.
  • ●最大トルク:31.1kg-m/4000r.p.m.
  • ●変速機:4速A/T
  • ●懸架装置(F/R):ストラット/セミトレーリングアーム
  • ●制動装置(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
  • ●タイヤ(F&R):240/45VR415
  • ●新車当時価格:968万円
フォト=澤田和久 K.Sawada カー・マガジン456号より転載

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