ある意味究極に悩ましい選択!? ポルシェ911カレラ×718ケイマンGT4【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

野口優
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2021/01/29 12:00

ポルシェ911のエントリーモデル「カレラ」とケイマンのトップグレード「GT4」の”差”とは?

高性能スポーツモデルが賑やかな昨今、以前から続くパワー競争は今でも継続されているものの、このところは一息つき、どちらかと言えば隙間を埋めるかのようにマーケティング主導による細分化が目立つように感じる。特にドイツ勢のそれらは実に激しい。大きく分ければ、メルセデスなら従来モデル→AMGライン→AMG、BMWで言えば従来型→Mパフォーマンス→Mといったように、パワー=価格帯と比例したグレード設定で展開されている。

2019年7月に、911シリーズのエントリーグレードとして導入されたいわゆる”素のカレラ”。911元来の性能が味わえることで依然として評価が高いモデルだ。

無論、これは市場のニーズから生まれたものでもあるのだが、生粋のスポーツカーメーカーとして生を受けたポルシェも例外ではないから複雑に思うことも少なくない。ちょっと前までは、911カレラ→911ターボ→911GT2&GT3と明確な差が見られたが、今ではその間にSやGTSが加わり、さらに選択肢が多くなっているどころか、弟分のボクスター&ケイマンにも同様のアプローチが見られるから、同ブランド内でのヒエラルキーに考えさせられることが多い。

一方で718ケイマンGT4は、2019年6月に発表され7月から受注を開始。MRレイアウトを採用することで、コーナリング性能に優れるケイマンの素性を活かしつつ、一層スポーティに仕上げられたモデルだ。

その一例こそ今回の企画「911カレラ」対「718ケイマンGT4」の2台。今さら言うまでもないが、911カレラはいわゆるシリーズ中のベーシックモデル、対する718ケイマンGT4はFIA GT4規格に準じたコンペティションモデル(サーキット専用車もあり)のロードカー仕様でサーキット直系となるヴァイザッハの手によるシリーズトップモデルだ。

718ケイマンGT4では、大型のエアインテークやリアスポイラー等、スポーティなテイストが盛り込まれているのが外観の特徴だ。

こう記すと、パフォーマンス至上主義のポルシェ好きならケイマンGT4を選びたくなるだろう。価格帯と重ねてみても実際そうだ。911カレラは1398万円、718ケイマンGT4は1293万円という設定。さらにパワー&トルク値は前車で385ps&450Nm、後車は420ps&420Nmと、いずれも重ねると718ケイマンGT4の方がお得感が強い。ましてやポルシェ未経験の方なら911シリーズのRR(リアエンジン&リア駆動)にまだ不安を覚える人もいるかもしれない。その点、ケイマンならミッドシップ、しかもGT4は911譲りの6気筒エンジンをミッドシップに搭載するから走行性能と車両安定性を考えたら断然718ケイマンGT4を選びたくなるはずだ。

ステアリングをはじめ、トリムやシートなど各所にアルカンターラがあしらわれるコクピット。リアのラゲッジスペース270Lの容量を確保している。

今回、両モデルのステアリングを握って、日頃慣れた箱根界隈を走ってみても、確かに718ケイマンGT4には惹かれるものがあったのは事実。現行型911カレラ用のフラット6エンジンからターボを取り除き(911GT3用エンジンがベースではない)、ボア×ストローク値を102×81.5mmに変更、排気量を3995ccに設定しているうえ、完全高回転型にしているから胸のすくような加速感が味わえるだけでなく、俊敏なエンジンレスポンスのおかげで、乗っている間は高揚感にもおそわれ、興奮状態に陥る。

トランスミッションは導入当初こそ6速MTのみであったが、後に7速PDKも追加投入されている。

しかも試乗車はストローク量が短いショートシフト仕様の6速マニュアル。GT3までとはいかないものの、レーシングマシンさながらのエンジンレスポンスのおかげで回転落ちが早いから素早いシフトを要求されるが、それでもさすがはポルシェ、相変わらず瞬時の変速が可能で、俗に言う“稲妻シフト”を決めやすいとあって、クルマとの対話がすこぶる楽しい。

ワインディングでは卓越したハンドリング性能を披露する718ケイマンGT4。ホイールは20インチの5ツインスポークデザインで、試乗車にはオプションのPCCB(ポルシェセラミックコンポジッドブレーキ)が装着されていた。

コーナリングスピードに関しても“体感的”には相当だ。ハイパフォーマンスGTシャシーと称するそれは、30mmローダウン化された影響も手伝いロール量は抑えられ、ミッドシップレイアウトと相まって地を這うようにコーナーをクリアしていく。インフォメーション性にも優れ、ライントレース性も見事というほかないから、公道では真価を味わいにくく、自ずとノーズをサーキットへと向かわせたくなる。セラミックコンポジットロータ―をもつブレーキシステムの効きもサーキット走行を想定しているだけに、尚さらそう思わせるのだろう。まさに公道でレーシングマシンを乗っている感覚だ。それが、たまらなく面白い!

それに対して911カレラは、ひと言で表するなら、とにかく落ち着きをも感じるGTスポーツといった印象だ。しかし、スポーツモードやスポーツ・プラスなどにドライブモードを一度移行するとさらに俊敏性が増し、完全なるリアルスポーツカーになるから実に奥が深い。かねてからそういったところが見られたとはいえ、992型になってからさらに磨きがかけられたような秀逸な正常進化の姿が体感できる。

しかも今やRRの悪いクセなどは完全に払拭され、極めて素直な挙動を示すだけに全体的に扱いやすく、911のセオリー通り、コーナリング時はちょっとクリップを奥にとって狙えば素早く旋回する。さらにコーナー脱出時においては、トラクションこそ要! というように瞬時に立ち上がっていくからRRの真髄を知ることができるとあって、ポルシェの本質を垣間見られるのが面白く、クセになる。

水平基調のデザインとされた911カレラのコクピット。液晶メーターに大型化されたディスプレイ等、最新のインフォテイメントシステムが採用されたほか、ACCをはじめとする運転支援機能も用意される。ヘッドレスト一体式シートはサイドサポート性も良好だ。

こう伝えてしまうと、両車ともコンセプト通りと言えるのだが、実のところ“速さ”自体はそれほど変わらない。公表されたデータを見ても、911カレラで0→100km/h加速は4.0秒(スポーツ・プラス時)、718ケイマンGT4は4.4秒と記されている。最高速度こそ911カレラの293km/hよりも304km/hと718ケイマンGT4の方が速いが、少なくとも体感的にはコンセプトの違いによるフィーリングの差で、オーナーがメインステージに何を望むかで決められると言えるだろう。

だが、個人的に決定的に感じたのは、リアサスペンションの違い。718ケイマンGT4はモータースポーツからフィードバックされた超完成度の高いストラット、対する911カレラはマルチリンク式。走りに熟知している方なら察すると思うが、やはりマルチリンクの恩恵は大きく、普段は上質で、しかも乗り心地が良いうえ、攻め込んでも期待に応えてくれるだけの器の大きさがあるだけに守備範囲が広いのが特徴。718ケイマンGT4のストラットは400ps超えに対応するだけでも驚異的な完成度を誇ると言えるが、安定感や信頼性に関してはそれでもマルチリンクには及ばない。

3Lのフラット6ユニットは最高出力385ps、最大トルク450Nmを発生。メーターの液晶部分にはタイヤの空気圧やリアルタイムの前後横G、走行モードやストップウォッチなど、様々な情報を表示することが可能だ。ホイールはオプションの前20インチ、後21インチのRSスパイダーデザインが装着されていた。

もちろん、これはどちらが良いかという結論ではない。筆者が言いたいのは、やはり911はポルシェの代名詞的存在となるだけあり、いつの時代でも、どのシーンでも絶対に期待を裏切らないという、もはやポルシェの意地と宿命すら感じるということ。それがリアサスに現れる差だ。街乗りからサーキットまでこなしてしまうのは911の絶対条件で、ケイマンは例え安価な設定でもポルシェの高い技術力をもってすればチューニング次第で如何にでも仕上げられることを示しているように感じた。つまり、基本設計は911の方が断然高く、ケイマンはGT4といってもあくまでも弟分という位置づけを走りからも察することが出来るということである。

エントリーの911と、トップグレードとなるケイマンの差。価格差や性能差だけにとらわれず、コンセプトやフィーリング面でもきっちりと仕上げてくるのはポルシェだから成せる技だろう。今回この2台を乗り比べて、つくづく感心させられた次第だ。ちなみに筆者なら、大体8割公道、2割サーキットで楽しみたいから、この“素”の911カレラを選ぶと思う。その逆、もしくはサーキット率を多く取りたいなら718ケイマンGT4のほうが満足度は高いはずだ。ただし、普段の乗り心地は、そこそこ覚悟が必要かもしれないが……。それだけ911カレラは、素であっても速くて快適、そしてポルシェの本気を味わえるということである。

【Specification】ポルシェ718ケイマンGT4
■全長×全幅×全高=4455×1825×1270mm
■ホイールベース=2484mm
■トレッド=前1540、後1535mm
■車両重量=1495kg
■エンジン種類=水平対向6DOHC24V
■内径×行径=102.0×81.5mm
■総排気量=3995cc
■圧縮比=13.0
■最高出力=420ps(309kW)/7600rpm
■最大トルク=420Nm(42.8kg-m)/5000-6800rpm
■燃料タンク容量=64L(プレミアム)
■トランスミッション形式=6速MT
■サスペンション形式=前後ストラット/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前245/35ZR20(8.5J)、後295/30ZR20(11J)
■車両本体価格(税込)=12,370,000円

【SPECIFICATION】ポルシェ911カレラ
■全長×全幅×全高=4519×1852×1298mm
■ホイールベース=2450mm
■トレッド=前1591、後1557mm
■車両重量=1505kg
■エンジン種類=水平対向6気筒DOHC24V
■内径×行程=91.0×76.4mm
■総排気量=2981cc
■圧縮比=9.5
■最高出力=385ps(283kW)/6500rpm
■最大トルク=450Nm(45.9㎏-m)/1950-5000rpm
■燃料タンク容量=64L(プレミアム)
■ミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=前ストラット/コイル、後マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前235/40 ZR 19(8.5J)、後295/35 ZR 20(11.5J)
■車両本体価格(税込)=13,980,000円

フォト=宮門秀行/H.Miyakado

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

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