ニュルでデビューを飾るはずだった「新M4 GT3」。が、しかし……【池ノ内ミドリのジャーマン日記】

テクニカルトラブルに見舞われクラッシュ

今年で現役を終えるBMW M6 GT3に代わり、2022年に新G82 M4をベースとしたGT3マシンがデビューする。それに伴い、開発を終えた最終バージョンのマシンを9月にフランスのポールリカールにてFIA(世界自動車連盟)にホモロゲーションを取得するのだが、それに向けて開発テストの最終調整段階にある新M4 GT3。

2020年7月18日にロールアウト、いままでに欧州の様々なサーキットで14000㎞以上、70時間以上ものテスト走行を重ね、来年の正式デビューまでに20000㎞以上を走破する予定をしているBMW。また、開発期間がほぼ終了し、最終調整の一環で、新M4 GT3は、6月22~23日にベルギーのスパ・フランコルシャンサーキットで行われたスパ24時間耐久レース用のオフィシャルテスト日に参加。世界的に有名な『オールージュ』を2日間みっちりと走り込み、その後そのままドイツのニュルブルクリンクへと移動、6月26日開催のNLS(ニュルブルクリンク耐久シリーズ)の第4戦目にエントリーをし、いよいよノルドシュライフェでのレースデビューを飾る……はずだった。

このニュルのテストレースに乗り込むのはBMWワークスドライバーのベテラン、イエンス・クリングマンとDTM(ドイツツーリングカー選手権)にシリーズ参戦している若手ドライバーのシェルドン・ファン・デア・リンデだ。それに加え、このマシンの開発に関わった多くのエンジニア達もニュルへ集結していた。

NLSは通常ワンディ開催とあり土曜日の早朝に予選、そして正午にレーススタートとなるのだが、その前日の金曜日には希望チームのみに午前中にはグランプリコースのみ、午後はノルドシュライフェを含めたコースの走行枠が設けられている。新M4 GT3は本番へ向けてセットアップを調整すべくフリー走行枠へのエントリーをしていた。

午前中のグランプリコースの走行を無事に終え、午後16時からのノルドシュライフェの走行も精力的に行い、セットアップの確認を何度も行い、順調に周回を重ね、翌日へのレースデビューに期待を膨らませていたのだったが、そろそろ終了時刻も迫った18時30分頃に突如赤旗が降られ、フリー走行が一時中断となった。新M4 GT3の他にもプロ・アマ問わず多くのマシンがコース上を走行していたため、誰がクラッシュしたのかは不明だった。
その後、積載車の載せられた新M4 GT3がパドックへ戻ってくると、それは一目瞭然だった。運悪くも新M4 GT3は突如テクニカルトラブルに見舞われ制御不能に陥り、ガードレールへ激突するという事態になっていたのだ。ミュンヘンのファクトリーへ戻り次第すぐに原因が究明されるというが、マシンへのダメージが大きく、その場での修復が困難との事でデビューレースは一旦延期となったが、不幸中の幸いでドライバーのファン・デア・リンデは無傷である事を表明している。

2020年の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて無観客レースが長く続いていたが、折しもこのNLS第4戦目はグランプリコースの中央グランドスタンドのみ500名限定で観客導入が叶った大会だった。グランドスタンド裏にあるイベント広場『ring boulevard』に今年新たに新設されたBMW Mのショールームには、M3やM4の最新モデルの他、M TOWNのグッズ等が販売されており、入場無料で誰もが自由に見学やショッピングができる施設だ。このレースウィークには不測の事態により残念ながらレースデビューは叶わなかったが、BMWからはショールーム来場者全員にキャップやネックストラップ、応援用の旗が無料で配布されるなど、NLSで活躍する多くのBMWを応援して欲しいとの願いを込めてのファンサービスも充実していた。

現在、まだNLSのパドックには新型コロナウイルスの感染拡大防止により、関係者とごく限られたゲストのみしか入場ができない状態ではあるが、ガラスのショーケースに入った第一号車となる開発車両が展示され、誰でも見学できるよう解放された。希望者にはBMWモータースポーツの社員から車両の説明や注文方法等の説明がされており、購入に興味のあるチームやドライバー関係者がひっきりなしに訪れて、丁寧に個別対応を行っていた他、アウディスポーツのワークス幹部らも見学に訪れた際にも、一般カスタマーと同様に丁寧に車両の説明を行っていたのが印象的だった。
デリバリーの時期に関しては、現時点では明確にはしていないが、必ずしも発注順にという訳ではなく、購入したチームがどのレースに参戦するか、という活動スケジュールに準じるとの事だ。

実は2020年末に発表されたこのM4 GT3のレーシングカーのステアリングは、リアルシミュレーションゲーム用の最上級グレードのメーカーのFanatecと共同開発され、ゲーム用と実車のレーシングカーで共有でき、通常はレーシングカーとセット販売されるステアリングだが、個別の購入が可能となる事からeレーサーやゲーマーにはたまらないレーシングギアとなる事は間違いないだろう。

この新M4 GT3を目当てにニュルを訪れていたファンも多いだけに、レース本番に参戦できなかったのは非常に残念だが、ホモロゲーションを取得する前にトラブルが見付かった方は重要だったというBMW。ホモロゲーションを取得後には一切マシンの仕様変更は不可となっているだけに、現段階で不具合が見つかった事は幸運だったと言えるだろう。カスタマーチームへ安全安心な新M4 GT3をデリバリーするためにも、集中的に改善改良策を見つけ、一旦仕切り直して再びニュルへと挑戦する事となったのだが、テストレースとは単なるレースの予行演習という意味ではなく、ノルドシュライフェという世界一過酷なサーキットでの実戦を通して様々な実験測定が行われ、よりよいマシン作りに活かすのが最大の目標であり目的なのだ。

【新M4 GT3基本スペック】
全長:5020㎜
全幅:2040㎜
全高:1308㎜(可変)
ホイールベース:2917㎜
タイヤ:12.5×18インチ(フロント)、13×18インチ(リア)
エンジン:P58型 3L 直列6気筒エンジン
排気量:2993㎤
馬力:590PS以上 (197PS/L)
トランスミッション:Xtrac 6速
クラッチ:電気油圧式
価格:税抜き41500ユーロ~(2021年6月29日現在のレートで約5500万円)

フォト=Kevin Pecks、池ノ内ミドリ/M.Ikenouchi

この記事を書いた人

池ノ内 ミドリ

武蔵野音楽大学および、オーストリア国立モーツアルテウム音楽院卒業。フリーランスの演奏家を経て、ドイツ国立ミュンヘン大学へ入学。ミュンヘン大学時代にしていた広告代理店でのアルバイトがきっかけでモータースポーツの世界と出会い、異色の転身へ。DTM、ル・マン/スパ/ニュルブルクリンクの欧州三大24hレースを中心に取材・執筆・撮影を行う。趣味は愛車のオープンカーでヨーロッパのアルプスの峠をひたすら走りまくる事。蚤の市散策。

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