【大矢アキオの イタリアでcosì così でいこう!】祝・トヨタがローマ教皇にFCVのミライを寄贈。次の一手はコレだ?

Così così(コジコジ)とはイタリア語で「まあまあ」のこと。この国の人々がよく口にする表現である。毎日のなかで出会ったもの・シアワセに感じたもの・マジメに考えたことを、在住24年の筆者の視点で綴ってゆく。

続いたメルセデス一強時代

日本では2020年12月9日、燃料電池車トヨタ・ミライの新型が発売された。いっぽうイタリアでは、初代ミライをベースにしたローマ教皇専用車がバチカンの教皇庁に寄贈された。10月7日のことだった。

引き渡し式は、教皇の住居「ドムス・サンクタエ・マルタエ」近くで行われ、日本カトリック司教協議会の和田誠神父、岡田誠司 在バチカン日本国特命全権大使、トヨタ・モーター・ヨーロッパのミゲル・フォンセカ上級副社長、トヨタ・モーター・イタリアのマウロ・カルッチョ最高経営責任者(CEO)をなど6人の代表団が参加した。

今回寄贈されたミライは、2019年11月に行われたフランシスコ教皇来日の際、トヨタ自動車が特製した2台のうちの1台。すでに日本カトリック司教協議会に寄贈されていた。スリムなLEDライトによるルーフ照明はハイテク感を醸し出している。同時に、乗降部にせり出すステップと手すりは、日本ブランドならではの“おもてなし感”を見る者に連想させる。

ローマ教皇庁に寄贈されたトヨタ・ミライ。全長はベース車両(4.89m)よりも長い5.1m、追加されたルーフを含む全高は2.7mである。ルーフにはLEDランプが輝く。左右のバチカン旗は、歴代教皇車のなかでは珍しく後方、フロントウィンドー近くに設置されている。

リアフェンダー上に掲げられているのは、フランシスコ現教皇の紋章。

巧みにせり出す収納式の赤絨毯ステップ&手すりが、他の教皇車以上に細やかな心遣いを感じさせる。いっぽう、ドア内張りは意外にシンプル。

今回はそれにちなんで、ローマ教皇車(パーパモビル)のお話を少々。

ローマ教皇の専用車(広義のパーパモビル)を語るのに、筆者は以下の4つに大別できる。

1 : ヴァチカンのサン・ピエトロ広場における一般参賀用の車両(狭義のパーパモビル)
  ただし、毎日曜に行われる主日ミサでは、教皇は窓から説教を行うので使わない。
2 : 主にイタリア国内の移動に用いる車両
3 : 外国で現地での移動(空港・滞在都市間等)に使用する車両
4 : 外国で一般参賀に用いる車両(狭義のパーパモビル)。
今回寄贈されたミライも、2019年の日本で、この用途だった。

いずれの場合も、教皇が乗る車両には一部の例外はあるが「SCV 1」のナンバープレートが装着される。形態としては購入、メーカーや教会関係からの寄贈のほか、とくに3や4は使用後メーカーが博物館に保存といったケースもみられる。

バチカンの博物館によると、「教皇御輿(移動式玉座)」や「馬車」時代のあと、初めて自動車を実際に使用した教皇はピウス11世(在位1922-1939年)である。車両はビアンキ社製のティーポ15であったという。参考までビアンキは、今日ロードバイクで知られる、同名のブランドと同じルーツである。

その後いくつかの車種が用いられるが、第二次大戦後もっともローマ教皇車を語るとき、いちばんイメージが強いブランドといえば、メルセデス・ベンツであろう。
なかでも600プルマンのランドーレットだ。1965年にパオロ6世に納入されたものだが、最も世界のテレビカメラに捉えられたのは、2代後のヨハネ・パウロ2世の時代であろう。“空飛ぶ教皇”の異名をもつ彼が、積極的に各地の訪問を行ったためだ。

実はこのヨハネ・パオロ2世時代にも、上述の1、3、4では他ブランドが使われている。

1980年11月、ヨハネ・パウロ2世のドイツ訪問時に使用されたメルセデス・ベンツG230。現在はシュットゥットガルトのメルセデス・ベンツ博物館蔵。

1983年ヨハネ・パウロ2世のミラノ訪問時に造られたアルファ・ロメオ・アルファ6。伊アレーゼのアルファ・ロメオ歴史博物館蔵。

教皇用のアルファ6は装甲仕様で、自動車電話、防火設備も搭載していた。。運転席側ドアの黒点は、実は特別なキーの鍵穴である。

フランス訪問時に使用された1988年プジョー504ピックアップ。ソショーのプジョー博物館「ミュゼ・ドゥ・アヴァンチュール・プジョー」蔵。

しかし1981年5月、バチカンのサン・ピエトロ広場において1973年フィアット・カンパニョーラに乗っていた教皇の暗殺未遂事件が発生すると、ミサ用に防弾ガラス付きのメルセデス・ベンツGクラスが多用されるようになった。それによって、教皇車=メルセデスの印象はさらに定着した。

それは次のベネディクト16世(在位2005-2013年)のときも同様で、先代から受け継いだMLクラスや新造されたGクラスが用いられている。

1988年、ヨハネ・パウロ2世がマラネッロのフェラーリ本社工場を訪ねたとき。メーカーが用意したモンディアルで登場して話題を呼んだ。

いすゞからランボまで

そうした“メルセデス・ベンツ一強”ともいえる状態に風穴があいたのは、フランシスコ現教皇が就任した2013年であろう。

フランシスコ教皇は、就任当時から聖職者に質素と倹約を訴えてきた。腕時計でさえも、カシオのいわゆる“チプカシ”である。
自動車に関しても、それを実践している。近距離移動用に選んだのはフォード・フォーカスであった。モデルからして最低でも13年落ちである。後席だけでなく、助手席に乗る姿も報道されている。

外国訪問時の移動用も変わってきた。たとえば、就任早々訪れたブラジルではフィアットのミニバンであるイデアが、同年9月米国では同じフィアットの500Lが使われた。
2014年の韓国では教皇の「最も小さなクルマを」との希望を反映してキア・ソウルが選ばれている。

フィアット・イデア・ブラジル仕様車のノーマル仕様。

海外の一般参賀用も、ポピュラーブランド志向となった。
翌2015年1月のフィリピンや同年11月のイタリア・フィレンツェ訪問では、いすゞD-Maxが、2019年のモーリシャスでは日産ナヴァラが使われている。

参考までに、フランシスコ教皇とクルマといえば、こんな企画もあった。2017年11月、ランボルギーニが「ウラカンRWDクーペ」の特別仕様を教皇に寄贈した。このランボは当初計画どおり、教皇のサインと祝福の儀式を経て、翌2018年5月に催されたRMオークションに供された。最終的に71万5千ユーロでハンマープライスとなり、収益金はチャリティに回された。

2017年、ウラカンRWDクーペにサインするフランシスコ現教皇。

目指せ!史上最小の教皇車

そのフランシスコ教皇が倹約と同時に訴えているのが、環境への対応だ。
2015年のフランシスコ教皇による回勅(教皇が世界の司教・信者に向けて発するメッセージ)では、生活スタイルを変え、人類共通の家である地球を守ることを訴えた。
冒頭で紹介した燃料電池車ミライも、そうした教皇の姿勢と合致するものとして、トヨタはアピールしている。

そのトヨタに関していえば、教皇車との縁は意外に深い。その始まりは1975年で、ランドクルーザー(BJ40型)がサン・ピエトロ広場での一般参賀用に使われている。
フランシスコ現教皇になってからも、2015年にケニアでハイラックス、2017年にミャンマーでマークⅡ(同モデルの最後である9代目)に乗っているのが確認できる。

ルノーのサブブランド、ダチアも寄贈。2019年11月、ルノーからダチア・ダスターがフランシスコ現教皇に。

ダチア・ダスターのパーパモビル。SUVブームは教皇にも?

ただし、筆者が思うにトヨタは安心してはならない。これからも質素と環境への配慮を、いわばキーワードに、教皇への車両寄贈は続くとみられる。
ちなみに2015年9月には、当時すでに31年落ちだった1984年式・走行30万キロの「ルノー4」がヴェローナの聖職者から贈られている。
いっぽうこちらは想像に過ぎないが、ダイムラーがリベンジを図って、すでにメルセデス・ベンツ・コレクションにある電動キックスケーターあたりを寄贈するかもしれない。

スマートのパーパモビル登場…と思いきや。ドイツ・バイエルン州のGHVというチューナーによるジョークである。2016年、ハンブルクにて撮影。

トヨタでまともに考えれば、次は2019年東京モーターショーで公開された「超小型EV」あたりだろう。
だが、筆者が思いついた最も手っ取り早く、かつ喜ばれそうなトヨタ系のクルマを教えよう。それは「ダイハツ・ハイゼットトラック」である。
イタリアには1992年から「ピアッジョ・ポーター」という商用車があって、ベースは当時提携関係にあったダイハツの7代目ハイゼットである。ヨーロッパにおいて極めて稀な車型あることから商用車市場で熱い支持を獲得。生産開始後28年が経過した今日でも、派生型がピサ県ポンテデラで造り続けられている。

その最新モデルといえる現行ハイゼット・トラックで一般参賀用パーパモビルを製作するのだ。訪問地への事前運搬も簡単だから、新興国に強いダイハツでメディア露出の機会が増える。路地が狭いヨーロッパの中世都市でもスイスイ。舗装が悪い国でも4WDで心配なし。そして、なにしろ「史上最小の教皇車」のタイトルを獲得できるではないか。

ピアッジョ社のポーター。その始まりは、ダイハツ・ハイゼットである。

文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
写真 Akio Lorenzo OYA、Dacia、FCA、Ferrari、Lamborghini、Piaggio、Toyota Motor Italia、Toyota(GB)

この記事を書いた人

大矢アキオ

イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを学び、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK「ラジオ深夜便」の現地リポーターも今日まで20年にわたり務めている。著書・訳書多数。近著は『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)。

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