乗り心地とハンドリングをハイレベルで両立したサスセッティングに完璧にノックアウトされた……。「マクラーレン720S」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

野口優
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2021/06/08 12:00

“跳ね馬”や“猛牛”も旧式に感じさせるほど洗練されているハンドリング特性

マクラーレンは、スーパースポーツカー界にとっては新参者だ。しかし、これほど秀逸な完成度を見せるブランドはないと、いつも乗る度に思い知らされる。その中でも720Sは、マクラーレンの本質を知るには最適な存在だろう。ミッドシップ・スポーツとはいえ、その仕上がりと位置づけはかなり絶妙だからだ。

720Sは、マクラーレンがラインアップする中でもスーパーシリーズに属するモデル。他にGTシリーズ(といってもマクラーレンGTのみ)、レガシーシリーズ(570や540の他に600&675LTなども含まれる)、そしてアルティメットシリーズ(エルヴァやスピードテールなどスペシャルモデル)と分けられているが、そのスーパーシリーズにはつい先日、今後マクラーレンの中核を担うであろう、ハイブリッドモデルのアルトゥーラが発表されたから、この720Sは純・内燃機関エンジンを搭載するピュアな1台と言っても差し支えない。

トレードマークでもあるディヘドラルドアはヒンジ位置を見直し、全開時に必要な横方向のスペースが従来比で155㎜少なくなった。

即ち、新世代へと移行する寸前のモデルと認識すべきで、今こそ敢えて乗っておいたほうがいいと思い、この連載で取り上げることにした。

マクラーレン、最大の特徴は基本骨格のカーボンモノコック“モノケージⅡ”にある。2009年からスタートしたマクラーレン・オートモーティブは設立以来、一貫してカーボンモノコックを使用し(ゴードン・マレーが手掛けたマクラーレンF1はマクラーレン・カーズ時代で、今のオートモーティブとは別組織)、処女作“MP4-12C”から続けてきたその進化版がこのモノケージⅡにあたるのだが、720Sにはじめて乗った時、このモノケージⅡが成し得た軽量&高剛性のほかに、室内スペースの拡大や日常ではしなやかな動きを示すサスペンション・セッティングの妙技に完璧にノックアウトされたのを覚えている。

エンジンもしかり。V8ツインターボユニットは、それまでの3.8L仕様から4.0L改め、しかも41%ものパーツを刷新までして改良したこともあるだけに、レスポンスが鋭くパンチ力がありながらも低回転域での扱いやすさが際立つ。今回、再確認する意味でも久々に720Sのステアリングを握り、一般道から高速道、そしてワインディングまで存分に走りまくってみたが、やはり最初の衝撃は今でも味わえた。

ツインターボが付加されたV8エンジンは650Sや675LTの3.8Lから4Lへと排気量を拡大されたことにより、最高出力は車名の由来にもなっている720ps、最大トルクは770Nmへと大幅に増強。0→100㎞/h加速は2.9秒と凄まじい加速を披露する。

特にミリ単位で反応するエンジンレスポンスに対してハンドリングとのバランスが絶妙。舵角の設定がとにかく見事で、クイックすぎず遅すぎないという、攻めるには文句なしにドライバーの感性に応える。おそらくこのハンドリング特性を得るまで、相当研究を重ねたことが予想されるほどで、マクラーレンの真髄をここだけでも味わえる。事実上のライバルとなる“跳ね馬”や“猛牛”も個性もしくは狙いが随所に見られるとはいえ、720Sのハンドリグ特性を一度でも知ってしまうと、それらは旧式に思えるほどだ。それほど洗練されているというか、秀逸なのである。

それに加えて、マクラーレン独自のプロアクティブ・シャシー・コントロール=PCCの進化版となるPCCⅡの働きが優秀であること。従来のようなアンチロールバーは使用せず、その代わりダンパーの油圧を電子制御によって綿密にコントロールするというのがPCCの特徴だが、PCCⅡになって新たに4輪すべてのホイールにセンサーを追加したことで、さらに理想的な姿勢をみせるようになった。特に旋回中など、確かにダンパーが硬くなっていることは分かるのだが、不思議なくらい乗り心地は悪くなく、それでいて常にフラットな姿勢を保つ。しかもどの速度域でもほぼ同様の印象なのが、かえって恐ろしくなるくらいだ。

ラゲッジスペースはフロントフード内に140L、コクピット後方に210Lの容量を確保。カーボンセラミックディスクが標準装備されるブレーキシステムは曙ブレーキ製だ。

だから意外にも構えず、普通に使えてしまう。“特別な日に”と思って手に入れても、ポルシェ911カレラや911ターボあたりと同じような感覚で付き合えるだろう。720ps&770Nmを発するV8ツインターボも、スポーツモードやトラックモードの場合は驚愕なパフォーマンスを見せるが、ノーマルモードであればマナーよく控えめにしている。こうしたメリハリのある設定も好感がもてる点だ。サーキットから街乗りまで、そしてロングドライブにも使うには、マクラーレンのラインアップ中もっともこの720Sが適していると思う。

カーボンとアルカンターラ素材で構成されるコクピットは、これまでのモデルの基本意匠を継承つつ、スイッチ類のデザインを一新。シャシーとパワートレインのモード切替スイッチはコンソールからダッシュセンターへと移動されている。新シャシーの採用により、室内スペースも拡大。可倒式のメータークラスターは右写真から順に「コンフォート」「スポーツ」「トラック(非格納時)」「トラック(格納時」と変化する演出が施されている。

その他にも語れる要素はいくらでもあるのがマクラーレンだが、最後に敢えてひとつ強調したいのは、すべてカーボンモノコックありき、であるということ。カーボンモノコックはとかく高価になりがちではあるが、それよりも乗り心地や耐振動、室内における共鳴音など快適性を確保するのがコスト面も含めて困難だったことから、他メーカーのほとんどが避けていたというのが実情だ。それを見事にクリア、完全にネガティブな部分を払拭することに成功している。不快感のないカーボンモノコックを実現した唯一のメーカーと言えるだろう。

こちらは720Sに備わるエアロボディの数々。ボンネット上を通過した空気はドア内からエンジンルームへ。ヘッドライト下側はブレーキ冷却用のエアインテーク。ブレーキング時にせり出すエアロブレーキも装備。テールエンドにはエアアウトレットが備わる。

今後はこの高い技術力をつかって、2022年までに半数のモデルをハイブリッド化することを公表しているが、これまでの功績を見ていると、我々の期待を裏切ることはないだろう。今やピュアなスポーツカーを造り続けているのはマクラーレンのみ、SUVは絶対に造らないとまで加えている。本当にそれで続けられるのか不安もあるが、個人的にはピュアであり続けてほしいと願っている……。

【Specification】マクラーレン720S
■車両本体価格(税込)=31,800,000円
■全長×全幅×全高=4543×2059×1196mm
■ホイールベース=2670mm
■車両重量=1419kg
■エンジン種類=V8DOHC32V+ツインターボ
■内径×行径=83.0×92.0mm
■総排気量=3994cc
■最高出力=720ps(537kW)/7500rpm
■最大トルク=770Nm(71.4kg-m)/5500rpm
■燃料タンク容量=75L(プレミアム)
■トランスミッショッン形式=7速DCT
■サスペンション形式=(前)Wウイッシュボーン/コイル、(後)Wウイッシュボーン/コイル
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤ(ホイール)=(前)245/35R19(9J)、(後)305/30R20(11J)
公式サイト https://cars.mclaren.com/jp-ja/super-series/720s

フォト=宮門秀行/H.Miyakado

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

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