ミッドシップならではの運動性能と快適性を高次元で両立したイイとこ取りのスーパースポーツ!「マクラーレンGT」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

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ミッドシップ スポーツやGTを乗り継いできたベテランの琴線に触れるモデル

後発ながらも着実な成果をあげてきたマクラーレン。間もなく日本に上陸する予定のハイブリッドモデルのアルトゥーラを除けば、2009年の設立以来すべてのモデルがカーボンモノコック+V8ツインターボという組み合わせ一択で貫いてきた(こう記してしまうと誤解を招きそうだが、同じような展開としてはポルシェ911シリーズに近いと言っていいだろう)。しかも様々な車種展開で推し進め、この基本セットでベーシックモデルから究極系のアルティメットシリーズまでリリースし、その設定もクーペやスパイダーのほかに、ライトウエイトモデルやサーキット専用車まで用意するなど、見事なまでラインアップは豊富だ。

全長4685mmのボディはスポーツシリーズやスーパーシリーズより長く、グランドツアラーらしいエレガントなフォルムが与えられた。

その中でも特に個性が際立っているのが「マクラーレン GT」である。このド直球のネーミングからも察することができるように、これはマクラーレン流のグランドツアラーを示すもので、即ちGTを独自に解釈しているのが最大の特長だ。従来、GTといえばアストンマーティンやベントレーの名が真っ先に思い浮かぶように、英国車の本流とも言うべきもの。それらイギリスの伝統を正当に受け継いできたモデルに対し、マクラーレンは完全に一石を投じたことになる。

スーパースポーツらしいシャープな印象のリアビュー。伸びやかなシルエットは、他のマクラーレンモデルと共通する部分である。

もっともGTの定義が明確に決められているわけでもないから何とも判断しにくいが、明らかなに違うのは、2シーターのミッドシップであるということ。これまでならクーペスタイルの2+2に強力なエンジンをフロントに搭載し、リアで駆動するというのが常識だったから、このマクラーレンGTがデビューした際、筆者は驚くと同時に戸惑いを感じてならなかった。

GTらしく、シートには専用の電動式ヒーター付を採用。表皮は標準がナッパレザーで、ソフトグレインレザーかアルカンターラにアップグレードが可能だ。ダッシュセンターには縦型の12.3インチTFTモニターが備わる。シフトはセンターコンソール上のスイッチによって行うタイプで、Bowers & Wilkinsのオーディオシステムも用意される。

しかし、実際に乗ってみると“なるほど”と納得させられる部分が多い。まず、マクラーレンを象徴するディヘドラルドアから“GT”と感じるはずだ。何しろ、エレガントに徹するべくオートクロージャーを備え、ドアは“スッ”と静かに閉まるからたまらない。インテリアにしても上質に仕立てられ、ナッパレザーの質感や雰囲気はファッション分野からインスピレーションを受けたということもあって、他のマクラーレン車とは一線を画するほどラグジュアリーだ。

マクラーレンの特徴のひとつであるディヘドラルドアは、オートグロージャーを装備。

ドライバーの背後に置かれる4L V型8気筒ツインターボエンジンを始動させてもジェントルに徹する。排気音は思いのほか抑えられ、むやみやたらに爆音を発するような野蛮な演出を避けていて実に好ましい。それに加え、外部からの騒音も気にならないくらい遮音性が高いのも特筆すべき点だろう。元々、マクラーレンはカーボンモノコックのネガティブな部分、つまりカーボン特有の振動や共鳴音などを抑えるのが得意なブランドだが、GTはそれよりもさらに上のレベルに達しているから相当なこだわりようだ。

リアゲートを開けると出現するラゲッジスペースには、スキーのような長尺物や、ゴルフバッグも収納が可能。前のトランクと合わせて570Lの容量が確保されている。最高出力620ps、最大トルク630Nmを発生する4L V型8気筒ツインターボユニットの姿は、残念ながら見ることはできない。。

こうした雰囲気をもっていてもマクラーレンだから走りは過激だろうと思われがちだが、それも良い意味で裏切られてしまう。最高出力620ps、最大トルク630Nmを誇るものの、同じ4L V8ツインターボエンジンを積む720S(720ps&770Nm)よりも抑えると同時にトルクを重視したセッティングにすることで低回転域から扱いやすい仕上がりになっている。アクセルのツキなど、ノーマルモードでは本当にミッドシップ車なのかと疑いたくなるほどマナーが良く、上品な振る舞いをドライバーに促す。

だから例え高速巡航が続くようなシーンでも従来のスーパースポーツカーのような急かされる印象は皆無に近い。しかもマクラーレンのお家芸とも言える空力設計が優れているおかげで直進安定性は抜群、同時に風切り音も抑えられているなど、優雅なドライビングを満喫できるよう仕上げられているから文句もつけようがない。

走行モードは「コンフォート」「スポーツ」「トラック」の3種類が用意。サーキット走行を想定した「トラック」モードでも乗り心地は意外にも快適だ。

さらに驚くのは、スポーツモードやサーキット走行などに適したトラックモード時。本来なら硬い足まわりになるところ、マクラーレン GTはこのモードでも快適性を失わないのだ。720S比で、ホイールベースで5mm、リアのトレッドは34mm拡大している効果も相まって余裕すら感じさせる。とはいえ、遅くはない。いや、感心するくらい高いパフォーマンスを見せるが、それを敢えて全開にさせないような味付けとでも言おうか、ある意味、特殊な効能を持ち合わせている。

ハンドリングに関しても同様、他のマクラーレンと比べてもゲインは抑えられ、極端にクイックな印象を与えない。ワインディングを攻めてみても、スポーツモードやトラックモードではパワーフィールこそ向上するものの、不思議なくらい高揚感は抑えられ、常に冷静なドライビングを可能とさせる。トラクション性能を意図的に控えているのも明白。飛ばしていても流している感覚に近いと言えるだろう。

こうした印象を与えるもうひとつの理由はブレーキシステムにある。これだけのパフォーマンスがあるなら当然のようにセラミックディスクが標準で装着されるはずだが、マクラーレンはこのGTに限って敢えてスチールディスクを採用した。無論、これでも十分な制動力を確保しているからご安心頂きたいのだが、マクラーレンが重要視したのはブレーキフィールやタッチの感触で、スタートからストップまで、すべてにおいてジェントルに仕立てたかったようだ。その狙いと効果は見事という他ない。

15本スポークのホイールには前225/35ZR20、後295/30ZR21サイズのピレリPゼロが組み合わされる。電子制御サスペンションは、センサーで路面状況を読みとり、状況に応じて特性を変更することが可能だ。

その他、リアハッチ下に185cmのスキー板やゴルフバッグが搭載できるように設計するなど、ラゲッジスペースにも異様なこだわりを見せているのも特長だろう。フロントエンジン+リア駆動の2+2モデルに引けを取ることがないよう、機能性や装備類まで執着しているところも実にユニークでマクラーレンらしい。

12.3インチのディスプレイにはナビゲーションのほか、オーディオ&メディアやエアコン、電話やアンビエントライトなどの様々な機能を操作することができる。

思えば、これまでのGTカーも進化を重ねることで高次元のパフォーマンスを兼ね備えるようになった。一方、運動性能にこだわるミッドシップ スポーツは、そのどれもが今や快適性まで求められるようになっている。ということは、今回取り上げたマクラーレンGTは、双方の“いいとこ取り”のようにも思えるから面白い。

サンルーフは遮光の度合いを調整できるタイプが用意。

「今までアストンマーティンやベントレーに乗って、次はスポーツカーに行きたいけど乗り心地は重視したい」と思う人や「ミッドシップの運動性能はそのままにして、高い快適性も求めたい」といった向きには最適な1台となるはずだ。そしてさらに重ねるなら、ミッドシップ スポーツやGTを乗り継いできたベテランにしか味わえない、独自の世界観をもった玄人ウケするモデルとも解釈できる。まさに商品企画の勝利! 本当の意味で唯一無二の存在である。

【Specification】マクラーレンGT
■車両本体価格(税込)=26,950,000円
■全長×全幅×全高=4685×1925×1215mm
■ホイールベース=2675mm
■車両重量=1530kg
■エンジン種類=V8DOHC32V+ツインターボ
■内径×行径=83.0×92.0mm
■総排気量=3994cc
■最高出力=620ps(456kW)/7500rpm
■最大トルク=630Nm(64.2kg-m)/5500rpm
■燃料タンク容量=75L(プレミアム)
■トランスミッショッン形式=7速DCT
■サスペンション形式=(前)Wウイッシュボーン/コイル、(後)Wウイッシュボーン/コイル
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前225/35ZR20(8.0J)、後295/30ZR21(10.5J)
公式サイト https://cars.mclaren.com/jp-ja/new-mclaren-gt

フォト=望月浩彦/H.Mochizuki

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

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野口優
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2021/11/30 09:00

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