あまたのモデルがあるポルシェ911の中で、ターボ系のポジショニングとは?「ポルシェ911ターボSカブリオレ」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

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GTSの上というより、カレラの延長上に位置する“スーパーグランドツアラー”だ

使い古された言葉とはいえ、やはりポルシェの魅力は質実剛健なスポーツカーであるということだと思う。タイプ993までのような空冷時代はもちろん、996以降の水冷モデルは扱いやすさまで併せ持つようになったとはいえ、基本的には同じ気質。俗に言うポルシェ流の“哲学”が未だに息づいているから当然といえばそれまでなのだが、しかし最新の911ターボに関しては、質実剛健なところは受け継いでいるものの、ポジショニングに関しては“微妙”になってしまったように感じてならない。

これは、決してカレラがターボ化されたことではなく、時代によるものだろう。日常レベルで楽しむ分には、カレラで十分事足りるし、もしカレラで不満があるならGTSを選べばいい。一方、サーキット走行を目的にしたいのであればGT3やGT2もあるうえ、さらにその先にはGT3RSやGT2RSという選択まで用意されている。その中でいつの間にか911ターボは何が目的か? という素朴な疑問を抱くようになってしまったのだ。

とはいえ、最新の992型911ターボSカブリオレの試乗をはじめると、そのような疑問は強烈な加速と共に忘れさせてしまうほど、納得の連続だったのも事実。特に3000rpmを超えたあたりからの加速感はターボラグと無縁の“ドーピング的”大トルクに見舞われ、まさにワープさながらのGでドライバーを911ターボという世界へと引きずり込む。

搭載される3.8L水平対向6気筒エンジンは、ふたつのVTGターボチャージャーが備わることで、最高出力で先代モデルを70ps上回る650ps、最大トルクは50Nm増加して800Nmを発生。トランスミッションは専用の8速PDKと組み合わされる。

実際、今回の992ターボは、ターボエンジンにとって重要な冷却系のエアインテークシステムを大幅に見直し、エンジン効率を向上、タービンホイールも5mm拡大させ55mmとし、さらにコンプレッサーホイールも3mm増加の61mmまで拡大した結果、0→100km/h加速2.7秒をマーク、先代比で言うなら、わずか0.2秒短縮された程度だが、体感的なトルクは別物とも思えるほど違う。

911ターボSでは、その強化されたドライビングダイナミクスに合わせて大幅にボディサイズを拡大。エアインテークを統合する力強いリアウイングセクションはターボSの流線型ボディを強調している。ラインアップはクーペとカブリオレの2タイプだ。

無論、パワー&トルク値にもその成果が見られる。3.8L水平対向6気筒ターボエンジンの最高出力は先代から70ps増(!)の650ps、最大トルクも50Nm増して800Nmにも及び、しかもデュアルクラッチトランスミッションのPDKも7速から8速仕様に置き換えられたうえ、4WDシステムのPTM(ポルシェ・トラクション・マネージメントシステム)は最大500Nmものトルクをフロント側にデリバリーできるようになったから加速感にも現れるのだろう、ボディサイズ拡大に併せて前後トレッド幅もワイド化(フロント42mm、リア10mm)されているから尚さらだ。

アクティブフロントスポイラーと大型可変リアスポイラーなどのエアロダイナミクスシステムによってダウンフォースは15%強化。加速性能も驚異的で911ターボSでは0→100km/h加速は2.7秒、最高速度は330km/hをマークする。

中でも特に印象的なのは、コーナリング時。前途したトレッドのワイド化による効果もあって、リアアクスルステアリングが改善されたように感じる。先代はシーンによってやや不自然に思うこともあったが、今回日頃慣れたワインディングで乗ったこともあり、その違いが判明した。しかもコーナー脱出時における加速感も俊敏性が増しているし、ロール量と安定性もさらに向上しているのは間違いない。加えて、911ターボSとしてははじめて前後異径サイズのタイヤを履いている効果もありそうだ(フロント:255/35ZR20、リア:315/30ZR21)。また、冷却系の見直しによるエンジンレスポンスの違いもこの時同時に進化の跡を体感できた。試乗車のタイヤがだいぶ痛めつけられていたにも関わらず、ここまで分かるのもポルシェだけだろう、その差は歴然であった。その分、快適性を確かめるには不十分だったが、これまでの911ターボ同様、ハード過ぎず柔らかすぎない、適度な乗り心地を確保しているのは確かなはずだ。

インテリアは、フルレザーインテリアおよびカーボントリムが標準装備されスポーティな高級感を演出。シートは前後位置、高さ、座面とバックレストの角度、座面の長さ、ランバーサポートを電動で調節できる14wayのスポーツシートを採用する。

そんな驚愕の性能を知れば知るほど、“じゃ、実際どこで乗ればいいんだよ!”と心の声が叫び始める。これでは免許が何枚あっても足りないくらいで、あまりにも安定感が増しているから体感速度さえ麻痺してくる始末。このパフォーマンスを存分に楽しむにはもはやサーキットしかない。今やドイツのアウトバーンでさえ、規制が厳しくなっているから最高速アタックもままならないし、300km/h超えのハイパフォーマンスカーが多数あることからもはや最高速度に価値はないとまで言われているのも現実だ。それにここは日本、移動式オービスが日々活躍しているから油断ならない。となれば、サーキットにいくならGT3やGT2を選びたくなるため、“では911ターボが活躍できる場所ってどこ?”と思うようになってしまう。

911ターボSには、ポルシェ・セラミックコンポジット・ブレーキ(PCCB)が標準装備(911ターボはオプション)。同様のサイズのスチール製ディスクに比べ約50%の軽量化を実現している。

そう思いながら色々と考えたところ、こちらの解釈を変えたほうがいいことにたどり着いた。つまり、911ターボはGTSの上というより、カレラの延長上に位置する“スーパーグランドツアラー”だと思い直したほうが分かりやすいと。日常使いがメインで、時々サーキットも楽しみたいと思うオーナーが、カレラの性能では次第に満足できなくなって、しかしGT3やGT2ほどハードなのは望まないと思う向きには最適な存在になるということだ。一方のGTSはGT3までは必要ないと思う人に適していると思う。

カブリオレモデルは、ガラス製の固定式リアウインドーを備えた、自動開閉式のファブリック製コンバーチブルトップを装備。開閉に要する時間は、いずれも約12秒で、速度が50km/hまでであれば走行中でも開閉が可能で、電動式のウインドディフレクターも備わる。

「そんなこと分かっているわっ!」とポルシェファンは思うかもしれないが、実際に打倒ポルシェを意識して敢えてポルシェを避けて、イタリアやイギリスのスポーツカーなどを乗り継いでいる人がいるのも事実。そういう高性能主義でポルシェ処女の人からすれば、今のポルシェに興味が湧いた時、自分には何が適しているのかと考えはじめた際、イマイチ伝わりにくくなっているのが現状だ。しかも、他車も含めればいずれのスポーツカーもスペックだけでは判断できないくらい、様々なキャラクターが出揃っている。フェラーリのように見た目からしてまったく違うことが分かればそんな必要もないのだが、ポルシェの場合は“質実剛健”という中身で勝負しているところに意味をもたせているから、かえって迷わせてしまう。

そういえば……。今回の試乗車、見ればおわかりのようにカブリオレである。このようなオープンボディでも強靭なシャシー剛性を誇ることは今さら説明はいらないと思うが、ルーフを閉じている時はカブリオレであることすら忘れさせる場面があったと付け加えたい。天候や環境がよければこの上ない爽快感を味わえるのは言うまでもないが、カブリオレでもサーキットに耐える性能を維持していることを敢えて最後に記しておこう。

【Specification】ポルシェ 911 ターボS カブリオレ
■車両本体価格(税込)=32,350,000円
■全長×全幅×全高=4535×1900×1301mm
■ホイールベース=2450mm
■トレッド=(前)1583、(後)1600mm
■車両重量=1710kg
■乗車定員=4名
■エンジン種類=水平対向6DOHC24V+ツインターボ
■内径×行径=102.0×76.4mm
■総排気量=3745cc
■最高出力=650ps(478kW)/6750rpm
■最大トルク=800Nm(81.6kg-m)/2500-4000rpm
■燃料タンク容量=67L(プレミアム)
■燃費(WLTC)=13.1km/L
■トランスミッショッン形式=8速DCT
■サスペンション形式=(前)ストラット/コイル、(後)マルチリンク/コイル
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤ(ホイール)=(前)255/35ZR20、(後)315/30R21

公式ページ https://www.porsche.com/japan/jp/models/911/911-turbo-models/911-turbo-s-cabriolet/

フォト=宮門秀行/H.Miyakado

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

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野口優
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2021/06/22 15:00

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